汐を出産したと同時に渚は命を失った。その後朋也は、朝起きて仕事に行き帰ってきたら寝るだけという、目的のない惰性だけの生活を贈っていた。現実から背をむけ、仕事だけに没頭して他の何も省みず休まず働いた。仕方なく休んだ日には、渚の居ない世界を思い出してしまう怖さから酒とパチンコに金を費やした。再び自分の住む街が嫌いになり、渚と出会う前の生き甲斐もない生活に戻ってしまった。そんな生活が5年も続き、汐は古河家で押し付ける形で預け、たまに会いに行ってもあまりコミュニケーションを取ろうとしなかった。



 夏のある日休みでも閉じ篭りがちの朋也の部屋に来客が訪れた。その来客とは、ずっと世話になっている早苗。久し振りに一緒にデートをしようと誘い外に連れ出すと、朋也は自分の知らない内に街が、大きく変わっている事実を知り、時の流れに取り残されていると気付き始めた。そのまま渚が働いていたファミリーレストランに移動した2人。早苗は、朋也にまとまった休みを取って旅行に行こうと誘った。旅行には、秋生と汐も行くと知り。一呼吸置いてとりあえずその場は返答を保留にした朋也。しかし帰宅後狙ったかのように早苗から催促の電話が掛かり、根負けして休みを取り旅行に行く事を承諾した。



 旅行出発日当日朋也は、古河家に到着した。玄関の前で挨拶したが、何の返答もなかった。とりあえず中に入ると、渚の部屋の前で感傷に浸った。その後居間に行くと秋生と一緒に出かけるという主旨が書かれた、早苗の置き手紙が残されていた。誘っておきながら誰も居ない状況に困惑した朋也。そこに小さな子供の影が見えて呼び寄せた。その子供こそ渚の忘れ形見の岡崎汐だった。父親であるはずの朋也に警戒心を持ち、旅行に行くのは秋生と早苗が言い出した汐。朋也との親子関係は無いに等しく、勝手に遊べと言われて遊ぶほどだった。



 それでも転んでおもちゃが壊れたら直してあげ、お腹がすいたから一緒に買い物に行って、焼飯を作るなど親らしい事もした朋也。しかし汐は朋也の料理を一言でまずいと片付け、白いご飯にふりかけを掛けて食べるなど、完全に受け入れようとしなかった。結局夜まで早苗と秋生は戻ってこず、翌日の朝になった。トイレに行くと言い出す汐に対し、ただ行って来いというだけの朋也。会話らしい会話もなく、ぎこちない時間だけが流れようとしていた時、楽しそうに親子で旅行に出掛ける姿を目撃した。思い切って朋也は、汐に旅行に行くかと誘うと、早苗や秋生が居なくても旅行に行く事を了承した汐。5年間親らしい事をしなかった青年と、親を知らない幼い少女の旅が始まった。



 列車に乗った2人は、周りの子供が騒ぐのとは対照的に殆ど口を聞かなかった。「ねえ遊んでよ。いつもご本読んでる。アッキーとは、野球やってる。」珍しく汐の方から声を掛けた。立ち上がり元プロ野球選手の真似をしてみせた。「おっさん何教えてるんだか。」呆れ顔で汐のモノマネを見つめる朋也。そんな時母親が話を聞かないと、隣の子供が騒ぎ立てた。「うるせぇ!ちっとは周りの迷惑も考えろ!」最近温厚だった朋也が、イライラを爆発させた。その言葉は母親を怯えさせ萎縮させ、汐は気付くと席から離れていた。(汐ちゃん駒田って古いな。10年前の満塁男じゃないですか。しかも2000本安打達成してるし。おっさんは野球のモノマネを教えているのかよ。何やってるんだかと思います。それは朋也の言うとおりです。まだ幻想世界の謎が解き明かされてない中、クライマックスに向けてどうなるか。親子関係は冷え切ったままです。)



