日本のメディアでも報じられているように、年明けから中国によるベトナム漁船の「破壊」が起きているようです。それに輪をかけるように、海南省が南シナ海領海における警察権を強化したとする条例が注目され始め(実は内容はショボい?というKinbricksさんの分析もありますが)、周辺国の激しい反発を呼んでいます。実際の「破壊」がどうであるか、この条例はの意味合いは、といったことは既にされている報道にお任せして、ここではベトナムの視点に立って経緯を追って見ることにします。年明けからエスカレートし始めているこの情勢に「3つの伏線」があり、更に今後の自体の進展には「2つの地雷」があり得ると思います。この時期に問題が多発(少なくとも表面化)している、その背景について時系列で考えたいと思います。
CCTVによる両国船舶の「衝突映像」、ベトナムでの報道は抑えられたようだが・・・
【年末の伏線その1:安倍首相靖国参拝を巡って】
両国関係で一つ伏線として考えられるのは、年末にあった安倍首相の靖国神社参拝への対応です。中韓を筆頭に反対の声が大きかった中、こちらの記事でも書きましたがベトナムは基本的に「超様子見」でした。そんな態度を見かねてか(!?)、12月30日に中国の王毅外相がロシア、ドイツ、ベトナムの3カ国外相と電話会談をして、その全てと「日本の問題」(タイミングからして靖国参拝に触れたはず)について意見を交換しました。中国外務省HPによるとロシア外相は「中国と意見が一致」、ドイツ外相とは「意見交換をした」(でも恐らくドイツの本音は「もうEUとして立場は表明したじゃーん、かと)。そして気になるベトナム外相とは「日本問題を含む地域の問題について意見交換した」のみ。あれあれ。
頑なに「様子見」を続けるベトナム、でも翌日に中国の熱意におされてか(!?)ベトナム外務省が安倍首相靖国参拝に関し、ようやく声明を発表、しかしその超短い、超差し障りの無い、そっけない声明なこと。ある意味ベトナムは毅然とした態度で「様子見」を突き通した、ということになりますね。
【お正月の伏線その2:ベトナムがロシアから調達した潜水艦がついに到着】
旧正月が本番のお正月なので西暦は元旦だけがお休みの両国。1月1日、2014年明けた瞬間にベトナムで流れたニュースは、前日12月31日にベトナムがロシアから調達したキロ型潜水艦、「ハノイ」号がサンクトペテルブルクから27,000キロの航路を経てカムラン港到着した、というものでした。これは昨年5月ベトナムのズン首相が訪露時に契約したもの。普通に考えて、海軍力アップはやはり中国との間で抱える領土問題を念頭に置いているのでしょう。
今回来たのは1隻目ですが、お買い上げは全部で6隻。総計20億ドルの高い買い物ですが、ネットで観る国民の反応は概ねポジティブです。2隻目がロシアのサンクトペテルブルクで引き渡しされたというニュースには、「オレが給与1ヶ月分寄付するから、もっと買え!」という根拠ないけど威勢の良いコメントが人気を集め、「皆君のような愛国者ならあと35隻買える」という、大雑把な試算コメントまで付いています。
ともあれロシアからベトナムへという軍備の流れは(当時と事情は全然違いますが)、ベトナム戦争終盤から戦後にかけてのベトナムとソ連の蜜月時代(=団結しての中国への対抗)を想起させるかも。中国側からすると気に入らないニュースとはなったでしょう。
【年始の伏線その3:「衝突映像」の公開】
年明けにあったもう一つの伏線はCCTVによる両国船舶の「衝突映像」です。最初はCCTVの新浪微博で知ったのですが、2007年6月に南シナ海での中国・国家海洋局指揮下の巡視船(海监)とベトナム「武装船」が衝突した映像が、CCTV「走遍中国」番組で公開されました。微博上では予想通り反発のレスが多数、しかしそれを引く形で報じたBBC Vietnameseにも今度はベトナムネット民からフェイスブック上にコメントが多数。6年以上前の事件に対して、このタイミングでの映像初公開が憶測を呼びます。
