英文契約書の表現をいくつか | Life in the Lone Star State

英文契約書の表現をいくつか

まずは今読んでる本の紹介です。

   WORKING with CONTRACTS

$Life in the Lone Star State
 

以前ご紹介したアメリカの実務家を対象とした教育機関であるPLIが出版している本です。サブタイトルがWhat Law School Doesn’t Teach Youということで、こちらの弁護士になりたての人向きに書かれた契約書の読み方、書き方が解説された本です。3、4年前に日本で購入して(旧版です。)お蔵入りになっていたのを引っ張り出してきて読んでいますが、なかなか参考になるところもあります。

今日は、その中から知っておいて役に立ちそうな表現やニュアンスの違いを幾つか書いておきます。

1. 努力義務

契約の条項の中で努力義務が規定されている場合がありますが、英語では努力義務にも幾つかのレベルがあり、ニュアンスが少しずつ違うようです。以下、下にいくにつれて義務の程度が上がります。

good faith effort
4つの表現の中では最も軽い努力義務で、 “requiring only genuine attempt to meet the stated goal”ということなので、目的の達成に向けて実際に正当と評価される努力をしたのであればよいということでしょう。

reasonable effort
これはいわゆるreasonable person standardというやつで、ある状況下において合理的な人であれば行ったであろう程度の努力が必要ということです。

diligent effort
これは、reasonable effortよりも高いレベルの努力が必要だそうです。

best effort
これは最も厳しい義務で、あらゆる可能な出費を伴う行為まで必要ということで、例えば、第三者の承諾を取得するということに関してbest effortを尽くす義務を負う場合、当該第三者に一定のfee やpremiumを支払えば承諾が得られるのであれば、それらの支払い義務まで負うと一般には考えられているとのことです。

いずれも線引きは難しい概念でしょうが、契約交渉の際には役に立つ知識かと思います。

2. would vs. could

例えばParty Aがに対して重大な悪影響を及ぼす訴訟等が開始された場合にParty Bに対して通知しなければならないという義務を規定する場合、下記の3つの表現が候補として考えられます。(以下の表現は引用です。)

“Notice of the commencement of any action, suit or proceeding that [would/could/would reasonably be expected to] result in a material adverse effect on Party A”

couldを選ぶと、重大な悪影響を及ぼす可能性のある訴訟等については全て通知しなければならなくなります。訴訟開始前から勝訴、敗訴の確実な判断はできませんから、訴額がある程度大きい訴訟等は全て悪影響を及ぼす可能性がある訴訟ということになり、通知が必要ということになります。

他方、wouldを選ぶと、確実に重大な悪影響があるという訴訟だけ通知すればよくなります。

その中間がwould reasonably be expected toということになります。

3. Taken as a whole

「全体として捉えると」という意味ですが、以下例文引用。

“Since December 31, 2000 there shall have occurred no material adverse effect on the financial condition of the Parent and its subsidiaries, taken as a whole.”

最後のtaken as a wholeがあると、material adverse effectの有無を全体で考えるので、仮に小さな子会社一社の利益が5割減になったとしても必ずしもこの条項には抵触しませんが、最後の文言がないと一社毎に個別に判定されるので抵触してしまうということです。こういうの、うっかりしそうです。

4. mutatis mutandis

ある契約のなかで他の契約条項をリファーする(incorporation by reference)場合で、若干状況が異なるとき(例えば、当該他の契約のなかでcorporationに適用されている条項を今回の契約でpartnershipに適用するケースとか)に、原条項を適切に修正した上で適用するという意味です。これ一言で読み替えがなされるわけですから、非常に便利な文言です。ただ、このやり方は解釈に疑義が生じやすいので、個人的にはあまり使わないほうがよいかなと思っていますが。例文を最後に引用しておきます。

“The Company agrees to perform and be bound by all covenants in the Buffalo Lease Agreement as if such provisions applied to it, and all such covenants are incorporated by reference mutatis mutandis, as if set forth at length herein.”

他にもよく見る表現が沢山出ているので、目を通す価値はある一冊かと思います。