前回のパート1に引き続き、
3Dベア・ナックルII配信記念として、
ベア・ナックルII当時の情報をお届けしてまいりたいと思います。
今回は、先日誕生日を迎えすっかり40を越えたのにも関わらず
誕生日プレゼントにほしいのは「ガールズモード3」という
弊社のデザイナー古代彩乃にインタビューしてみました。
当時はアートディレクターでもあまりインタビューに応えるようなことは少なかった時代ですので、
いろいろとレアな話や、当時の空気感なんかを感じて貰えればと期待いたします。
その前に、登場人物紹介
 | 古代彩乃 エインシャント創設時より在籍する古株デザイナー 社長古代祐三の妹。最近遊んでるゲームは「モンスターストライク」 |
 | 和田 誠 まもって騎士とか作ってる人。社内のなんでも屋。 今回のインタビュアー |
それでは、いってみましょう!
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○ベア・ナックルIIで彩乃さんの担当されたところを教えてください。
では、よろしくお願いします!
まずは、彩乃さんの担当ってどこだったんですか?

担当したところ? グラフィックチーフ(グラフィック管理者)でしょ。
あと、今でいえばアートディレクション(全体的な表現の方向性を決める)みたいなやつ、
あとやったことといえばキャラクターデザイン。それからキャラクターの技をざっと考えるの、全部。

技? それはプランナーからザックリした指示があって?

いや、それもこっちで考えた。パラメータの設定は専任の企画者がいるんだけど、
でもだいたいの強さみたいなのは、あたしがザックリ書くの。
ジャブは1で、ストレートは2で、おっきいのは3で、みたいに。
マックスとサミー関しては、新キャラだからお兄さん(古代祐三)と相談して決めていったの。

じゃマックスとサミーの二人は何もないところから
彩乃さんがデザインしたということ?

そうそう。

プランナーサイドからはその辺のアイデアってなかったんだ…。面白いね。

うん、昔ながらの作り方なんだよ。

絵が優先なんだね。見た目重視というかね。

うん、見た目というか、流れがあるじゃん。
スト2やってたでしょ、お兄さんもあたしも。
好きで、筐体も買って、会社に置いてやってて。
もうお約束みたいのができてるんだよね。
二人の間で共有化された世界観ができてる。
ジャブ2発の後はストレートで、次は大技がきて、
それで敵が吹き飛ぶというのはお約束としてあるから。
そういうのは、もうツメる必要がない。
あとどういうのがあったら面白い?というのがあって、
スタンダードなアクセルに、スピード型のブレイズがあって、
で一作目だったらアダムていうのがいたんだけど、
それだと特徴が出ないから…(笑)。だから、そこは削って(笑)。

あぁ、アダムを消したのは彩乃さんだったんだ

うん、消した(笑)
どういう流れかは忘れたけど、セガさんの許可はもちろんあった上だったと思う。

言いだしっぺは彩乃さん?

ん~どちらともなく…私じゃないかもしれないけど、
まぁ、同時ぐらいに? いらないよね? だよねって話になった。

もっと別なキャラを入れたい、ということだよね

そうそう、同じ労力を掛けるんだったらね。
それに続編だから目新しさもほしいじゃん。
キャラはデカくしないといけないし、キャラも大きく動かさないといけないし。
それなら違うキャラにした方が手っ取り早いよね、と。
だからアダムは横に置いておいて。
うん、だからストーリーも後付けだよね。
いなくなったんだったら、じゃそれを助けに行く話でいいんじゃない? みたいな。
で、その弟でサミーを入れたじゃん。
サミーは小回りの利く、トリッキー型。ちょっとクセのある。
このゲームを遊びなれた人が使いたくなるような。
で…マックスか。パワー型。お兄さん投げキャラ好きじゃん。
使いにくいんだけど、決まると一発で終わるようなキャラ。
でスタンダードなのが2人で、バランスもいいね、と。
キャラの方向性が決まると、技の方向性も自然に決まってくるでしょ。
アクセルとブレイズはスタンダード型だから、まぁ無難に固めて。
で、サミーは色物系の技で固める。
マックスは投げ系、っていうとプロレス技で決まっちゃう。
技表作って、技を当てはめていく感じで。
ほとんど私が考えてた。
そこに技のバリエーションが入れられそうな操作方法を考えて、
当時の流行ってた対戦格ゲーのニュアンスを汲んで当てはめていった。

ボタン押しっぱなしにしてから離すと、キックがビビっと出たりね。
あの辺も彩乃さんが考えたの?

