「輝け!日本国憲法のつどい」渡辺治教授の講演概要 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、直近の情報をご紹介します。

「ユニオン」と「労働ニュース」アーカイブ様からの情報提供です。


今週末!

http://www.pref.gunma.jp/cts/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=86410

11/21「働く人のなんでも相談会」の開催 群馬県前橋市
■ 日時 平成21年11月21日(土) 13:00~16:00
■ 会場 けやきウォーク前橋「けやきホール」ほか 前橋市文京町2-1-1
■ 内容 ・労働相談員(社会保険労務士)による、賃金未払い・解雇・雇い止めなどの「労働相談」・産業カウンセラーによる「職場の人間関係等に関する相談」・労働委員会職員による「個別的労使紛争のあっせん制度」の紹介
■共催 群馬県、群馬県労働委員会


毎日新聞からの情報です。

http://mainichi.jp/life/job/news/20091012ddm013100026000c.html
11月21日午前10時~午後4時

東京弁護士会の女性弁護士が「セクハラ被害110番」

03・3503・8671、当日のみ


川口市広報からの情報です。


全国一斉「労働時間相談ダイヤル」(無料)

11月21日(土)9:00~17:00

フリーダイヤル 0120(794)713


【問い合わせ】埼玉労働局労働基準部監督課 電話 048(600)6204



さて。11月17日、埼玉憲法会議主催の「輝け!日本国憲法のつどい」に参加してきました。このつどいは毎年5月と11月に開催され、文化行事や憲法についての講演を行なうのですが、今回は一橋大学教授の渡辺治さんによる「総選挙後の情勢と憲法をめぐる課題」というテーマの講演が行なわれました。

講演後、渡辺教授の著作のサインセールをやっていて、サインをしていただく際に「今日の講演の内容をブログに書いてもいいですか?」とお尋ねしたところ、気さくに「いいよ」と応じてくださったので、はりきって講演の概要をご紹介したいと思います。


以下、講演の概要となります。


まず、渡辺教授は今回の総選挙によって、政治も、憲法にも、私たちのくらしにも大きな変化が起こると考えられるので、改めて総選挙が何を示したかを考えることを提起されました。あの選挙は何だったのか、民主党はどのような力によって勝ったのかを考えてみようということです。

総選挙の結果は、民主党議席の激増、自民党議席の激減でした。ですが、少しでも多く票を獲得した候補が当選するという小選挙区効果が大きかったので、得票数で見ると議席ほどは民主党と自民党の差は開いていません。また、小選挙区効果は死に票とすることを避けるために、より当選しそうな候補者に投票するということももたらすため、共産党や社民党の票は伸びませんでした。民主党が構造改革を自民党と競い合う党から反構造改革の党へと政策転換したため、反構造改革の票の多くが民主党に流れたということもあります。

そして、自民党と民主党は双方とも保守の党であり、両党の得票の合計を見ると投票総数のほぼ7割で、2001年参院選挙からそれはずっと変わらないそうです。それを渡辺教授は、7割の人が保守のお風呂に入っていて、熱くなりすぎると民主党に移ったり、また自民党に移ったりしているが、まだ反構造改革・福祉・平和のお風呂の方には移っていない状態だと表現されました。

つまり、変化の第一歩を踏み出し、それによって政権交代が成し遂げられましたが、それが本当に政治を変える第二歩になるかはまだわからない、これからの運動次第という状況にあると言えます。


次に、民主党がなぜ一人勝ちしたのか、その理由をもっと詳しく見ていくことになります。渡辺教授は、2つの異なる力の合流、反構造改革以外のもう一つの力が民主党を勝たせたのだと指摘されました。

