【寿司】 大和寿司 (築地)
朝6時に目が覚めた。シメタ!これなら築地場内で並ばずに寿司が食べられる。
身支度もそこそこに家を飛び出すが、11月には早いくらいの厚手のコートだけは忘れなかった。
なるべく壁づたいに歩き、落ちてる氷を蹴飛ばしながら、中央卸売市場内の6号館を目指す。今日は大和寿司(だいわすし)の気分だ。ターレが行き交う築地城内を邪魔にならないように歩くのは、最低限守りたい素人のマナー。“ターレ”は正式には“ターレット・トラック”の略で、場内で見かける小型の運搬車だ。360度回転が可能で小回りがきくことで普及。気になって値段を調べてみたが新車で100万円前後だった。意外に高い。
築地の水曜日は休みが多い。ただしその週に祝日がある場合は、たまに営業をしている。インターネットで調べないとわからないのでねらい目だ。・・・・と思ったのだが、結局朝7時なのに20分も並んでしまった。列の大半から出る音声は日本語ではない。外国人の団体さんとバッティングしたようだ。冬の朝は冷える。コートを着こんで正解だった。
大和寿司は二軒が並んでいて、左が大将のお店で右が息子さんのお店らしい。たまたま左の店に入り、大将に握ってもらった。終始ネタの説明を欠かさず、小気味よくしゃべる方だ。
「おまかせでいいよね?」
同時に入店した6名のお客全員に確認する。横目で見るガラス戸の向こう、店外の列はみるみる膨れ上がっている。おまかせは3500円。ここでNOと言える人がいたらすごい。大抵のお客さんはこれを頼んでいる。7巻+巻物一本+玉子焼き+蜆の味噌汁。
値段の割りにボリュームが少ないという意見も聞くが、築地の相場で言えば至極妥当。場内はけっして“安く”はないと覚悟したほうがいい。新鮮で良いネタが相応の価格で食べられるという認識でないと、とんでもなく高価な朝ごはんに思えるだろう。せっかく足を運ぶのだからがっかりしないよう、勘違いは禁物である。
さて、寿司はおまかせで握ってもらうおう。まず最初に出された熱い蜆のお椀が冷えた身体にありがたかった。スタートは大トロから。大胆といえるほど大振りのネタだ。全て煮切り醤油がついている。みりんの甘みが強めで、ネタの美味さを引き立てている。くるりとネタを舌側にして、歯ごたえと共に味付けを楽しみたい。
冬が旬の味覚が次々と。肉厚の生の車えびは適度にねっとりと甘く、歯に弾力が返る。これには頭を香ばしく焼いたものもついた。そしてこぼれ落ちそうにうず高く盛られたウニ。とろりと口内でほぐれると、思わず声がでるほど甘い。塩気は弱く、なんと甘美な軍艦なのだろう。ついだスミイカも負けず劣らず甘い。こちらは品の良さが前面に出ている。唐突だが、旨いイカを食べるたびに、日本人はもっとイカを見直すべきだとよく思う。
寿司が出てくるスピードはかなり早い。大将の手から握られた寿司がつけ台に乗っている時間は6名の平均は30秒くらいだろう。つけ台に寿司がなくなると、間髪いれずにまた次が置かれる。寿司はサクサク食べるものだと思っているので個人的には歓迎だが、客さばきのためにすごい速さで握っている上にネタが大きいため、口内でネタとシャリがすぐに離れやすいのが気になった。
しかし旬の素材がとにかく鮮度が良い状態で出てくる。
さばきたてのしっとりとしたネタが、「旬」という時を舌に知らせてくれる貴重な寿司屋という時間。
朝は苦手だが、こんなに旨い経験ができるのなら早起きをいくらでもできそうだ。
■大和寿司
東京都中央区築地5-2-1 中央卸売市場内6号館
営業時間 : 05:30~13:30
定休日 : 日曜、祝日、休市日