そうそう。その辺で皆で雑談してる中で固まっていって、
その場で書きとめていった。で、そのままGoみたいな(笑)
あの頃は自分がやりたいこと入れてけば良かったから楽だったよね。

でもスケジュールはきつかったんじゃないの? 半年ぐらいって聞いたことあるけど?

うん。でも企画書とか一週間も掛かってないと思うよ。
ベア1が終わった辺りだったんじゃないかな?
半年? そのぐらいだったかな?

エインシャントにとっては初のメガドラでしょ? 解析からってなると大変でしょう

うん、大丈夫だった。たぶんプログラマが優秀だったんじゃないのかな?(笑)

メガドラ経験者だったとか?

いや、初めてだったと思う。
当時のプログラマは優秀な人は飛びぬけて優秀だったから。
協力してくれた外部の方々も優秀な人が多かったしね。
ウッチーさん(内村語さん。ベアIIを始め、トア、バトルバなどエインシャント初期からのメインプランナー)
もその時から参加してくれて。当時はまだエインシャントの社員じゃなかったけどね。
私が絵と企画で、仕様は外に振ってた感じだった。

彩乃さんはデザイナー兼プランナーなんだ。

そうかも。セガさんとFAXでやりとりしたり、打ち合わせや窓口もやってたし。
格ゲーにハマりつつ、ベアII作りつつみたいな感じだった。
時代は対戦格闘に流れていったから、あの要素を入れたかったんだよね。
あのバラエティに富んだ空気を。
だから本当はバーサスモードをもっと大きく入れたかった。
時間なかったからできなかったけど、
技のバリエーションは持たせたかった。

技のバリエーションないと、バーサスモードは白熱しませんもんね。

そうそう。そんな気持ちだったような気がする。

当時は社員何人いたんですか?

どうだろ? 常駐していたのは、
あたしとお兄さんとプログラマ一人、もう一人いたかな?
後半からはデザイナは少し増えたけど、
後は全部外部スタッフだった。
全体では10人ぐらいかな?
20年前だからねぇ…たぶんそんな感じ。
○ベア・ナックルIIを作るにあたって一番挑戦したかったことって何ですか?
一番やりたかったのは、やっぱ対戦格闘ゲームの要素を入れたかった、ていうのはもちろんとして…。
当時のスーパーファミコンのゲームとかそうなんだけど、
ステージがめまぐるしく変化するんだよね。
ステージにどれだけ要素を詰め込むかが勝負所! というね。
ベア2は斜めスクロールも入れて、
仕掛けも1面にかならず1個は大きい奴を入れて…というテーマがあった。

なるほど。1面はどんな仕掛けがありましたっけ?

1面は最初だから、いきなり大きい仕掛けは入れずに、
斜めスクロールあるよとか、さらっとした内容だったと思う。
2面はバイクとか、3面は海賊船とかエイリアン風なヤツとか。
その辺のセンスで一番影響を受けたのは魂斗羅シリーズだったかな。
ステージごとに「おぉ!」となるところを一つは入れてストーリー性を持たせる。
語らないけど、流れで話がなんとなく見えてくるような。

企画書見て初めて知ったんですけど、ちゃんと途中にもストーリーがあったんですね。
待ち伏せされたとか、罠だった! とか書いてあって。
遊んでる時は全然わからなかったですが(笑)

だよね~(笑)
あのゲームは当時身内で流行ってた物が全部入ってるんだよ。
ジャックっているじゃん。ナイフの。
ジャックがナイフはわかるとして、色違いがビーノなんだよね。
あれは当時豆のおかしでジャックとビーノがうちらで流行ってて。
そこから取った(笑)

むちゃくちゃだ(笑)スタッフの名前も入ってたよね?