資料として、宮崎県と東京都の、2001年参院選から2009年衆院選までの自民党と民主党の比例得票率の推移が示されました。まず、宮崎県は圧倒的に保守層の多い県だそうですが、徐々に自民党の得票率が下がり、民主党の得票率が上がっていき、遂に2009年衆院選では民主党が自民党を逆転しています。これは、構造改革政治への怒り、不信が高まり、自民党離れが進行したことを表していると渡辺教授は分析しています。一方、東京都の得票率は2003年衆院選で民主党が自民党を逆転しますが、2005年の小泉郵政選挙の際には再度自民党が逆転し、2007年参院選では更に民主党が再逆転するという推移を辿っています。これは、反構造改革では説明がつかず、地方への利益誘導型の政治をやめ、もっと構造改革を進めて欲しいという都市部の期待の表れだと渡辺教授は分析しています。

では、まず一つめの力、構造改革政治への怒りについてみていきます。

構造改革とは、大企業の儲けをもっと拡大するために労働者の賃金を切り下げ、正規職員をクビ切りして非正規職員を増やし、社会保険などの大企業の負担を減らし、派遣労働の自由化などの規制緩和を行なう政策で、世界中で行なわれましたが、特に日本においては劇的に貧困と格差をもたらしました。これは、福祉国家が成立していたヨーロッパとは異なり、日本ではそもそも福祉の貧弱な大企業中心の政治が行なわれていたため、更にそれが進められたからです。

構造改革は、企業に対する税金を下げる政策を採ろうとしますが、そのためには財政を削減し、それでも足りなければ消費税引き上げという対策を取ることになります。財政の規模が大きいのは社会保障と公共事業投資であり、特に医療が大きく、中でも高齢者医療の財政が大きいため、真っ先に高齢者医療が切り捨てられることになりました。

公共事業も減らされ、以前は都市部で失業しても地元に戻れば公共事業で雇用を得ることができましたが、地方構造改革によってそれもなくなり、生活保護も水際作戦で受けられなかったり、受けられても「辞退届」を強要されて打ち切られたりして、北九州市では4名の餓死者も出ました。これは偶然北九州市で起こったことではなく、北九州市は福岡市に対抗して熱心に構造改革を進めていたという背景があります。餓死者は皆40代以上の男性だったという共通点もあります。リストラに遭った人たちが、更に非正規労働者としてもクビを切られ、餓死したり自殺したりしていることがうかがわれます。

こうしたことから、自民党政治に対する怒りと不信が爆発しました。

また、構造改革によって地方も疲弊し、自民党の金城湯池と言われた東北、北陸、中国、四国、南九州で自民党離れが起こりました。

そして、反貧困、反構造改革の新しい大衆運動が広がりました。まず、後期高齢者医療制度反対の運動は、制度が実施された後も反対運動が止まらず、政府に衝撃を与えました。次に、雇用と社会保障の破壊に対する個人加盟の運動組織、反貧困ネットワークが生まれました。これは、労働運動と市民運動の合体という新しい運動の形を生み出しました。12月4日の派遣法抜本改正集会には弁護士も合流し、年末年始には「年越し派遣村」が生まれ、ここに来れば様々な相談が一箇所で受けられるというワンストップサービスを実現しました。また、「年越し派遣村」は連合、全労連、全労協という3つの労働組合ナショナルセンターが共同したということでも画期的でした。連合が加わったことで民主党も動くことになり、後の派遣法改正案の野党合同提案につながりました。

そして、改憲、軍事大国化に反対する運動も自公政権を追い詰めました。

2006年の安倍政権の改憲策動が戦後最大の改憲の危機だったと言われていますが、2004年の自衛隊イラク派兵の頃からアメリカの改憲圧力が強まり、改憲策動が本格化しました。安倍首相(2006年当時)は、改憲についての国民世論の多数が賛成していること、民主党が改憲に同調していることを前提に改憲を進めようとしますが、2004年に始まった改憲に反対する「九条の会」の運動が徐々に改憲反対に世論を変え、2008年には読売新聞の世論調査で改憲反対が賛成を逆転し、第一の前提が崩れました。そうしたことを背景に、民主党も改憲の姿勢を後退させ、第二の前提も崩れました。この「九条の会」の運動が新しかったことは、首長・九条の会など、保守層の一部も含む広がりをつくったこと、従来の平和運動には加わっていなかった中高年、50~70代が中心となったこと、従来の平和運動と新しい市民運動がコラボし、団体と個人が車の両輪となるネットワーク型の運動をつくったことが挙げられます。


