批評理論入門
- 広野 由美子
- 批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義
好きなんですねこういう本が。つい買っちゃうんですね。あとがきによると、本書は、ロッジの「小説の技巧」と、「現代批評ケーススタディ」シリーズのヨハンナ・M・スミス編「フランケンシュタイン」を基底としているそうで、それぞれ「小説技法篇」と「批評理論篇」に対応しています。そして京大で行った英米文芸表象論講義のノートをもとにしているそうです。なるほど、手堅い内容という印象です。
ヨハンナ・M・スミスは知りませんが、ロッジの「小説の技巧」は私も以前に読んでおりまして、とても面白かったです。ただ、それぞれの技巧についての短く的を射た説明が、全体としてどうやって統合して、一個の文学となるのかということが謎として残っていました。これはロッジだけじゃなくて、小説の技巧を説明したとする評論家の本のどれを読んでも、村上春樹のここがすごいとか、この表現が芸術だとか言いながら、じゃあそのような小説をただのひとつでも書くことの参考になるかというと、ちっとも参考にならないのは、それぞれ個別の作品の個性や部分的箇所の説明にとどまっているからなんですね。
本書ではそれを補うべく、ひとつのフランケンシュタインという作品に絞って、さらに第二部で主な批評理論を取り上げたのではないかと思います。
そこで、網羅的に並べられた批評理論から、一個の作品の全体性が浮かび上がってきたとまで言えるかどうか……とは言え、大学の講義を元にしただけあって、小説技法と批評理論を通観するのにとても便利な一冊でしょう。