そう。それはトアの時もそうだったけど、伝統的に入れてるの。
スタッフがかならずどこかにいる。
まずどのキャラになりたいかって皆で決めて。
トアの時はプログラマがネズミになりたいって言ってて、
自分のキャラだけ凝ったところに入れたりしてた(笑)
まもって騎士でも入れれば良かったね。
名前入れるスペースはなかったか…。
殴って名前でる系は入れてたんだよね。
○ベア・ナックルIIでなくなった要素がいくつかありますが、 その中で彩乃さんが関与した要素はありますか?≪アダムがプレイヤーキャラから外される!≫
これは彩乃さんが犯人でしたね(笑)

まぁ、いなくなったわけじゃないし。最後出てくるしね。
流れとしてね(笑)
≪こしょうが消えた!≫
あぁ! あった。やられと、こう「ポゥ!」となる奴ね。
なんでなくなったんだろう? 面倒くさかったからじゃない?(笑)

まぁ、あまり効果的な使い方ができる要素ではなかったですもんね…。

持たせられなかったのかな? 鉄パイプ、バットにナイフとビンとかあったから。

ビン良かったですよね。割れるところが。

そうそう。ビンは最初は殴りモーションで、
割れるとナイフモーションになる、という違いがある。
鉄パイプは振りかぶったときにもヒット判定があったりしてね。

あった、あった! あれは誰が考えたの?

あれは、流れでそうなった。
データの入れ込みでテストプレイするじゃん。
入れては変え、変えては試すというね。
それを皆で和気あいあいとやってて。
そのテンポが早くて楽しいの。
で、当たり判定がこの辺にあったらいいかな? とかエディタで付けたりしてみて。
やってみたら「パッコーーーン!」と(笑)
音も相まってスゴイ笑えて。いいね!みたいな(笑)
≪どこでもパトカー&バズーカがなくなった!≫
あれは斜めスクロールになったから、
無理だよねってなった。代わりにワンボタン必殺技にした。

でも、そういう理由がなくてもなくしてたでしょ?

たぶんね。そこは前作の目玉としてやったから。
今回はもっと別の、危機回避技にした。

なるほど。でも見た目はそっちの方が地味ですよね?
パトカーに比べたら。

そうなんだけど、自分で考えて解決できる方が楽しいから。
シューティングでもボムで解決するより、
地味でも工夫しがいのある要素がある方が好きだった。

キャラの違いもでますしね。
○今だから言える、開発中の大事件とかありますか?
大事件? なんかあったんだよ…。すごい不条理なことが!
セガさんに泣きながら、凄い怒って電話を掛けたことがあったんだよ。
最後の方だったと思うんだけど。
たぶん期限とかクオリティとかそういうことだったんだと思う。
ほんと泣きながら交渉した記憶がある。

その泣くっていうのは、勘弁して~という意味の泣きじゃなくて、
エグッエグッみたいな本気泣き?

いや、なんかもう、怒りすぎて泣いた。
ほんと腹立って。でもなんで腹立ったか全然覚えてない(笑)

で、結局それは解決したんですか?

うん。そこまでやって理解してもらった。
それだけ真剣だったんだよ。
すごい入れ込んで作ってるから。
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少し補足しますと、エインシャントは設立から現在まで、
何度もセガさんとお仕事をしてきました。
そのためエインシャントにとってのセガさんは、
育てていただいた親戚の叔父さんのような(ちょっと失礼な言い方かもしれませんが…)、
そんな身近な存在として見ているきらいがあります。
文中に当時の担当者様と電話で口論をしたという場面があり、
誤解を招きかねないためカットも検討しました。
しかし、双方の本気がぶつかり合ったからこそ、
お互いの信頼関係に繋がり、それがベア・ナックルIIを生み、
今に至るまでたくさんの方に愛されるゲームとなりました。
敢えてカットしなかったのは、そうした当時の熱を感じていただきたかったからです。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
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○今だから言える、開発中に一番腹が立ったことってなんですか?
前の話と丸かぶりだ…。