 乗っていた車両を出て汐を見かけたのは、トイレの前だった。目を真っ赤にしていた汐は、怖くて泣いていた。「早苗さんが泣いちゃ駄目だって。でもおトイレなら泣いても良いって。」隠れて泣くように教育されていた汐。「泣いてもいいんじゃないのか?今の内に泣いておいた方がいいぞ。大きくなったら泣きたくても泣けないんだから。」同情せず泣いておけと言い放った朋也。何故泣いたのかなど、理由も尋ねず相変わらず関係はドライだった。列車はターミナル駅に到着して、2人は下車したが会話はなかった。「おいおもちゃいるか?なんか選べよ、買ってやるから。」突然おもちゃを買ってやると言い出した朋也。「うん!」うなづいた汐。土産物店に行き、商品を眺めていた。「おいこれなんかどうだ?」とりあえず選んだロボットを指し示した朋也。普通ロボットは男の子が欲しがるはずだが、2つ返事で了承した。「無理するなよ!本当は女の子向けのおもちゃの方がよかったんだろ。」自分が選んだロボットに満足していないと思い、女の子向けの方がよかったかと尋ねた朋也。「これがいい!これ好き。」自分の為に選んでくれたおもちゃに汐は、満足していた。(泣かせたのは怒鳴ったせいなのに何も理由も聞かず、泣けるうちに泣いておけなんて冷たく突き放す朋也。しかし自分が選んだおもちゃを汐は喜んでいた。これがというのがポイントで、これでいいだったら受動的な表現です。これが良いというのは能動的な表現だから、ここに汐の思いが出ているのではないでしょうかわった奴なんて思っている朋也は、汐の気持ちに気付いていないようですけど。)



 「楽しい夏休みになっているんだろうか。そんな訳ないか、俺なんかと2人きりで。」会話も笑いもない旅行。しかも殆ど他人同然の自分と2人っきりの旅行。朋也は、汐との心の溝は大きく楽しい筈が無いと考えていた。旅館について夜寝静まった頃、汐は暗い中トイレに起きた。流石に1人では行かせるのは心配で、付き添った朋也。「1人で出来た!」自分で用を足し自慢する汐には相変わらずノーリアクションだった。「ねえあれ何?」蛍に気付いた汐。「ああ蛍だよ。こっちは遅いんだ。うんまだ何かあるのか?」蛍と教えて、星空を見上げた朋也。その様子を見て汐が

顔を見つめた。しかし朋也に何か言われると思い、それ以上怖くて何も言わなかった。「何なんだよ何か言いたい事があるんだろ!俺のことまだ怖いのか?言ってみろ怒鳴らないから。」もどかしさを感じ自分から言わせるように仕向けた朋也。「ママの事教えて!」汐が聞きたかったのは、何も知らない母渚の事だった。「早苗さんに聞けよ!俺からは話してくれなかったって!」渚の死を引きずり、現実から目を背けた朋也には話す気などなく、また冷たくあしらった。(汐は朋也を恐怖の目で見ている事がこの場面で強調されてました。聞きたい事が聞けない。聞いても自分から何も言ってくれない。それじゃあ子供が心を開くはずがありません。こんな親子関係は余りにも悲しいです。)



 翌朝ローカル線の小さな終着駅にやって来た朋也と汐。自然が残る美しい森の中を歩くとひまわりが辺り一面に咲く風景に出くわした。「もっとよく見たいか。ほら足開けよ!」優しく声を掛け肩車をしてあげた朋也。「うああああ凄い!」居間までの目線とは違う高さの光景を見て、感嘆の声を上げた汐。おもちゃを買ってもらった時同様、子供らしく無邪気にはしゃいだ。そのままロボットも手に持ちひまわりの中を走り回った。「一応来て良かったって事か。」汐の嬉しそうな顔を見て、来た甲斐があったと感じ始めた朋也。手を振る汐にも手を振り返し、父親らしい素振りも行った。しばらく汐だけが走り回り、朋也は木の影で眠っていた。「無くなっちゃったロボット!」嬉しそうな表情が一変、ロボットが無くなったと悲しそうに告げた汐。2人でひまわりの中を懸命に探しても見つからず「汐諦めよう!帰りに同じ物を買おう。ないんだから仕方ないだろう。」また同じロボットを買ってやるから、探すのを止めようと言い聞かせた朋也。「あれがいい!」あのロボットにこだわる探し続けた汐。「頑固だなあ!」呆れ顔の朋也は、また木の影で座っていると、ひまわりの中にいる汐と過去の自分突然フィードバックした。(汐にとっては、大切な物。しかし朋也にとっては、とりあえず買ってやったぐらいにしか思ってない物。同じ物だけど価値が全然違います。頑固だと呆れる朋也には、今の汐の気持ちを理解出来るはずないですね。)



