『アバター』制作の裏側!! 元wetaデジタル村本浩昭さん講演メモ
昨日、デジタルコンテンツ協会の主催するクリエイターズセミナーに参加してきました。
もともと、お目当ては『Peeping Life』というゆる系CGショートムービーを制作された森りょういちさんの講演だったのですが、思いがけず、『アバター』の制作に携わった日本人クリエイターの村本浩昭さんの講演があったので聞いてきました。
タイムリーですので、先にこの村本さんの講演の内容をアップしたいと思います。
(後日、必ず森さんの講演もUPします。)
はじめに weta digitalについて(wikiより抜粋)
WETAデジタル(ウェタ・デジタル、WETA Digital)はニュージーランド・ウェリントンに所在するVFX・ポストプロダクションの会社である。「WETA」は「ウェタ」がもともとの発音にもっとも近い。
1993年、映画監督のピーター・ジャクソンやリチャード・テイラーらによって、映画『乙女の祈り』(1994年)のSFXを制作するために「WETA」が設立された。
ピーター・ジャクソン監督による『指輪物語』の映画化3部作『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002年)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年)における突出したVFXは高く評価され、3作ともアカデミー視覚効果賞を受賞。更に「キング・コング」(05年)でも同賞を受賞した。アメリカの映画産業はWETAデジタルに対して高い評価を示し、ILMやデジタル・ドメインと肩を並べる、世界有数のVFX工房になった。
公式サイト
http://www-ext.wetafx.co.nz/
村本さんの経歴
weta digital(NZ)(『ロード・オブ・ザ・リング』『キングコング』)⇒FrameStone(英)(『スーパーマン リターンズ』)⇒Sony Pictures(米)(『スパイダーマン3』)⇒FrameStone(英)(『ナルニア国2』『007 慰めの報酬』)⇒weta digital(NZ)(『アバター』『ラブリーボーン』)⇒東京
専門は、エンバイロメンタルTD(CG等で映画の背景を制作するテクニカルディレクター。マットペインターなどと協力)。ライティング、コンポジットも場合によってやる。
背景は、どの監督も特にビジョンが明確になっているわけではないので、大変。そして、あまりリソースを割いてくれない。。
mayaは出始めた頃から使っていた。今では主流のソフトになってくれたため大変助かった。
①海外のプロダクション事情について
・今後は、マットペインターの需要が高くなる。海外に行くならねらい目はマットペインター。
ただし、食い込むのは難しい。というのも、仕事はほとんど「あの映画のあの背景を書いている人」という感じで指名制に近いから。ただし、入り込めれば、あとは仕事はたくさんある。
・ロンドンが非常にお勧め。
理由は、ハリーポッター効果。
ハリーポッターを作るために、ロンドンのエフェクトハウスが設備投資をし(撮影自体もロンドンの撮影所でできる(パインウッド・シェファートーン))、人員を雇ってきた。
この規模を維持するために、営業をかけまくっている。
ただし、4大プロダクションのあるロンドンのソーホーにヨーロッパ各国のプロダクションのヘッドオフィスがあるという恵まれた環境。
隣のビルに営業をかければいいわけだから、バンバン仕事が取れている。
・英4大プロダクションは、MPC、FrameStore,Doble Ngatibe,Cine Site
・また、ここ1年のポンド安で、アメリカからみると割安になった。
・政府による減税措置の効果も大きい
・オーストラリアも、アニマルロジック、Dr.Dスタジオ、ライジングサン、が頑張っている。
②アバター制作について
・もともとは、Sony Picturesがやる予定だった。しかし、ジェームキャメロンが、ロードオブザリング(以下ROTR)のゴラムを見て、wetaでやると決めた。