う~ん、腹が立ったことしかない(笑)
外注に頼んだ敵キャラのドット絵のクオリティがアレだった(笑)
何度か修整してもらったんだけど…
どうにもうまく伝わらなくて…結局自分で打ちなおしたりね。
背景も自分で直したものがあった。
でも仲井さん(仲井さとしさん。ジノーグ他、カルドセプトのカードイラストなど)の背景はうまかった。
船の中の、パイプとか錆の感じとか。あの色数でよく表現できるなぁと驚いた。
○ベア・ナックルIIといえばグランナッパー!始め豊富な技が特徴的ですが、 一番好きな、又は思い出深い技はなんですか?
好きな技? 全部好きだな。サミーのは工夫してるから好きかな。
投げ技(せっかん)とか。ローラーブレードとか履いてたりして。
そうそう。ベアナックルって当時の流行を入れるのが伝統なのかな?と思ってた。
ランバダとか(笑)
最初ローラースケートにしようと思ったんだけど、
ローラーブレードっていうのが流行ってるって聞いて。
インターネットなんてないじゃん、当時は。だから雑誌とか買って、切り抜いて、
コピーして貼って、プレゼンして、ていうね。

技も自分で考えていたから、全部に思い入れがあるんですね。

うん。変な使い方ができるようにするのが楽しかったな。
マックスも変な所に判定が入ってる技が多くて、
チョップの肘当たりにあったりして。

作ってる時はイマイチかな?と思う技も入れてみると気持ちよくなったりしますよね。

そうそう、そんな感じ。ヒットウェイトとかも皆で調整して。

みんな?

その場で集まった人たちでね。
雑談しながら、その場でプログラマが入れ込んでくれるの。
そういう作り方が一番いい物ができると思う。
シンプルだからできるのかもしれないけど、
今のゲームだとやり直しのコストが高いから。
それと、最近の仕事だと全体像が見えないよね。
この頃のは仕様からプログラムの概要もみんなが把握してた。
みんなでまもって騎士とかもそんな感じだったでしょ?
傍から見てて、作ってて楽しそうだなぁと思った。

そうですねぇ。楽しいと、時間を忘れていつまでも作り続けちゃうんですよね。
○ベア・ナックルIIにはたくさんの敵キャラがいますが、一番好きな、又は思い出深い敵は誰ですか?
なんだろ? いっぱい作ったから覚えてない。
なんか女の子を殴るという表現が、海外ではマズいという話とかあったような?
ベアIIではそういうことはなかったんだよね。
でも、最後のミスターXは座ってるときにタバコを吸ってたけど、
海外版では吸ってないかもしれない。
このゲームの話じゃないかもしれないけど、
宗教がらみは大変だった。窓枠が十字架に見えるとか、
その前で敵がたむろしてるのは止めてくださいとか…。
敵キャラのアイデアは動きから入ってて、
普通のザコに、トリッキーなヤツ、耐久型とか、
そんな感じで穴を埋めていく感じで考えていったかな。

その中で、なんかフェイバリットなヤツはいないんですか?

なんだろ? 最後のカンフーのヤツ?
黒くて、プレイヤーキャラに匹敵する技を持つライバルみたいなね。
で、美形。骨法で最強の用心棒っていうね。
当時は皆、少年チャンピオンが好きで。
バキとか覚悟のススメにハマってて。その辺の影響は大きかった。
マンガネタは多いね。スピリッツネタとか。
○ベア・ナックルIIでボツになった要素の中から、思い出深い物はありますか?
ステージは120%ぐらいのアイデアを出して、90%ぐらいにダウンサイジングしてるので、
ボツは結構あったかも。

車が突っ込んできて壊れるとか企画書にあったよね

あれはあったんじゃない? ん? なかったかも…。
ジャックのところだよね。

キャラのボツはないんですか?

ないんじゃないかなぁ? むしろ増やしていった感じだった。

メモリは結構余裕あったんですか?

うん。組み込み時間と描く時間があればもっと入ったと思う。
入れられるだけ入れたね。
たぶん、(セガさんに)泣きついたのは締切の話だったんじゃないかな?
ここで打ち切っちゃうと中途半端になっちゃうから。

当時彩乃さんは当時いくつだったんですか?