正直、「これはベトナムメディアも反応来るぞー、絶対」と思っていたら、結局ベトナムローカルメディアでは反応したのはThanhNien、DoiSongPhapLuatと少しヤンチャな2つ程度(しかもネット上でのみ)。通常ならTuoiTre他商業系メディアが絶対食いつくネタだと思いましたが、非常にローキーで抑えられました。これは明らかにベトナム政府の思惑があったでしょう。領土問題は国民の絶対的な支持は得られる反面、ベトナムでは非常に珍しい市内でのデモなどにも発展することがあり、政府も基本的には自由にしつつも、過激になり過ぎないよう抑える時はあります。
これらの伏線があってか、そしてその過程で抑えられた鬱憤もあってか(!?)、10日ベトナム外務省が海南省の条例に関して「ベトナムの領海に勝手に触れており、全く無効。撤回ありたい。」とはっきりした声明を出したところで、ある意味メディアに対してもこの問題を切り口にすれば「お墨付き有りだ!」ということになり、ネットニュースサイトは南シナ海の問題で一気に騒々しくなってきました。今朝の紙メディアでも国際面は全て触れられています。
【2つの地雷がもたらす今後の展開は?:西沙諸島海戦40周年と中越戦争勃発35周年】
こうして年明けからきな臭いニュースの続く南シナ海、そして中越関係。この3つの伏線の相互関係はわかりませんが、表に出てきたタイミングから、また今回の海南省条例を巡るさらなる論戦をヒートアップさせてしまうに十分な下地となってしまったでしょう。
実は今年は1974年1月に「西沙諸島海戦」が勃発し、西沙諸島(パラセル諸島)を中国が実効支配を始めてちょうど40年になるのです。まだベトナム戦争が終わっていない「74年にベトナムと戦争?」というのがちょっと不思議にも思われますが、当時西沙諸島を支配していたのは「ベトナム共和国(南ベトナム)」ということで、北ベトナムでは無かったんですね。戦後統一ベトナムは抗議をするも、今に至るまで西沙諸島は中国の支配下にあります。ベトナムでは毎年のように西沙諸島、南沙諸島に関するイベントが開かれており、「領土を守れ!」という声は毎日のようにメディアでも聞かれます。特に中国に実効支配を許している西沙諸島(ベトナム語ではHoàng Sa)に対する思いは強く、今年(初頭)はただでさえこの問題が盛り上がる下地があったと言えます。
2014年はのっけから、40年前の1月15日から始まった西沙諸島海戦に続き、2月17日には中越戦争勃発35周年という記念日もやってきます。中越関係を考えれば短い期間に「2つの地雷」をすり抜けるようでしょう。この両イベントというをベトナムが、そして中国がどのように「記念」するか、これにより今後の領土問題を巡る両国(特にベトナム)世論はヒートアップする可能性を秘めています。2014年の両国関係はどうなっていくのでしょうか?
CCTVによる両国船舶の「衝突映像」、ベトナムでの報道は抑えられたようだが・・・
【年末の伏線その1:安倍首相靖国参拝を巡って】
両国関係で一つ伏線として考えられるのは、年末にあった安倍首相の靖国神社参拝への対応です。中韓を筆頭に反対の声が大きかった中、こちらの記事でも書きましたがベトナムは基本的に「超様子見」でした。そんな態度を見かねてか(!?)、12月30日に中国の王毅外相がロシア、ドイツ、ベトナムの3カ国外相と電話会談をして、その全てと「日本の問題」(タイミングからして靖国参拝に触れたはず)について意見を交換しました。中国外務省HPによるとロシア外相は「中国と意見が一致」、ドイツ外相とは「意見交換をした」(でも恐らくドイツの本音は「もうEUとして立場は表明したじゃーん、かと)。そして気になるベトナム外相とは「日本問題を含む地域の問題について意見交換した」のみ。あれあれ。
頑なに「様子見」を続けるベトナム、でも翌日に中国の熱意におされてか(!?)ベトナム外務省が安倍首相靖国参拝に関し、ようやく声明を発表、しかしその超短い、超差し障りの無い、そっけない声明なこと。ある意味ベトナムは毅然とした態度で「様子見」を突き通した、ということになりますね。
【お正月の伏線その2:ベトナムがロシアから調達した潜水艦がついに到着】
旧正月が本番のお正月なので西暦は元旦だけがお休みの両国。1月1日、2014年明けた瞬間にベトナムで流れたニュースは、前日12月31日にベトナムがロシアから調達したキロ型潜水艦、「ハノイ」号がサンクトペテルブルクから27,000キロの航路を経てカムラン港到着した、というものでした。これは昨年5月ベトナムのズン首相が訪露時に契約したもの。普通に考えて、海軍力アップはやはり中国との間で抱える領土問題を念頭に置いているのでしょう。
