「死刑でいいです-孤立が生んだ二つの殺人」

という本を10月1日に出版しました。


4年前に大阪で女性2人を刺殺し、今年7月に死刑になった山地悠紀夫の人生を追ったルポです。山地は16歳の時、山口県で母親をバットで撲殺し、少年院を出て再び事件を起こしました。こんな悲惨な事件を防ぐために何ができるかを読者の皆さんに一緒に考えていただこうと書きました。



昨年、「『反省』が分からない-大阪・姉妹刺殺事件」として全国の新聞社に配信した50回の長期連載に加筆した作品です。連載は新聞労連が人権擁護に寄与した記事に与える「疋田桂一郎賞」を受賞しました。作家高村薫さんにも高い評価を頂き、表紙はドラマ化もされた「ブラックジャックによろしく」「海猿」の漫画家佐藤秀峰さんが趣旨に賛同して描いてくださいました。



山地は二つの事件で「死刑でいい」と言い、反省の態度を全く示しませんでした。遺族の気持ちを考えると「そんな奴は死刑になって良かった」と思われるかもしれません。ただ、背景には複雑な事情が絡み合っています。


彼は幼少期から酒乱の父の暴力にさらされ、小5で父が病死すると水道も止められる母子家庭の貧困生活を経験し、いじめで不登校になり、就職も失敗して、それでも新聞配達で家計を支えました。しかし、母が多額の借金を隠し、交際中の彼女に干渉したことを責めるうち、激昂して殺害してしまいした。


少年院で意外な事実が分かります。精神科医の診断は「広汎性発達障害のアスペルガー症候群」。そのため他人の気持ちが分からず、反省できなかったのです。でも、少年院を出た後は何の支援もなく孤立を深めていき、追い詰められて事件を起こしました。周囲の支援があれば、二つの殺人は防げたかもしれません。



この10年、アスペルガー症候群と診断された重大な少年事件が目立ちます。ただ、専門家は「アスペルガーだから事件を起こすのではない。周囲から孤立し、様々な要因が重なって事件に至った」と説明します。だから、事件を防ぐには、孤立させないことが重要で、福祉的な支援が欠かせません。本書は「発達障害をもつ大人の会」も取材し、当事者の悩みや支えあう様子も記しました。


 秋葉原や茨城県土浦市の殺人事件など「死刑でいい。反省はしない」と言う加害者が続きます。彼らには他人と自分の死が実感できていたのでしょうか。死刑にするだけでなく、事件の背景を掘り下げないと次の事件が続くだけです。



山地の人生をリアルに再現して読みやすい内容にしながら、重い読後感が残る本になったと思います。近く裁判員制度で初の死刑判決が出るでしょうが、鳩山内閣の千葉法相は死刑廃止論です。死刑について関心を持つ方は多いと思います。多くの人に手にしていただき、再発防止のきっかけになればありがたいです。