「プレパッケージ型」法的整理で東電の再生を図れ。 | たまき雄一郎ブログ

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先日決定された東電の賠償スキームについては、様々な意見が出ているが、私自身、このスキームについては思うところが多々あり、党内のプロジェクト・チームでも累次にわたって意見を申し上げてきた。


既に、関係閣僚会合で決定されてはいるが、国会でも厳しい論戦が行われると予想されることから、今後の建設的な議論の一助になればと思い、私なりの考えを以下に申し述べたい。



1.「プレパッケージ型」法的整理で処理すべき


 13日に決定された東電の賠償スキームは、会社更生法などの法的整理を避け、いわば裁量的処理によって上場を維持するスキームとなっている。しかし、東電が実質的に債務超過であることは明白であり、そうした企業を無理に上場させて支払能力を確保させるよりも、一旦、法的整理を経ることで、東電の賠償責任を法的責任の範囲に限定し、それを超える部分について全面的に国が責任を負うとする方が、各ステークホルダーの予測可能性も高まるし、何より原賠法16条の趣旨に合致すると考える。


 これに対し、東電を法的整理で処理すれば、賠償請求債権が社債に対して劣後しているため、被害者が十分な補償を受けられなくなるとの意見をよく聞くが、法的に東電の支払い能力を超える部分については、まさに国が責任をもって補償するとの立法・予算措置を講じれば、被害者の賠償には何の支障も生じない。つまり、法的整理だけではカバーされない権利の取扱いなどについて、事前に様々な調整を行ったうえで法的整理を申請する、いわゆる「プレパッケージ型」の法的整理スキームを採用すれば、法的整理の明確性と、裁量的(私的)整理の柔軟性の両方のメリットを享受できる。


 そもそも、現在のスキームのままでは、野党をはじめ関係者の合意を得るために相当の時間と手間を要すると思われる。その間にマーケットに不安が広がれば、結果として、「意図せざる」法的整理に至る可能性も否定できない。その時の各ステークホルダーの損失は、「プレパッケージ型」法的整理とは比べものにならないほど大きくなるであろう。



2.我が国資本市場への信認を維持すべき


 東電は、5月20日に決算発表を行ったが、賠償債務を計上しないことで、形式上、債務超過を回避するような手口は、とても適正な会計処理とは思えない。また、1トン2億円で20万トンにも及ぶと言われている汚染水処理の支払債務なども計上されていない。こんなことでは、投資判断に必要な情報を十分に開示しているとは言えず、監査証明を出す監査法人は、訴訟も覚悟すべきである。市場開設者としての東京証券取引所も責任を問われるであろう。


 銀行債権や社債市場を守るとの美名の下に、本来、最も守らなければならない我が国資本市場の“integrity”(公正性)を毀損することになれば、将来に大きな禍根を残すことになる。海外投資家の日本市場を見る目は一層厳しくなるだろうし、邦人企業でも国内での上場を廃止するところが出てくるかもしれない。監査法人や東証には、市場の番人としての矜持が問われている。



3.電力会社に課される「負担金」の位置付けが不明確


 他の電力会社への負担転嫁の仕組にも大いに問題がある。東電も含めた電力各社(原発のない沖縄は除かれる見込み)に支払いが求められる「負担金」の法的位置付けについて、政府は明確な説明をしていない。一部の官僚は「相互扶助的」仕組だと説明しているが、説明の中身がどうあれ、「すでに発生した」事故への対応に、「これから発生する」事故に備えるための資金を充てることには無理がある。住専処理の際に行われたような勘定間の資金流用が、十数年後に行われる可能性が高い。


 加えて、そもそも、現在の原賠法自体が、保険的な仕組になっており(1サイト1,200億円までの保険)、それが不十分だとするなら、既存の制度を拡充すべきであって、新たな「保険的な」制度を上乗せすべきではない。また、原賠法第六条では、「原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(民間及び国との保険契約)を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。」とされており、もし、現在の原賠法に基づく賠償措置(いざというときの備え)が不十分だと言うなら、電力各社は原子炉の運転をしてはならないことになる。


 仮に、電力各社に負担を求めるのであれば、電源開発促進税等の増税で行うのが筋だと考える。もちろん、電促税の増税も料金値上げにつながるが、その際には、今回のような賠償コストや再処理のコストも踏まえた「真の原子力発電のコスト」を再計算し、値上げの理由と必要性を国民に対して丁寧に説明すべきである。