・2000ショット中、1500ショットをwetaで担当。1500人体制(!!)。
・残りの400はILMが担当。
ただし、本当は全ショットwetaでやる予定だった。結局、間に合わなかったのだ。。
・なぜか、よく考えてほしい。ゴラムは確かにすごかったが、忘れては困るのは、あれはったの1体だけだという事実だ。
・そして、アバターの仕事量は想像以上だった。だれが、当初あの仕事量を想像できるだろうか。
きっと、みなさんが想像している50倍は大変だった。
・というわけで、4ヶ月前に間に合わないことが明らかになり、ILMに残りのショットをやってもらうことになった。ILMは好きな値段で受注しただろう。。
・村本さんは、4-5カットと、フローティングマウンテンのショットを担当。
・ジャングルは、全てCG(!)。
制作面について
・驚くべきことに、ビューティーパス(影やライティング)の直しをコンポジットではやらない。その場で(CGの部署で)直させて、完成させる。つまりそれだけレンダリングマシンが強力なのと、ボスがCG出身で、自分の理解の範疇を越えるところに作品を触らせたくない。
・しかし、この傾向はアメリカでは強くなっている。つまり、CG出身者がトップで、コンポジッターは一段下がって見られる。ヨーロッパは逆で、コンポジターが王様。最後の決めだから。
ただし、レンダリングの技術革新が進めば、コンポジットでやる必要がなくなる。
コンポジターは仕事がなくなる日が来るかもしれない(恐ろしい)。
・というわけで、ジャングルは全部CG。
・当初は、マッドペイントを一切使わないといっていた。
・ただし、ボスは世界でもトップの切れ者(元ILM)。だが、それでも自分の理解の範疇でしか判断をしない。難しいところ。
・ちなみに、村本さんは同時期に走らせていたラブリーボーンのほうをメインでやっていたため、そちらのほうが愛着があるとのことです。また、Disrict9もwetaが一部担当しているようですが、本当に面白い!!とのことでした。是非観にいかねば。。
③wetaの特徴
良いところ
・ビザの制限が無い
・物価が安い
・アメリカ式ワークフローで効率が良い
・ソフトウェア、ハードウェアにリソースが十分割かれている。世界最高峰。
・ITサポートが強力
・全員30分圏に住んでいる
・英語圏
・35カ国以上から人材が集まっている。アイディアが豊富。
・TOPが技術革新や、ワークフローの改善の重要性をしっかりと認識している。
ITの強力な理由
・NZの理系大学卒業者の希望no1がweta。大変、優秀な人材が集まる。
・人件費を下げるために、ハードウエア、ソフトウエアに資本投下している。
・ITだけで、マシーンソフトウエアサポート、IT(web、イントラ)、パイプランエンジニア、ソフトウエアエンジニア(maya等)、データマネジメント(バックアップ)、レンダリングサポート・リソースマネージメント、もの部署がある。
短所
・営業がへた
・CGが主導
・全員フリー。正社員では雇わない。。
④今後の日本のプロダクションへの提言
・wetaのすばらしいなと思ったところは、ワークフローの改善に力を入れているところ。
工程の可視化、ショットのライフサイクルを中心とした設計(握ったままにさせない)、レビューの回数=クオリティーという認識。
・日本はスキルは高いが、産業としてのポテンシャルが低いと思う。
才能のある監督に任せられる仕事が少なすぎる。
NZなんて静岡県とかわらないくらいの大きさ。そこに世界有数のプロダクションができているのに、日本にできないはずは無い。
・ただし、あまり日本を卑下し過ぎない。アメリカに比べて・・・、と誰もが言うが、かなうと思うことがそもそも間違い。基準が間違っている。
・工程管理は、そもそも日本のお家芸。なせ、日本のプロダクションはできないのか。
それは、CGもそうだが、自分達がアーティストだと思っているから。
アーティストなのにもうの帰るの?アーティストだから給料は低くてもいよね?
