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2006年2月26日

相次ぐ「不審な情報」

※今日発信した調査会ニュースに書いたものです。

[調査会NEWS 345](18.2.26)■相次ぐ「不審な情報」

 今度は田口八重子さんの拉致にまで辛光洙が関わっていたとの話が出てきました。その前は、辛光洙の配下で動いた工作員が79年に東京で辛光洙に会っていたとの報道で、これはソウル地裁の判決文にある76年9月〜80年3月に平壌で密封教育を受けていたという内容を否定する情報として流されました。

 これまでにも何度か書いてきましたが、昨年末以来報道されてきた辛光洙と「朴」に関わる情報は極めて怪しげなものばかりです。配下の工作員が辛光洙に会ったという情報も、このことに詳しい(その工作員に直接会ったことある)人物は「絶対にありえない」と否定しています。

 下司の勘ぐりと言われるかも知れませんが、これまでの経緯や昨今の情報からあらためて想像すると、私は次のようなことが行われているのではないかと感じています。
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 横田めぐみさんか誰か、拉致被害者を北朝鮮が返す。その代わり日本側は拉致事件の実行犯を辛光洙や「朴」らに限定する。それによって拉致事件の進展を印象づけるとともに、北朝鮮による主権侵害という、拉致事件の本質を隠す。これは北朝鮮の犯罪行為を過小に見せるとともに、日本政府の不作為も隠すことになる。あるいはこのとき裏でカネが動くのかも知れない。

 そして、一部の被害者が帰国した場合、4年前と同じようにマスコミは帰国した人だけを追い回すことになる。国民の関心も帰国した人だけに注がれるために、それが家族会の被害者であれば家族会を分断し、運動自体にブレーキをかけることができる。当然「小泉政権はよくやったではないか」という世論が起きるため、第2次小泉訪朝のときの「家族会バッシング」のように、それを不満とする人たちは家族であろうが一般の支援者であろうが分断され、帰国できた人以外の全ての拉致被害者のことがそれによって事実上棚上げされる。
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 「誰か被害者を返して」というのはついこの間思いついたことなのですが、こう考えると色々なことがつながります。しかし、こういうことが動いているのだとすれば、表面上を繕って本質を覆い隠そうとするものであり、到底許されるべきことではありません。辛光洙や「朴」がスーパーマンのごとく何でもやるなどということはありえない、そんなことは北朝鮮のやってきたことをある程度体系的に見ていれば誰にでも分かるはずのことです。

 今月の月刊『文藝春秋』に元安企部捜査官の高洙吉氏が「辛光洙『取調べ捜査官』独占手記」と題して書いていますが、高氏は辛光洙に限らず安企部が日本の捜査当局に自分たちの得た日本人拉致の情報はすべて提供したが、捜査当局は拉致に非常に懐疑的だったと書いています。この種の話は私自身他の人からも聞いていますし、一方で日本の警察でも現場に行けば、かつて拉致と思われる事件を上にあげたら握り潰されたという話を聞いたのは一度や二度ではありません。

 また9.17第1次小泉訪朝の折、政府は家族に「5人生存、8人死亡」という情報を確定情報として伝えました。そして、マスコミへのリークなどを行い、「死亡」を既成事実化しようとしました。また、一昨年3月に特定失踪者山本美保さんの件について山梨県警が発表した「山形の漂着遺体とDNAが一致した」との発表も、その後出てくる遺体の体格や遺留品などの情報は、どう考えても別人の遺体であるのに、警察は「山本美保が自殺した」という理由を探すのには熱心でも、疑問を解くような事実は一つも発表していません。その二つのことに直接関わった唯一の人間として、私は国家権力というものを無批判かつ思考停止状態で信じるのはいかなる時代でも危険だと、体験を通して実感しています。

 ともかく、この問題は明確な主権侵害であり、現在のような事件捜査と外交交渉、そして裏取引だけでは絶対に拉致被害者をとりかえすことはできません。解決とは全被害者の帰還であり、それ以外の一切の妥協はすべきでありません。ここで妥協をすれば、現在の被害者の問題に留まらず、日本の安全自体が危機に瀕することになります。「改革」をするなら、まさにこの部分こそが改革すべきことです。

 全然別の話ですが、先の大戦で、昭和17年6月のミッドウェー海戦での敗北を隠してしまったことは、大きな過ちでした。それまで日本軍は比較的正確にこちらの損害も伝えていたといいますが、ミッドウェーでの大敗北に驚いた海軍首脳は、これを徹底して隠蔽します。「国民の士気に影響する」とかいう理由をつけたのでしょうが、それ以上に、責任の大きさの余り、誰もその責任を負おうとしなかったことが最大の原因だと思います。陸軍も、トップは知っていたのですが、普段喧嘩をしている割にこういうときは口をつぐんでしまいました。

 そして一つの嘘はまた次の嘘で覆い隠さねばならず、またその嘘は次の嘘で隠さねばならなくなります。その結果があの敗戦です。もちろん、戦時中ですからどんな国でも情報統制は行われますし、そもそも「歴史のイフ」と言ってしまえばそれまでですが、あのとき日本のおかれた状況を、ある程度でも国民が共有できていたら、その後の選択ももっと違ったものになっていたのではないかと悔やまれます。私は拉致問題に関する政府の不作為も同様のものがあったと思っているのですが、昨年末からの報道を見ていると、このミッドウェーの敗戦後とフラッシュバックしてくるのです。杞憂であって欲しいとは思いますが。

 僭越ながら、このニュースを読んでいるジャーナリストの方々に切にお願いします。垂れ流されるリーク情報だけを無批判に報道することは、ジャーナリズムの自殺行為です。それが私たちにとって有利な情報か、不利な情報かはどうでもいいことです。あるいは明らかになることで私たちが否定されることがあるかも知れません。しかし、真実を追究していれば大きな過ちは避けることができるはずです。ジャーナリストの皆さんが自分の目で見、歩いて掴んだ情報をしっかり精査するという当たり前のことを、もういちど原点に戻ってやっていただきたいと思います。先人が血のにじむ努力をして築き上げ、そしてまた次の世代に渡していかなければならない、日本を、この自由な社会を守るために。

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2006年2月17日

講演会

 戦略情報研究所では下記の講演会を計画しております。2月4日から8日まで行われた日朝協議でも明らかなように、経済制裁も含めて、力の行使なき拉致問題の解決、そして私たちの安全や平和の確保はありません。今回の講演会は各方面で注目を集めていますが、さまざまな意味で一つの転機になるものと思っています。奮ってご参加下さい。

2月24日(金) 18:30〜

講師:佐藤守・元空将(空軍少将)
 「自衛隊による拉致被害者救出のシミュレーション」
参加費 2000円
(戦略情報研究所会員の方は講演会参加券がご利用になれます。参加券がない場合は一般参加費を頂戴します)
○予約等はありません。直接会場においで下さい。
○会場:UIゼンセン会館2階会議室(千代田区九段南4-8-16 tel03-3288-3549)
 ※市ケ谷駅下車3分 日本棋院斜向い (地図は下記をご覧下さい)。
http://www.uizensen.or.jp/doc/uizensen/access.html
チラシ(PDF)は以下からダウンロードできます
「sato.pdf」をダウンロード

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