4.総括原価方式に基づき、「負担金」が全て電気料金に転嫁される


 現行スキームでは、賠償に必要な追加資金は、基本的に全て電気料金に転嫁して賄う仕組になっており、「財政」負担は極小化されるが、「国民」負担は極めて大きくなる可能性が高い。党内のワーキングチームにおいて、私は、この点を数度にわたって指摘し、閣僚会議決定の文章は修正されることになったが、財務省の庭先だけきれいにするような「財政負担の極小化」を目指すのではなく、あくまで、電気料金への転嫁も含めた「国民負担の極小化」を図るスキームを目指すべきである。


 というのも、電気料金は、「総括原価方式」という方式で決定されており、「適正なコスト」に「公正な報酬」を載せて決定する仕組となっているが、地域独占ゆえに、安易な「負担金」の料金転嫁が行われる可能性が高い。実際、スキーム決定の文案には、「負担金は、事業コストから支払を行う。」と明記されており、仮に、この文章が、「負担金」は全て事業コストであり、そのまま電力料金に上乗せできることを認めるものだとすれば、電気料金の大幅値上げは避けられない。特に、規制料金が適用される家庭用や50kw以下の中小企業にしわ寄せがくる。


 私から、この文章の修正も求めたが、叶わなかった。



5.エネルギー特会の見直しを徹底的に行うべき


 今回のスキームでは、当面、国から「真水の」財政支援は行われないことになっているが、電気料金を上げたり増税する前に、まずは、既存の予算の見直しを行うべきである。とりわけ、電源促進税を原資としたエネルギー特会の電促勘定(約3300億円)の見直しは徹底的に行うべきである。従来どおり原子力政策を推進することを前提に編成された23年度当初予算は、1次補正においても全く修正されていない。


 加えて、核燃料サイクル事業の見直しにも踏み込むのであれば、もんじゅ関連予算(毎年100億円以上)や、(財)原環センターに積み立てられた2兆円を越える積立金も賠償に回すことができる。(ただし、中間貯蔵や直接処分のコストが増える可能性がある点には留意が必要。)



6.現状維持を助長し、イノベーションを阻害する


 今回の賠償スキームには、残念ながら、今後、我が国の電力供給のあり方をどうしていくのかという中長期的視点が欠けている。東電の上場を維持しながら長期間にわたって賠償資金を捻出する現在のスキームは、短期的には、マーケットに混乱を与えず、また、財政負担も最小に抑えられる優れた仕組のように見えるが、それは同時に、東電を中心とした現在の電力供給の枠組を長期に固定させる仕組でもある。世界的にエネルギー政策の転換が進んでいる中で、電力事業者のイノベーションを阻害するような仕組を採用すべきではなく、そもそも、賠償金を払い続けるためだけに存在するような会社で、社員の士気が上がるはずもない。


 むしろ、今後のエネルギー政策の転換も見据え、安価で安定的な電力供給を担う魅力的な企業として東電を生まれ変わらせるべきである。具体的には、まず、上記プレパッケージ型の法的整理スキームで処理を行ったうえで、東電を一時国有化する。そして、福島第一原発関連の資産や負債(賠償債務も含む)を東電から切り離し、新たに設立する独立行政法人原子力損害賠償機構(仮)に引き継ぐ。同時に、残った会社については、徹底したデューディリジェンスに基づくリストラと経営ガバナンスの強化を求めたうえで、新しい電力会社として再生させる。その間、発送電分離の議論を深め、必要と判断された場合には、発電会社と送電会社に分割したうえで再上場させ、その上場益を(独)原子力損害賠償機構に繰り入れ、賠償金の支払いに充てる。


 このスキームのメリットは、新会社の企業価値を高めれば高めるほど上場価値が高まり、結果として、国の負担を軽減できることである。つまり、新会社におけるイノベーションの促進と、国庫負担の軽減という二つの政策目的を矛盾なく達成できるのである。



7.関連法案や予算の成立が遅れ、速やかな支払いが阻害される


 与党内からも様々な意見が出ている以上、国会における野党の追及は、当然、厳しいものになる。その結果、関連法案や予算の成立が遅れ、被害者に対する賠償支払いが遅延する可能性が高い。また、スキームの成立が遅れることで、マーケットに不安が広がり、資本市場での資金調達や銀行借り入れが不能となり、結果として、「不本意な」法的整理に至る可能性もある。


 そうした事態を回避するためにも、本スキームとは別に、被害者救済のための制度を早急に設ける必要がある。現在、農林水産部門会議では、出荷停止等により被害を受けた農林漁業者に対し、国が東電にかわって立替払いができる議員立法を検討しているが、与野党合意が速やかに整うのであれば、農林漁業者にかかわらず、広く国による立替払いができる仕組を早急に整備すべきである。こうした被害者救済のための枠組を、まず、今国会中に成立させ、本格的な賠償スキームについては、今後のエネルギー政策の転換も見据えつつ、改めて設計し直すべきである。


(以上)