そんなのは、間違い。
・ワークフローの改善をするために、外部産業から人材を入れてもいいと思う。
絶対にできるはず。
⑤質問について
ビザについて・・アメリカ以外は簡単。どこもイギリスの関係のある国は、3週間以内に取れた。もちろんスポンサーをさがすことが大事だけど。アメリカは半年以上かかった(0-1)。
海外での就職について。nuke、shakeなども使える必要はあるか・・・無い。とりあえずデモリール。そこの出来を見る。mayaとphotoshopとコンポジットソフトが使えればなんとかなる。あとはやる気を見せる。
と、いうものでした。
字ばかりになってすみません。
ただ、大変有意義な講演でした。非常に勉強になりました。
そして、わくわくしましたねー。特にアバターのところ。エキサイティングです。
日本のプロダクションへの提言は、なるほどと思いました。
自分も日本の実情はわかりませんが、工程管理の部分で、まだ改善の余地があるのかもしれません。
確かに、"Kaizen"は日本人の一番得意なところですよね。
この内容は、CGワールドでも取り上げられる予定のようです。
僕の聞き間違い等があるかもしれませんので、是非紙面で確認してみてください。
もともと、お目当ては『Peeping Life』というゆる系CGショートムービーを制作された森りょういちさんの講演だったのですが、思いがけず、『アバター』の制作に携わった日本人クリエイターの村本浩昭さんの講演があったので聞いてきました。
タイムリーですので、先にこの村本さんの講演の内容をアップしたいと思います。
(後日、必ず森さんの講演もUPします。)
はじめに weta digitalについて(wikiより抜粋)
WETAデジタル(ウェタ・デジタル、WETA Digital)はニュージーランド・ウェリントンに所在するVFX・ポストプロダクションの会社である。「WETA」は「ウェタ」がもともとの発音にもっとも近い。
1993年、映画監督のピーター・ジャクソンやリチャード・テイラーらによって、映画『乙女の祈り』(1994年)のSFXを制作するために「WETA」が設立された。
ピーター・ジャクソン監督による『指輪物語』の映画化3部作『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002年)、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003年)における突出したVFXは高く評価され、3作ともアカデミー視覚効果賞を受賞。更に「キング・コング」(05年)でも同賞を受賞した。アメリカの映画産業はWETAデジタルに対して高い評価を示し、ILMやデジタル・ドメインと肩を並べる、世界有数のVFX工房になった。
公式サイト
http://www-ext.wetafx.co.nz/
村本さんの経歴
weta digital(NZ)(『ロード・オブ・ザ・リング』『キングコング』)⇒FrameStone(英)(『スーパーマン リターンズ』)⇒Sony Pictures(米)(『スパイダーマン3』)⇒FrameStone(英)(『ナルニア国2』『007 慰めの報酬』)⇒weta digital(NZ)(『アバター』『ラブリーボーン』)⇒東京
専門は、エンバイロメンタルTD(CG等で映画の背景を制作するテクニカルディレクター。マットペインターなどと協力)。ライティング、コンポジットも場合によってやる。
背景は、どの監督も特にビジョンが明確になっているわけではないので、大変。そして、あまりリソースを割いてくれない。。
mayaは出始めた頃から使っていた。今では主流のソフトになってくれたため大変助かった。
①海外のプロダクション事情について
・今後は、マットペインターの需要が高くなる。海外に行くならねらい目はマットペインター。
ただし、食い込むのは難しい。というのも、仕事はほとんど「あの映画のあの背景を書いている人」という感じで指名制に近いから。ただし、入り込めれば、あとは仕事はたくさんある。
・ロンドンが非常にお勧め。
理由は、ハリーポッター効果。
ハリーポッターを作るために、ロンドンのエフェクトハウスが設備投資をし(撮影自体もロンドンの撮影所でできる(パインウッド・シェファートーン))、人員を雇ってきた。
この規模を維持するために、営業をかけまくっている。
ただし、4大プロダクションのあるロンドンのソーホーにヨーロッパ各国のプロダクションのヘッドオフィスがあるという恵まれた環境。
隣のビルに営業をかければいいわけだから、バンバン仕事が取れている。
・英4大プロダクションは、MPC、FrameStore,Doble Ngatibe,Cine Site
・また、ここ1年のポンド安で、アメリカからみると割安になった。
・政府による減税措置の効果も大きい
・オーストラリアも、アニマルロジック、Dr.Dスタジオ、ライジングサン、が頑張っている。
②アバター制作について
・もともとは、Sony Picturesがやる予定だった。しかし、ジェームキャメロンが、ロードオブザリング(以下ROTR)のゴラムを見て、wetaでやると決めた。
