宝石赤BRICs経済研究所(代表 門倉貴史) では表題のレポートを発表しました。概要は下記のとおりです。詳細はHPをご参照ください。



近年、ブラジルの通貨レアルが上昇傾向にある。対米ドルでの為替レートは、2005年平均の1ドル=2.43レアルから2006年平均では1ドル=2.17レアルへと、わずか1年間で10.7%の上昇となった。レアルが最安値をつけた200210月時点と比べると、上昇幅は43.4%にも達する。レアル高の背景には、内外の金利差にマーケットの関心が集まっていることがある。ブラジル中央銀行はインフレが落ち着き取り戻してきたことを受けて、2005年9月以降相次いで利下げを実施しているが、小刻みで金利の下げ幅は小さなものにとどまっている。政策金利(Selic)の水準は2007年1月現在で13.00%となお10%を超える高水準にある。

利下げの効果によって、金利に敏感に反応する家計の住宅投資や耐久消費財、企業の設備投資など内需は回復傾向にあるが、レアルの上昇によって穀物や資源の輸出競争力が削がれている。中国をはじめとする有力新興国の台頭などで世界的に資源需要は拡大傾向にあるものの、レアル高の進行によって輸出の伸びは鈍化している。実際、GDPベースの実質輸出は2004年頃から減速基調で推移しており、直近の2006年7~9月期も前年同期比+7.5%にとどまった。

その一方、レアル高を追い風として、ブラジル企業の海外直接投資が活発化しつつある。他のBRICsとの国際競争に勝つためブラジルの企業は、近年、M&Aに力を入れている。自国の通貨が上昇すれば、ブラジル企業が外国企業のM&Aをするうえで非常に有利に働く。国際収支統計によると、2006年におけるブラジルの対外直接投資額は272.5億ドルと2005年に比べて10.8倍の規模へと拡大した。2006年の対外直接投資額は、対内直接投資額の水準も上回った。

ブラジル企業による具体的な海外M&Aの動きをみると、たとえば、ブラジルの資源最大手のリオドセ(CVRD)は、2006年8月にカナダのニッケル大手インコを約176億ドルで買収すると発表した。この買収によってリオドセは、オーストラリアのBHPビリトンに次ぐ世界第2位の巨大鉱山会社となり、ニッケルの生産量に限ってみれば2011年までに世界最大となる見通しだ。

また、200612月には、ブラジルの鉄鋼大手CSNが英国・オランダ系の鉄鋼大手コーラスを買収すると発表。約49億ポンドの巨大買収劇となった。ただコーラスについては、インド最大の民間鉄鋼メーカーであるタタ・スチールも買収の意欲を示しており、最終的な買収額は、ブラジルのCSNとインドのタタ・スチールの競争によって、さらに引き上げられる可能性がある。

内外金利差を背景に今後も通貨レアルが上昇傾向をたどると予想されるなか、ブラジル企業による海外企業のM&Aが加速していく可能性が高いと言えよう。