22歳ぐらい? だったと思う。
だってありが(ありがひとしさん。マンガ家、古代彩乃の夫。バトルバキャラクターデザイン他、多くのエインシャント開発タイトルに関わる)が当時10代だったもん。
確か全然手が足りなくて、無理やり斉藤さん(LA斉藤こと、斉藤智晴さん。カルドセプトのクリーチャー、美食戦隊薔薇野郎など)が連れてきてくれたんだと思う。
当時別の会社で、別の仕事してて。あっちが終わってからこっち来て。
ドット打って夜中に帰るの(笑)

可哀そうじゃないですか(笑)

でも、昔はそのぐらい当たり前だったんだよ。
やりたいからやってて、やらされてるわけではないから。
今のブラックとは違うから。

好きでやってるんだね。

そうそう、それをブラックって言われたら心外っていうね。
ありがもこっち来て自分の絵をボロクソに言われたから、
こっちの方が身になると思ったらしい。

へぇ~

だから好きで通ってたよ。
向こうでも格闘ゲーム作ってたから、
指示も楽だったしね。
そこはあんな感じ~という適当な指示でも
だいたいイメージ通りの物が上がって来るから。
で、そのまま来ちゃったから、和田くんに指示がわかりにくいって怒られるんだよね。

(笑)
私とありがさんは一つしか年齢が違わないけど、
通ってきた道が全然違いますからね。
私は23~24ぐらいでゲーム業界に来てそれまでは別業界でしたが、
ありがさんは10代でゲーム業界にいましたから。勝手が違うんでしょうね。

ありがが物分り良すぎた。
同じ物を見てきた阿吽の呼吸みたいのがあるよね。
見てきた物が同じで、行動範囲も同じだったみたいなの。
後からわかったんだけど。
八王子のゲーセンでノートに書きこんだりとか、
その辺の知り合いや話題もかぶってんのよ。
んん。まぁありがの話はどうでもいいんだよ。

でも、ありがさんもベア・ナックルIIを語る上では外せない方でしょう。

まぁね。
○ベア・ナックルシリーズは愉快なボイスも人気の秘密ですが、何か心に残るエピソードとかありますか?
愉快(笑)
その辺はお兄さんに聞いて。異常父さんとか(笑)

収録は開発とは別の場所でやってたんですか?

うん。ここ(本社。開発は別の場所で行っていました)。建て替える前の古い家で。
友達とか女の子とか呼んで、ブレイズの声を叫ばせてたりとか(笑)

あ、あれは祐三さんの女友達の声だったんだ。
どこかで一人は男友達にやってもらったけど、
それ以外は祐三さんがやってるって書いてあったような気がした。

違う。ブレイズは違ったと思う。
その場は見てないけど。

ボイス入ると急に賑やかになって嬉しくなかったですか?

あぁ、うん。
あ、でも、どっちかっていうとヒット音が入った時が嬉しかった。
急に重みが出るじゃん。
当時のひょうきん族でさぁ、殴るときにいい音するんだよね。
ビシッっていう。
あれが大好きで、お兄さんもあたしも。
笑えるし、気持ちいいしで。
ヒット音は拘ってたね。
○ベア・ナックルIIはエインシャントにとって初めてのメガドライブ開発でしたが、 彩乃さんにとってメガドライブでの開発はどんな印象でしたか?
始めてって言っても、GGソニックやってたから、
ゲームギアとそんなに変わんないんだよ。
基本スペックは違うけど、構成が(他のハードに比べて)似てる。

あぁ、そうなんだ。
パレットの本数が違って、処理速度とメモリが違うとか。

そうそう。

メガドラだと16色パレット4本じゃないですか。
それだと色違いの敵って最大でも4体でしょ?
実際にはそういう使い方はしないと思いますが。
その辺どうしてたんですか?

2本がキャラ用で、2本が背景用。
1本目の左側黒と白は固定でとか自分でルール作ってて。
キャラは1本目で作るの。
2本目が色違い用。
※背景用パレットでキャラを描くと、
キャラが背景に溶け込んでしまうため別のパレットを使います。
1本目と2本目はある程度互換性があり、
入れ替えると色違いのキャラが作れる、というイメージです。

じゃあ、色違いは2種しかでてこない?