このような、構造改革、改憲に怒った国民の自民党離れの票を民主党が独占したのには、民主党の政策転換があると渡辺教授は指摘しています。

民主党は1998年の結党当時は、自民党と構造改革と軍事大国化を競い合う政党として誕生し、成長してきました。地方への利益誘導というしがらみのある自民党よりも、民主党の方が構造改革を徹底して推し進めることができると主張していたのです。ですが、2007年の参院選において、小沢体制の下で突然の政策転換が行なわれ、農家戸別所得補償、子ども手当、公立高校授業料無料化などの、反構造改革のマニフェストを掲げました。改憲問題についても曖昧になりました。

この急転換を可能にした原因を渡辺教授は3つ挙げています。一つ目は、国民の声によって構造改革の破綻に敏感になっていた議員たちがいたこと、二つ目は、小沢党首の独裁体制であったために強引な政策転換が可能であったこと、三つ目は、共産党と社民党というはっきりとした反構造改革の党があったため、中途半端な政策では票が集められないためです。

しかし、それだけでは民主党の一人勝ちは説明できません。もう一つ、自民党の開発型政治を転換して構造改革政治の続行を望む力が働いたと渡辺教授は分析しています。

大企業の社員などの大都市部中間層は、地方へ利益誘導する開発型政治をやめ、構造改革の政治を継続することを要求して民主党への期待を高めました。財界、マスコミ、アメリカは、民主党批判からシフトし、「現実化」を促す方向に転換しました。8月31日の朝日新聞の社説が「賢く豹変する勇気」と題して、マニフェストを捨てて現実的政治に戻れと促したのをはじめとして、読売新聞、日経新聞、産経新聞も民主党批判をやめ、「現実化」して構造改革を続行するよう促す報道を展開しました。アメリカも日本の財界やマスコミをバックアップし、民主党に普天間の名護移転、日米地位協定の維持、アフガンへの自衛隊派兵などを実行する現実的政治を行なうように促しています。


では、今後民主党はどのような方向に向かおうとしているのでしょうか。

民主党にはこれまで見てきたように、構造改革からの転換と改憲阻止の期待と、構造改革の安定した運営を可能にする政治体制づくりと改憲への期待という、相反する2つの期待が寄せられています。しかし、民主党にはその2つの期待を受け止める体質を持っていると渡辺教授は指摘しています。それは、民主党が3つの構成部分を持っているからです。

1つ目は、民主党の「頭」の部分である党執行部で、反開発政治型新自由主義派という民主党のもともとの性格を継続している勢力です。渡辺教授は「ハムレット型構造改革派」と表現し、「頭」の部分はアメリカや財界からの圧力と国民の期待の板ばさみになった悩みながら、結局は構造改革へ向かうのではないかとおっしゃっていました。改憲問題については未決定ですが、国連決議があれば自衛隊派兵へと向かう恐れがあります。

2つ目は、民主党の「胴体」の部分であると言える小沢幹事長と大量当選した新人議員の勢力で、修正開発型政治に向かおうとしています。衆院選において、小沢幹事長は商工会議所、医師会、農協などの地方財界の中心を回り、連合の地方組織の支持も取り付け、本来は相容れない財界と労働運動を取り込みました。政権交代後は官僚と自民党議員との接触を禁じ、地方の陳情も阻止し、小沢幹事長が独自に地方への利益誘導を分配しようとしていると見られています。改憲問題については、小沢幹事長は国連の下での自衛隊派兵ならば武力行使も容認するという立場に立っています。

3つ目は、民主党の「手足」の部分である現場の中堅議員層で、様々な運動を背景にして政策をつくってきた人たちであり、福祉政策の実現に動こうとしています。連立政権の社民党、国民新党もこの層を応援しています。しかし、「頭」の部分はいくつかの福祉政策を実現する代わりにその他の福祉を切り捨てようとしています。