 懐かしい直幸に手を引かれた少年時代の姿を思い出し、朋也は汐に動くなと言い残し、先の方に歩いて行った。「何だろう覚えがある。」かすかに残る記憶が蘇りながら、階段を登り頂上に辿り着くと、1人の老婆がベンチに座っていた。「岡崎朋也さんですね?私は岡崎史乃と申します。あなたのお父さん岡崎直幸の母です。古河さんという方から連絡をいただきました。ここに居ればあなたがいらっしゃると。」老婆の名前は岡崎史乃。朋也が顔を直視しない直幸の母親つまり祖母に当たる人物だった。早苗から連絡を受け、朋也がやって来ると聞き待っていた。「お会いした事あるんですか?」朋也は成長を感じた史乃について記憶がなく初対面だと思っていた。「あなたが小さい頃にこの場所で。あなたのお母さん敦子さんが亡くなった後です。」子供の頃に会っていた事実を告げた史乃。直幸の起こした犯罪で迷惑を掛けた事を謝罪した。そして父直幸の過去について話し始めた。(早苗さんはここまで仕組んでいましたか。朋也が汐と向き合うには、こういう手段しかないですからね。やっぱり考えていたのでしょう。それに応えた史乃さんも朋也の様子を知り、直幸と同じ道を歩んでいると感じたはずです。)



 直幸と敦子は高校生の時に出会い、周囲の反対を押し切り中退して結婚した。2人で狭いアパートに住みながらも幸せを感じていた直幸。そこにはまだ経験が足りない自分が、愛する敦子を守って行こうと思い全てを捧げた。やがて敦子は朋也を身ごもり、ささやかな祝福の中誕生した。しかし敦子は事故で無くなり、直幸のささやかな幸せが消え、立ち直れないほどの深い悲しみに襲われた。それでもただ絶望する訳にはいかなかった。幼い朋也が残されていたから。故郷を朋也と手を繋ぎ旅立った直幸。絶対に1人で育て上げるのだと、強い思いを持ちながら何度もクビになっても働き続けた。全ては愛する息子の為に、なけなしのお金でおもちゃ屋お菓子を買い与えた。自分を犠牲にしても朋也の幸せと成長を願いながら。しかし直幸にとっての生活はつらさだけだった。仕事のストレスを酒で打ち消し、酔って暴れウサを晴らす。そんな生活の結末は破滅をもたらしただけ。仕事・運・友情・親子の絆全てを失った。(そんな過去があったとは。直幸はグータラな親父のイメージしかない。しかし朋也を想う心は誰にも負けない。一生懸命に頑張った息子の姿を母はちゃんと見ていた。だけどそれは朋也は知らずに、駄目な男として邪魔者扱いするだけだった。ちょっと信じられなかったですね。直幸にそんな強い思いがあったとは。)