うん、そうじゃないかな?

ファミコンとか色違いばっかりじゃないですか。

ファミコンはパレットいっぱいあるよね。

メガドラでは色違いのキャラが作りにくいんだ。

うん、そうだね。作りにくかった。

でも、ザコの色違いは2種類以上ありましたよね?
背中見せた人イエローシグナルかな? あの辺って紫とか緑とか黄色とか。
ステージでパレット変えてたのかな?

あぁ、そうかも。
○(開発者として)メガドライブで一番ほしかった機能はなんですか?
半透明!

やっぱそうだよね…。

加算と半透明。スーパーファミコンがその辺できたから。
幸い縦長ドットだったから、メッシュにしてね…。
うん。だから、最初ソニック見た時は衝撃的だった。
どうやってるんだ?って、よく見たら、あぁ…ていう(笑)
ほんと、ソニックの水はきれいだった。
※ソニック・ザ・ヘッジホッグ:1~3面の滝はメッシュで表現され、
まるで半透明のように背後が透けて見え、
当時のメガドライバーや開発者を驚かせた

拡大縮小や回転よりも半透明なんだ

拡大縮小はねぇ。

CPUで頑張ってたよね(笑)

うん。でも、あんまりキレイじゃないから好きじゃなかった。
ベクターデータみたいに綺麗な線が出せるわけじゃないし。

色数はほしいと思わなかったんですか?
64色じゃ少ないなぁとか。

ほしいけど、なんとかなったから。
半透明はなんとかならなかったから(笑)
(色数などの制限は)ファミコンからの進化の過程で、どんどん良くなっていったので、
そんなに気にならなかった。

半透明はスーパーファミコンにあったからほしいなぁ、と。

うん。でもスーパーファミコンでの開発の方がどっちかっていうと嫌だったかも。
ドットがでかくて。発色もあんまり好きじゃなかったんだよね。
メガドラの方が好きだった。なんかしっくりくる。
スーパーファミコンはなんかモッサりする。
○(開発者として)メガドライブで一番好きだったところはどんなところですか?
ドットが細かいところ。あと速い。キビキビしてる。
プログラマに言わせるとそんなに違いないのかもしれないけど、
体感的に速い感じだった。軽い印象だった。
○当時メガドライブのゲームで強く影響を受けたタイトルはなんですか?
ミッキーマウスに、ソニック1、ザ・スーパー忍とかかなぁ?。
スーパーファミコンよりもでかいキャラが動く印象があるんだよね。
ダイナミックな感じで。

スーパーファミコンはでかいキャラを扱うのが重かったんですか?

処理の問題じゃなくて、
画面が狭い感じがした。
実際解像度が低くて、デカいキャラを動かすと収まらなくて、
すぐ画面外に出ちゃう。

あぁ、キャラ数でいうとメガドラが横40で、
スーパーファミコンは32ですね。
キャラ数で考えると2割少ないってことか。
同じ感覚で描くと、画面が小さく感じるってわけですね。

そうそう。スーパーファミコンだとすぐ埋まっちゃう。
それはそれで、いいんだけどね(笑)
○当時、独自に開発したテクニックで一番エキサイティングな技はなんですか?
う~ん。パレット構成は独自に考案したかな?
なんでも描けるパレットというのが1本あって、
だいたいそれで描ける。少しずつ調整していって、それが秘伝のタレみたいな(笑)
あと2本が背景用で、もう1本が可変で。
そのなんでも描けるパレットで、文字、主人公に、エフェクトと全部描いちゃう。
もう1本が色替え用(色違いのためのパレット)でね。
○ベア・ナックルIVを好き勝手に作っていいと言われたら、どんなゲームにしてみたいですか?
4?(笑)

彩乃さんに全部任せますって言われたら(笑)

えぇマジで? どうしようパズルになったら(笑)

(笑)いいんじゃないですか、好き放題言って(笑)

パズル…ないわぁ~
あぁ、今だったら皆でできるヤツがいい。
MOぐらいで5人ぐらいで、全員でノシノシ歩いて。

この類のゲームって皆移動速度同じじゃん
ネットゲームだと一人が先行くと追いつけないよね。

だから、一人だとタコ殴りになるから。
ギャング対ギャングみたいな。
敵もいっぱい自分たちもいっぱいみたいな。

キャラクターは?

