1億2千万ドルの男~12月11日(金)~
世の中には凄い男がいる。
Terrance Watanabe。日系二世。
2007年、彼は全財産の殆どをラスベガスのギャンブルに使い込み、失った。金額にして1億2千7百万ドル、日本円にして114億3千万円。個人による損失としては、ラスベガス史上最高記録。彼が大負けしたカジノの一つ、Harrah'sは2007年度売上の実に5.6%を彼一人に由来しているそうであるから、スケールの大きな話である。
12月5日のWSJ記事より↓
http://online.wsj.com/article/SB125996714714577317.html
全財産を負けただけならまだしも、彼はまだ未払いの債務があるらしく、現在州検察に起訴されている。有罪となれば、最高28年の禁固刑が待っている。Watanabe氏は現在、62才。
そのWatanabe氏は、逆にカジノを訴えている。わざと泥酔状態にさせ、負けさせたとして起訴しているのだが、記事によればこういう理由で裁判に勝利するのは極めて厳しいとのこと("The rule is, nobody made you drunk"。当たり前か)。ただ、実際にはそれに近いことが行われていたらしい。ネバダ州法は、またカジノ自身のポリシーも、明らかな泥酔客にはギャンブルをさせないというものであるが、カジノにとって超VIPだった彼については、プレーに水を差すのを恐れてどの従業員も口出しも手出しができなかったらしい。Watanabe氏の写真は、従業員控え室にも掲げられていた。同じラスベガスのWynnホテルでは、過度な飲酒癖、ギャンブル癖を理由に、オーナーであるSteve Wynn氏自ら、Watanabe氏にカジノの立ち入り禁止を2007年に宣告したという。行くところを失ったWatanabe氏は、Harrah'sとRioの両カジノに行くようになった、という構図。
Watanabe氏は一度に24時間連続でギャンブルし、最大5百万ドル負けていた。
カジノ関係者の間では彼のギャンブルの仕方も有名であれば、気前の良さも伝説的だったらしい。
一度に2万ドル(約180万円)のチップを渡したり、数千箱のTiffanyのギフトボックスに$50や$100のギフトカードやコインを入れ、気前よくこれを配った。一度などは警備員にスーパーに行くように命じ、ありったけのステーキを買わせてきてそれを従業員に配ったという。
Watanabe氏は、オマハ州ネブラスカに移住した日系一世の長男として生まれた。父は1932年にOriental Trading Companyという、パーティグッズの販売会社を起こし、Watanabe氏が20才の時に社長になった。
商才があった彼は業績をグングン伸ばし、2000年に売却する頃には年商3億ドルの会社になったという。売却先は、プライベートエクィテイファンドのカーライル、ということで更に驚く。ある意味、このWatanabe氏はアメリカンドリームを体現している。
会社を売却した後、彼は暇になり、レストランなど幾つかの新事業を起こしたもののうまく行かず、2003年に地元のカジノでギャンブルに嵌るようになり、2005年にラスベガスでギャンブルするようになった。2006年、彼はWynnのカジノで主にギャンブルしていたのだが、前述のようにCEO Steve Wynnの目に留まり、直接面会をした後、Watanabe氏はWynnカジノへの立ち入りを禁止され、今度はHarrah's、Rioの両カジノに入り浸るようになった。
Harrah'sが彼を引き止める為に用意したインセンティブは大変なものだったらしい。ローリングストーンズのコンサートチケットにはじまり、毎月の航空券代として$12,500ドル(約110万円)、ギフトストアでの買い物用に50万ドルを与えた(=約4500万円)。また、損についても15%のキャッシュバック制度を特別に供与し、部屋はシーザーズパレスの3ベッドルームスィートに無料で泊まらせ、ギャンブルしながら食事ができるようにと、7コースの食事をテーブルに持ってきたりしていたらしい。
この話しが更にすごいのは、彼はハウスゲームと言われる、客が勝つ確率が非常に低いスロットやルーレットにのめり込んでいたことである。それだけではない。ブラックジャックでも、彼は全く定石を無視したプレーをしていた。負けるべくして負けたのである。
現在Watanabe氏は賭博依存症のリハビリ施設にいる。来年の夏、賭博債務に係る裁判が行われる予定である。
You can't make this up. 怖すぎる話である。