 「あなたも直幸と同じような境遇だと聞きました。だからこそこの話をしたんです。直幸がどんな父親だったか知って欲しくて。」直幸の過去と想いを知って欲しいと願った史乃。朋也にも同じ道を歩んで欲しくないそんな気持ちが込められていた。「お菓子を買ってもらいました。手を繋いで散歩に行って。何で忘れていたんでしょう。俺の方がよっぽど親父より駄目な人間です。俺はあの日の親父と同じ所に立っています。俺は弱くて情けないです。」父親を見下していたはずの自分が、子供の為に何かしようとしない駄目で弱くて情けない人間だと思い知った朋也。「私はあの子を誇りに思いたいんです。人間としては駄目な所があったけど、父親としては立派だったと。」直幸は確かに犯罪まで犯した人間だが、子供を想う気持ちは本当に強かった。そんな息子を誇りに思う史乃。「俺もそう思います!」朋也も史乃と同じ気持ちになった。その言葉を聞き、史乃は頭を下げ感謝した。(酒に負け溺れ全てを失ったが、父親として一生懸命頑張った直幸の努力を母は認め誇りに思った。見下していた朋也は、逆に自分が最低な駄目な人間だと思い知らされ、尽くしてくれた父親を誇りに思い始めた。ここは大きなターニングポイントです。私はもうこの辺から涙腺崩壊してました。)



 「朋也さんあの子は頑張り過ぎました。直幸に伝えてください、もう帰ってくるようにと。私はこの土地で待ってますと。」朋也に共感してもらいほっとした史乃。直幸に故郷に戻って来るように伝言した。それを聞き終え一礼をしてから、まだロボットを探している汐の所に戻った。「ずっと探していたのか。汐、あのロボットな見つからないかもしれない。だから新しいの買おう!」同行した史乃に紹介してから、諦めて新しいロボットを買おうと言い聞かせた。「あれ1つだけだから!初めてパパが買ってくれたものだから。」汐にとってあのロボットは、初めて父親から買ってもらったかけがえのない思いが詰まっていた。「汐、寂しかったか?俺なんかと旅行出来て楽しかったか?汐、側にいていいかな?長いこと駄目なパパだったけど、これからは汐の為に頑張るからさ。側にいていいかな?」直幸の話を聞いてから朋也は、向き合い汐の為に頑張る決意を伝え一緒にいたいと想いを告げた。「うん居て欲しい!でも大切な物無くしたから悲しい。パパあのねもう我慢しなくていいよね。早苗さんが言ってた、泣いて良いのはおトイレかパパの胸の中だって!」素直に父親を受け入れ、大切なロボットを無くした悲しさを我慢せず号泣した汐。自分を受け入れてくれた娘に謝罪し、朋也も娘を抱かかえ号泣。親子の絆は5年目にして生まれた。(もう号泣しました。親子の絆って本当に素晴らしいです。そこには父親の気持ちを知った朋也が、自分も父親として汐に向き合おうと決めた決心がありました。渚は亡くなってしまったけど、汐を大切にしていかないと行けない。そういうのがこれからもずっと必要だと痛感しました。)



 2人は仲良く電車に乗り、旅から戻ろうとした。そこには最初の頃にあったギクシャクした関係はもうなくなっていた。「ママの話をしてあげようか。」嫌悪感を示した渚についての話を朋也自ら汐に聞かせてやろうと提案した。「うん!」直ぐに汐も頷き、出会いのエピソードから話始めた。すると5年間向き合おうとしなかった渚への想いが、大粒の涙となって溢れた。その姿に汐も貰い泣きをすると、優しく頭を撫でた朋也。演劇部の設立の話をしながら「渚、やっと見つけたよ!やっと見つけたんだ。俺にしか守れないかけがえの無い者を。それはここにあった。」5年間遠回りして朋也が得た結論は、父親として、かげがえの無い大切な存在汐を守ると渚に誓った。(本当にこれは、アニメファンだけじゃなくて、普通の人にも観て欲しい感動の作品です。スタートした時からCLANNADは、多くの人に知って欲しいと思い書いてきました。でも色々な絆を京都アニメーションさんは、視覚と聴覚で表現して心に訴えてきました。親子の絆をこれほど感受性溢れる作品に仕上げてくれた事に感謝したいと思います。そして今度は朋也が父直幸との縁を取り戻す時が来ました。父親の姿を知った今ならそれも実現するでしょう。また感動の涙になしでは語れませんね。)