・2000ショット中、1500ショットをwetaで担当。1500人体制(!!)。
・残りの400はILMが担当。
ただし、本当は全ショットwetaでやる予定だった。結局、間に合わなかったのだ。。
・なぜか、よく考えてほしい。ゴラムは確かにすごかったが、忘れては困るのは、あれはったの1体だけだという事実だ。
・そして、アバターの仕事量は想像以上だった。だれが、当初あの仕事量を想像できるだろうか。
きっと、みなさんが想像している50倍は大変だった。
・というわけで、4ヶ月前に間に合わないことが明らかになり、ILMに残りのショットをやってもらうことになった。ILMは好きな値段で受注しただろう。。
・村本さんは、4-5カットと、フローティングマウンテンのショットを担当。
・ジャングルは、全てCG(!)。
制作面について
・驚くべきことに、ビューティーパス(影やライティング)の直しをコンポジットではやらない。その場で(CGの部署で)直させて、完成させる。つまりそれだけレンダリングマシンが強力なのと、ボスがCG出身で、自分の理解の範疇を越えるところに作品を触らせたくない。
・しかし、この傾向はアメリカでは強くなっている。つまり、CG出身者がトップで、コンポジッターは一段下がって見られる。ヨーロッパは逆で、コンポジターが王様。最後の決めだから。
ただし、レンダリングの技術革新が進めば、コンポジットでやる必要がなくなる。
コンポジターは仕事がなくなる日が来るかもしれない(恐ろしい)。
・というわけで、ジャングルは全部CG。
・当初は、マッドペイントを一切使わないといっていた。
・ただし、ボスは世界でもトップの切れ者(元ILM)。だが、それでも自分の理解の範疇でしか判断をしない。難しいところ。
・ちなみに、村本さんは同時期に走らせていたラブリーボーンのほうをメインでやっていたため、そちらのほうが愛着があるとのことです。また、Disrict9もwetaが一部担当しているようですが、本当に面白い!!とのことでした。是非観にいかねば。。
③wetaの特徴
良いところ
・ビザの制限が無い
・物価が安い
・アメリカ式ワークフローで効率が良い
・ソフトウェア、ハードウェアにリソースが十分割かれている。世界最高峰。
・ITサポートが強力
・全員30分圏に住んでいる
・英語圏
・35カ国以上から人材が集まっている。アイディアが豊富。
・TOPが技術革新や、ワークフローの改善の重要性をしっかりと認識している。
ITの強力な理由
・NZの理系大学卒業者の希望no1がweta。大変、優秀な人材が集まる。
・人件費を下げるために、ハードウエア、ソフトウエアに資本投下している。
・ITだけで、マシーンソフトウエアサポート、IT(web、イントラ)、パイプランエンジニア、ソフトウエアエンジニア(maya等)、データマネジメント(バックアップ)、レンダリングサポート・リソースマネージメント、もの部署がある。
短所
・営業がへた
・CGが主導
・全員フリー。正社員では雇わない。。
④今後の日本のプロダクションへの提言
・wetaのすばらしいなと思ったところは、ワークフローの改善に力を入れているところ。
工程の可視化、ショットのライフサイクルを中心とした設計(握ったままにさせない)、レビューの回数=クオリティーという認識。
・日本はスキルは高いが、産業としてのポテンシャルが低いと思う。
才能のある監督に任せられる仕事が少なすぎる。
NZなんて静岡県とかわらないくらいの大きさ。そこに世界有数のプロダクションができているのに、日本にできないはずは無い。
・ただし、あまり日本を卑下し過ぎない。アメリカに比べて・・・、と誰もが言うが、かなうと思うことがそもそも間違い。基準が間違っている。
・工程管理は、そもそも日本のお家芸。なせ、日本のプロダクションはできないのか。
それは、CGもそうだが、自分達がアーティストだと思っているから。
アーティストなのにもうの帰るの?アーティストだから給料は低くてもいよね?
そんなのは、間違い。
・ワークフローの改善をするために、外部産業から人材を入れてもいいと思う。
絶対にできるはず。
⑤質問について
ビザについて・・アメリカ以外は簡単。どこもイギリスの関係のある国は、3週間以内に取れた。もちろんスポンサーをさがすことが大事だけど。アメリカは半年以上かかった(0-1)。
海外での就職について。nuke、shakeなども使える必要はあるか・・・無い。とりあえずデモリール。そこの出来を見る。mayaとphotoshopとコンポジットソフトが使えればなんとかなる。あとはやる気を見せる。
と、いうものでした。
字ばかりになってすみません。
ただ、大変有意義な講演でした。非常に勉強になりました。
そして、わくわくしましたねー。特にアバターのところ。エキサイティングです。
日本のプロダクションへの提言は、なるほどと思いました。
自分も日本の実情はわかりませんが、工程管理の部分で、まだ改善の余地があるのかもしれません。
確かに、"Kaizen"は日本人の一番得意なところですよね。
この内容は、CGワールドでも取り上げられる予定のようです。
僕の聞き間違い等があるかもしれませんので、是非紙面で確認してみてください。