もちろん萌えキャラなんていないよ。
おっさんと、お兄さん。

あとは筋肉と。

そう筋肉と、筋肉と筋肉(笑)。

誰が買うんですか?(笑)

あたし(笑)
いや、でも一周廻ってそういうのが好きな人が出てきてるって。
もうなんでもかんでも幼女とかさぁ。ああいうんじゃなくて。
もう普通に。

まぁ、ベア・ナックルだったら皆もその方が納得してくれるだろうね。

そうそう。そこで幼女とか出したらイカンと思う。

ベア・ナックルですからね。素手ですからね。

うん。熊じゃないから。

シナリオは?

アクセルを助けにいくとか(笑)
シナリオは何でもいいんだ。ゾンビでも(笑)

ハードウェアは?

パソコンか、3DS?
3DSでだそうよ「みんなでベアナックル」(笑)

タイトルからしてダメな匂いが出てますよ(笑)
キャラがSDでしょ? それ、絶対
第一うちのタイトルじゃないんですから、ダメでしょう(笑)

ダメ?
○ゲームギア・メガドライブ・ファミコン・スーパーファミコン・PC-9801(などの当時のパソコン)・MSX・PCエンジンと彩乃さんは当時のいろんなハードでの開発経験がありますが、ぶっちゃけどのハードが一番作ってて楽しかったですか?
あ、どれだろ?
でも、メガドラは楽しいよ。
できそうでできないぐらいが丁度いいよね。
仕事おっきくならないから(笑)

あぁ、全体が見渡せるレベルで、その中で最上位機種って感じ?

そうそう! できすぎると、やり過ぎちゃうから、
終わりが見えないのと、皆の期待値が高いから…。
自分の技術じゃそこまで追いつかない!
いまのPlayStation4とか、すごい3Dモデル作れって言われたら、
すごいの作らないといけないじゃん。作れないもん。

作るだけでお腹いっぱいというか、力尽きちゃうのね

うん。ゲームに至らない。

だからこその分業なんでしょうけど。

分業するとまとまらないしね。
奇跡的にまとまったら神ゲーになりそうだけど。
○逆に一番キツく感じたのはどのハードですか?
PCエンジン。

なんで? (スプライトの)反転がないから?

そう(笑)
それだけ。
※上記の件について、当時古代が参加していたプロジェクト固有の仕様のようです。
岩崎啓眞さまよりツイッターでコメントをいただきました。PCエンジン版イースI・II、凄ノ王伝説の開発などが有名ですね。ありがとうございました。

メモリ食いそうですもんね。メモリいっぱいあるんですか?

いや、ないと思う。

PCエンジンは妙にゲーセンと同じぐらいの絵ができそうな感じがしますよね

そうそう! 期待値が高い。パレットはいっぱいあったんだよ。
パレットチェンジで別の文字になるように作ってあったりしてたのは笑った。

1キャラで2文字表現できる、みたいな感じですか?

そうそう(笑)

プログラマがビット演算とかで自動生成してくれるならいいけど…

いや…手打ちだった(笑)

他には?

ゲームギアかな?
画面小さいから(笑)
スクロールするとすぐ敵にぶつかる(笑)

しかも、作ったのソニックですからね…。
速く動くなっていってるようなもんですから(笑)

色も(16色パレットが)2パレットしかなかったしね。
たぶんマスターシステムもそうなんじゃないかな?

マスターシステムにしても、頑張れば結構できる感じじゃないですか

そうそう。そういう頑張りがいがあるのはいいよね。
アイデアが試せる軽いフットワークとか。

ファミコンとかどうでした?

絵を描くのは大変だったけど、
少ない絵で、少ない色で描いても、
ファミコンってああだから、誰もそれ以上には期待しないし…。
そんなでもなかったかなぁ。

MSXもやってたんだっけ?

