まず、東日本大震災の被災地の復旧・復興が、住民の立場に立った形で、1日も早く実現することを祈念致します。
ここ数日、資料「介護保険法改定及び2012年度介護報酬改定について」 へのアクセスがやや多いようです(これ、うちの診療所の学習会資料なので、ちょっと偏っているのですが……)。やはり、このブログを読んでくださっている方々には関心のあるテーマなのでしょう。なので、今回は「社会保障と税の一体改革」の中での介護の「改革」案について取り上げたいと思います。しんぶん赤旗の記事を引用します。引用部分は青で表記します。
シリーズ 見えてきた「一体改革」
介護 「軽度者」を切り捨て
しんぶん赤旗 2011年12月20日
野田内閣が執着する「社会保障と税の一体改革」の具体像がいよいよ浮かび上がってきました。民主党が16日に了承した社会保障「改革」の最終案は、あらゆる分野で段階的・連続的に制度を改悪する計画です。その危険な内容をシリーズでみていきます。
介護保険の改悪メニュー例
来年の法案提出を検討
要支援1、2の人 利用料1割→2割
要介護1、2の人 施設利用料アップ
年収320万円以上 利用料1割→2割
資産をもつ低所得者 施設利用料を死後精算
ケアプラン作成 無料→月500~1000円
2~4人部屋の室料 月8000円アップ
法改定なし
生活援助の時間 基本60分→45分
65歳以上の保険料 月平均5000円にアップ
(中略)
■認定者3%減狙う
その柱の一つは「軽度者」への介護切り捨てを進めることです。
「軽度者」を標的にした利用者負担増として、①要支援1、2の人の利用料を1割から2割に倍増する②要介護1、2の人の施設利用料を値上げする―という2項目の法改悪が検討されています。
厚労省は要支援者の利用料アップについて「要介護認定者数を2050年に現行ベースより3%程度減少させること…の実現に向けた制度的な対応」(社会保障審議会介護保険部会の議論まとめ)だと明言。負担を増やして介護保険利用をあきらめさせる狙いをあけすけに示しています。
要介護1、2の人の施設利用料アップは「介護施設の重点化(在宅への移行)」の名で検討。負担増によって強引に施設から追い出すものです。
これらに加え、掃除・洗濯などの生活援助の基本提供時間を60分かっら45分に短縮する改悪も狙われています。来年4月の介護報酬(介護保険サービスの公定価格)改定で報酬が削減され、提供時間が大幅に減らされる恐れがあります。
介護報酬は法律ではなく省令で決まり、国会審議を経ません。来年1月には決定されることになっており、事態は切迫しています。
必要な介護や生活援助を受けられなくなれば重度化が進むと批判されています。
■わずかな資産さえ
もう一つの柱は、一定の所得や資産がある高齢者を中心とした負担増です。
(中略)
介護では高額のサービス利用が長期間続くことが多く、利用料は1割でも重いと悲鳴が上がっています。年収300万円台で「高所得」とは到底いえない高齢者に利用料を2倍にすれば、必要な介護を受けられない人が激増するのは必至です。
施設の居住費は現在、所得に応じて軽減されています。これについて政府は、資産を担保に借金を負わせる「リバースモーゲージ」や、死後に遺産から徴収する「死後精算制度」を導入する方針。実務的な検討を開始するとしています。
政府は生活保護のリバースモーゲージを例にあげます。生活保護対象者が500万円以上のマンションなど資産を持つ場合、資産を担保に生活資金を借りるよう求め、利子をとり、死後に資産を取り上げます。配偶者以外の同居人(子や孫)は「(資産)所有者本人が死亡した時点で住居から出ることを前提:(厚労省問答集)にする恐るべき制度です。
介護保険に持ち込まれれば、介護を必要とする世帯が施設入所のために借金を負わされ、ささやかな居住用の資産まで取り上げられかねません。
(後略)
「社会保障と税の一体改革」(以前は、「税と社会保障の一体改革」でした)とは、簡単に言うと、”社会保障の切り捨てを税の負担増を同時に行なうこと”です。
その基本は介護の分野でも変わらないのですが、特に介護で狙われているのが「軽度者の切り捨て」です。この方向性は、これまでの介護保険制度の改定でも一貫して狙われてきたものです。しかし、この方向性は介護保険制度の本来の目的とは真逆の方向に向かうものです。
本来は、高齢者が介護保険を利用することで運動機能や生活能力を保ち、老後の生活をより質のよいものとすることが介護保険制度の目的でした。つまり、より軽度のうちから介護保険を利用することで、重度化を防ぐことが重要なのです。その目的を忘れてしまったのか、介護保険制度の改定は”限られた介護資源を有効活用する”という名目で、軽度者を切り捨てる方向で行なわれようとしています。とは言え、介護保険の利用者が増加していることが前提なので、重度者への介護サービスがより充実する訳ではなく、現状維持に過ぎません。
もう一つの基本は、「高所得者」により多い負担を求めることですが、ここで想定されている「高所得者」は普通の感覚では到底「高所得者」とは考えられない水準です。年間所得300万円台というと、給与所得者で考えると正社員の入社一年目の年収程度ではないでしょうか(まあ、会社、業種によって様々でしょうが……)。
それに、1割から2割と聞くと大したことではないような印象を受けますが、実際の利用者にとっては利用料がそれまでの倍に増えてしまうことになるので、大きな負担増です。こうした負担増が続いていくと、介護もお金のあるなしによって受けられるかどうかが決まってくるものとなってしまい、本当に必要としている人に必要な介護が行き届かなくなる恐れがあります。
こうした政府の基本的な方向性を正すために、現場から実態を訴える声をより大きくしていく必要があると思います。