本書は自らの家族を救うために単身戦場に
飛び込み、ひた走る男を描いた小説です。
伊集院静先生のお父様をモデルにした
この小説は、朝鮮半島との関係や国そのものが
きな臭い今だからこそ一読をお勧めします。
伊集院静先生が自分の父親のことを描くのは
『海峡』(新潮文庫)三部作以来なのですが、
伊集院先生ご自身が
『これは面白い。だけど本人が面白いといった
ものはあんまり面白くない。』
というようなことをおっしゃっておりました。
確かにこの小説はものすごい分量でありまして、
最初にこれを手に取って見たときには
「正直読めるんかな…。」
とさえ思いましたが、結果的には僕の「杞憂」に
終わってしまい、一気に読み終えてしまいました。
物語は戦争末期から高度経済成長の直前
当たりを舞台にしておりまして、伊集院先生の
お父様がモデルである主人公の高山宗次郎が
朝鮮戦争で真っ二つになった朝鮮半島にて、
妻である要子のたっての頼みで彼女の弟と
その家族を救いに戦場にただ一人向かって
いくものです。
こういってしまうとそれまでなのですが、宗次郎
たちが半島から「夜を賭けて、海を渡り」日本に
やってきた経緯や妻の要子との出会い。
事業の拡大の箇所を見ると、一人男がたどった
人生が見えてまいりまして、ページをめくりながら
なるほどな、と何度も唸っておりました。
中盤から後半は宗次郎が戦場となった朝鮮半島での
描写になるのですが、これがまた「悲惨」の一言に
尽きるわけであります。同じ民族が殺しあうというの
はむごいことだと思わずにはいられませんでした。
結末は皆さんが読んでいただくとして、今、また
朝鮮半島で火種がくすぶり始めておりますので、
その今後の行く末を見守っていくためにも、この本は
ひとつの道しるべになってくれるのでは
ないのでしょうか?
限定版 お父やんとオジさん(上・下) (講談社文庫)
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