うん。YS1のMSX2版。絵だけやった。
ショップの絵とか、当時好きだったバーズテイルの影響が出てると思う。
光とか影の入れ方とか。MSX2は色がいっぱい使えるのがいいよね。
○ベア・ナックルIIから20年以上が経過していますが、当時のゲーム開発と今と一番違うのはなんだと思いますか?
人数(笑)。昔のが家内制手工業だったらさ、今は車業界みたい感じ。

工場だよね

うん。自分がどこを作ってるかは知ってても、
それがどういう風になっていくかはよくわからない。
それだけ市場が成熟したっていうか、
おっきくなったんだなぁと。
自分一人じゃなんもコントロールできない、っていう(笑)。
こん時はまだ一人の意見でかなり変わるからね。
売りとかあまり考えないしね。考えてもストレートに考えてたじゃん。
見た目がスゴイとか。
今だとターゲットがこうだから、とかマーケッティングとか考えないといけない。

当時はそれでもユーザーが受け入れてくれたからね
技術的な挑戦も楽しみの一つとしていたし

成長期だったからね。だから何出しても新しいと感じられたから。
今は難しいよね。そこが一番違うんじゃない?
でも、それで一巡してこういうのがインディーズで出たりして、
若い子にとって新鮮に受け入れられたりしてね。
○また、当時のゲーム開発で好きだったのはどんなところですか?
自分でコントロールできるところかな。

デザイナーの領分超えていろいろと意見を出しあえてね。

うん。クライアントも変にコントロールしようとしないしね。
週に1回来てもらって、ゲームを遊んでもらって、ちゃんと話し合って。
メールとかないから、直接会って顔付き合わせてね。
その分、今よりもわかってもらってたと思う。
仕様を一緒に睨めっこして、実際に触って、ていうのをちゃんとやれてたから。
それは良かったと思う。

メールだと情報が絶えず入って来て、わかった気分になるけど、
実際はわかってないこと多いですよね。

あとスタッフの一体感かな? 今と昔では。
社内で和気あいあいとやってね。
プランナーとのやりとりはFAXだったけど、
毎日FAXがガンガン流れてきた。
今ならスカイプでやりとりするようなこともFAXでね。
もう残してないけど、当時は全部ファイリングしてあった。

マメですよね。仕様書類もよく残しましたよね。

一生懸命作ってたからさ。
今だとファイルはパソコンの中にあるからと思うと放置しちゃって。
で、そのうちどこか行っちゃうんだけど(笑)
当時はファイリングして手元に残してた。
どこに何があるかよくわかって。そこは良かった。
だから企画書もすごく丁寧に作るんだよ。
皆で顔付き合わせてやる。何回もやり直しできないから。
夜も遅くまでやってて、24時ぐらいになって皆で夜食を食べに行って、
帰ってきてまた仕事して。それが楽しかった。嫌っていう感覚はなかった。
でも太った(笑)

20代前半で太るってよっぽどですね(笑)
でも、熱い時代の息吹は感じます。
平均年齢20代前半の若者たちが半年掛けて情熱を注ぎこみ、
時に笑い、怒り、泣き…そうしてできたゲームだったわけですね。
では、そんな感じで締めさせてもらいます。
長々とありがとうございました!

はいはい(笑)
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いかがでしたでしょうか?
皆さんにとってのベア・ナックルIIとは、
まったく異なる世界が広がっていたことと思います。
かつて、ゲーム制作がまだ職業というよりも、
前人未到の地への挑戦のような…そんな熱い時代がありました。
そこでは、皆が一丸となって情熱を注ぎ、
気持ちをストレートにぶつけ合い、
新しいことに挑戦し続けていました。
時代は変わり、ゲーム制作の現場は変化しましたが、
常に新しいことへ挑戦しようという想いは変わっていません。
変わったことで失った何かはあるかもしれませんが、
私達にできる何かに挑戦し続け、
いつの日か、ベア・ナックルIIを超える名作と評していただけるような、
そんなゲームを目指してエインシャントは邁進していきたいと考えています。
エインシャント 和田 誠
※仲井さとしさんの名前が古い表記だったため修正いたしました。お詫び申し上げます。