このように、民主党は「頭」は右に向かい、「胴体」は後ろに向かい、「手足」は左に向かっているような状態であり、これらの3つの構成部分のどこが強くなるかはまだわかりません。つまり、外部の力で影響を与えることが可能であり、運動によって個々の部分ではいい方向へ向かわせることが可能な状態であると言えます。


それでは、民主党政権下で改憲はどうなるのでしょうか。

渡辺教授は、まず明文改憲は当分遅延するだろうと予測されています。

自民党の多くの改憲派議員は落選し、鳩山首相は民主党きっての改憲派ではありますが、反構造改革、反改憲の力によって民主党が勝ったことを自覚しており、運動の力が続いている限りは改憲することはできないということです。連立を組んでいる社民党が護憲の党であるということもあります。

民主党のマニフェストで、憲法については一番最後に書かれ、「慎重かつ積極的に検討していきます」と表現しています。つまり、改憲をやるかやらないかわからない、国民の力関係を見ている段階だと言えます。また、やるともやらないとも言えないということでもあります。やると言えば国民が離れるという不安があり、やらないと言えば財界やアメリカが許さないと恐れているということです。

憲法審査会始動に反対する運動や、改憲手続き法の抜本見直しを要求する運動、廃案を求める運動などによって、明文改憲を防ぐことは可能です。

しかし、民主党政権下で最も危ないのは解釈改憲です。アメリカの強烈な圧力により、米軍再編への協力、普天間移転、自衛隊の海外派兵拡大などが求められています。小沢幹事長は今の憲法でも自衛隊の武力行使は可能だという考えであり、内閣法制局長官の国会答弁を禁止しようとしていることからも、政府の判断で解釈改憲が行なわれる恐れがあります。


最後に、改憲を防ぐために私たちがいま何をすればよいのかということが問題になります。

渡辺教授は、まず解釈改憲の動くに機敏に対処に、はっきり「NO」の態度を示すことを挙げました。アフガンに自衛隊を派兵することや普天間の移転について、ファックスやメールで意見を送ることが効果的です。小沢幹事長が陳情を禁止しようとしているそうですが、民主党の幹部は比較的よくメールやファックスに目を通すそうです。また、鳩山首相は沖縄の県民の声を意識しています。沖縄県知事、名護市長も、世論調査で県外移設希望が70%、辺野古沖移転案反対が67%という結果が出たことに縛られています。

次に、改憲はしないとはっきり約束させることが必要だと指摘されました。憲法審査会始動に反対し、憲法審査会規定を根本的再検討、あるいは廃案にし、改憲手続き法をそもそも見直すことを求めていく必要があります。しかし、野党が自民党と共産党になり、自民党にはこの件についての国会質問は期待できないので、共産党がよほど頑張らなければならないということでした。

そして、改憲の阻止から憲法の実現へと運動を新しい段階に進めていくことが必要だということが提起されました。9条の実現は、日本だけでなく東アジアの平和が保障されて初めて達成されることであり、9条を持つ日本がリーダーとなって核実験の禁止、核兵器使用の禁止、そして核廃絶へと進んでいく必要があります。25条については、25条があるのに餓死や自殺が生まれている現状であり、更に難しい25条の実現を目指していくことが運動の新たな課題となります。

この、憲法を実現する運動が政治を変える第二歩であり、更に大きな第二歩に向けての頑張る決意を述べて、渡辺教授の講演は終了となりました。



参考書籍として、2009年10月10日発行の渡辺教授の著書「憲法9条と憲法25条・その力と可能性」(かもがわ出版)が紹介されました。サインセールで購入してきましたので、読了したら感想を書きたいと思います。



以下、「連合通信・隔日版」No.8258掲載の情報です。


東京地評・東京社保協 「街頭生活労働相談」

11月27日午後

JR亀有駅南口・リリオパーク

雇用、生活、子育て、経営、税金、住宅などの相談


京都総評 「ミニ相談会」

11月28日夜10時から

JR京都駅周辺


連合 「何でも相談ダイヤル」

12月7日 10時~20時(目安時間。地方によって異なる予定)

全国共通フリーダイヤル  0120-154-052



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緊急報告「爪ケアを考える北九州の会」からのアピール

http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10310539150.html