今回来たのは1隻目ですが、お買い上げは全部で6隻。総計20億ドルの高い買い物ですが、ネットで観る国民の反応は概ねポジティブです。2隻目がロシアのサンクトペテルブルクで引き渡しされたというニュースには、「オレが給与1ヶ月分寄付するから、もっと買え!」という根拠ないけど威勢の良いコメントが人気を集め、「皆君のような愛国者ならあと35隻買える」という、大雑把な試算コメントまで付いています。
ともあれロシアからベトナムへという軍備の流れは(当時と事情は全然違いますが)、ベトナム戦争終盤から戦後にかけてのベトナムとソ連の蜜月時代(=団結しての中国への対抗)を想起させるかも。中国側からすると気に入らないニュースとはなったでしょう。
【年始の伏線その3:「衝突映像」の公開】
年明けにあったもう一つの伏線はCCTVによる両国船舶の「衝突映像」です。最初はCCTVの新浪微博で知ったのですが、2007年6月に南シナ海での中国・国家海洋局指揮下の巡視船(海监)とベトナム「武装船」が衝突した映像が、CCTV「走遍中国」番組で公開されました。微博上では予想通り反発のレスが多数、しかしそれを引く形で報じたBBC Vietnameseにも今度はベトナムネット民からフェイスブック上にコメントが多数。6年以上前の事件に対して、このタイミングでの映像初公開が憶測を呼びます。
正直、「これはベトナムメディアも反応来るぞー、絶対」と思っていたら、結局ベトナムローカルメディアでは反応したのはThanhNien、DoiSongPhapLuatと少しヤンチャな2つ程度(しかもネット上でのみ)。通常ならTuoiTre他商業系メディアが絶対食いつくネタだと思いましたが、非常にローキーで抑えられました。これは明らかにベトナム政府の思惑があったでしょう。領土問題は国民の絶対的な支持は得られる反面、ベトナムでは非常に珍しい市内でのデモなどにも発展することがあり、政府も基本的には自由にしつつも、過激になり過ぎないよう抑える時はあります。
これらの伏線があってか、そしてその過程で抑えられた鬱憤もあってか(!?)、10日ベトナム外務省が海南省の条例に関して「ベトナムの領海に勝手に触れており、全く無効。撤回ありたい。」とはっきりした声明を出したところで、ある意味メディアに対してもこの問題を切り口にすれば「お墨付き有りだ!」ということになり、ネットニュースサイトは南シナ海の問題で一気に騒々しくなってきました。今朝の紙メディアでも国際面は全て触れられています。
【2つの地雷がもたらす今後の展開は?:西沙諸島海戦40周年と中越戦争勃発35周年】
こうして年明けからきな臭いニュースの続く南シナ海、そして中越関係。この3つの伏線の相互関係はわかりませんが、表に出てきたタイミングから、また今回の海南省条例を巡るさらなる論戦をヒートアップさせてしまうに十分な下地となってしまったでしょう。
実は今年は1974年1月に「西沙諸島海戦」が勃発し、西沙諸島(パラセル諸島)を中国が実効支配を始めてちょうど40年になるのです。まだベトナム戦争が終わっていない「74年にベトナムと戦争?」というのがちょっと不思議にも思われますが、当時西沙諸島を支配していたのは「ベトナム共和国(南ベトナム)」ということで、北ベトナムでは無かったんですね。戦後統一ベトナムは抗議をするも、今に至るまで西沙諸島は中国の支配下にあります。ベトナムでは毎年のように西沙諸島、南沙諸島に関するイベントが開かれており、「領土を守れ!」という声は毎日のようにメディアでも聞かれます。特に中国に実効支配を許している西沙諸島(ベトナム語ではHoàng Sa)に対する思いは強く、今年(初頭)はただでさえこの問題が盛り上がる下地があったと言えます。
2014年はのっけから、40年前の1月15日から始まった西沙諸島海戦に続き、2月17日には中越戦争勃発35周年という記念日もやってきます。中越関係を考えれば短い期間に「2つの地雷」をすり抜けるようでしょう。この両イベントというをベトナムが、そして中国がどのように「記念」するか、これにより今後の領土問題を巡る両国(特にベトナム)世論はヒートアップする可能性を秘めています。2014年の両国関係はどうなっていくのでしょうか?