新たな命が渚に授り、秋生と早苗も祝福した。しかし身体が弱く妊娠した渚は、アルバイトを休まなければならない。赤ちゃんと共に渚を守る為、朋也に責任が重くのしかかった。一生懸命仕事に精を出しながらその一方で家事を手伝ったり料理を作るなど、献身的に協力した。そして渚が選んだのは自宅出産だった。身体の事を考慮すると不安になる朋也だが、早苗の紹介した助産士八木も協力すると申し出た。ただ渚に精神的負担を与えない事を条件にして。その事を朋也に内緒で話したが、渚は自分の出産はリスクが高いという事に気付いていた。
それでも赤ちゃんを産みたい、朋也が支えてくれれば大丈夫。渚は赤ちゃんの誕生だけを考えていた。そんな時早苗から渚の出産には、普通よりも負担が掛かる事が告げられた朋也。もしかしたら命の危機にも関わる可能性もあり、諦めるかどうか決断を迫られた。結局ありのままの真実を伝えられてが、渚は考えを変えず出産にこだわった。秋生も思い出の場所を見せて、朋也と一緒に助け合って支えていこうと告げた。そして秋になった頃海を見に行った時渚は、子供の名前を「汐」と名付けようと提案した。朋也は現実味を帯びる赤ちゃんの存在を実感し始め、翌年一緒に海に行こうと約束をするのだった。(幻想世界と現実世界の結び付きが分かって来ました。終わった世界とは、時が動かない世界だと理解し始めました。今まで謎だった事が徐々に分かるきっかけになるお話です。あの絶望感に満ちた世界なんて嫌です。3人で仲良く凄い手欲しいと思っているんです。とにかく渚ちゃん無事で赤ちゃんを産んで欲しいです。)
岡崎家の表札には、渚の名前だけでなく汐の名前も既に書かれ、おむつなど赤ちゃんに必要な道具も買い揃えてあった。「朋也君忘れ物ないですか?しおちゃんお見送りです。」妊婦らしいおなかになった渚。おなかの中の汐と一緒に、仕事に行く朋也を見送った。実は身体の弱い渚に負担を掛けまいと、早苗と秋生が交代で岡崎家を訪れ世話をしていた。こうした2人の計らいで、朋也は仕事に集中して励む事が可能となった。全ては渚が無事汐を出産させたい思いがあったから全員が一致団結して協力していた。こうした日々が続いたある日、仕事から帰って来た朋也。古河家に戻る早苗を送ろうとしていた。「早苗さん、俺を恨んでいるんじゃないかって?時々思う事があります。俺と出会わなければ、危険と隣り合わせの出産をする必要ななかった。
俺が渚を変えてしまったんです。もし出会わなければ家にいて、友達は少なくても幸せだったのかもしれないと。」弱々しかったという渚の第一印象。声を掛ける事で生まれた出会いが、人生を変えてしまった。きっかけを作った朋也は、早苗が恨んでいると考えていた。(出会いが恨みを呼ぶなら渚も朋也と結婚しなかったはずです。渚を妊娠させた事が、もしかしたら最悪の結果を招くかもしれないと、朋也は思ったのでしょうか?ガラクタ人形と少女は、時が進まない終わった世界を脱出しようとしているけど、終わった世界って絶望感しか漂ってない気がします。)
「私と秋生さんは、朋也さんにどれだけ感謝しているか。決して不幸だなんて思いません。これは本心です。」朋也との出会いを恨むどころか、感謝していると答えた早苗。決して同情ではなく
ありのままの本心だと強調した。季節は流れ吐く息が白くなる冬を迎えた。もう直ぐクリスマスイブすなわち渚の21歳の誕生日が近づいて来た。病院での検診後朋也は、プレゼントのリクエストを聞いた。「だんご大家族です!」即答した渚だが、だんご大家族グッズは中々手に入れるのが困難になっており朋也は諦めていた。しかしだんご大家族グッズが手に入り、大事そうに抱え喜ぶ渚。まるでまた新しい家族が増えたかのように。「私3つも一緒に抱けないです。朋也君に抱いて欲しいです。」渚の思わぬリクエストが、朋也に向けられた。リクエスト通り抱きしめると
グッズには渚のぬくもりが残っていた。(渚にとってだんご大家族は、朋也との時間の証なんですよね。誕生日を迎えると1つづつ増えていく。まさに絆の象徴だと感じました。余談ですが井上喜久子さんは、誕生日になっても17歳ですから、プレゼントにだんご大家族グッズを渡す事はできないですよね。(笑)17個から動きませんよ。)
新たな年を迎え、仲間達が岡崎家に集まって来た。髪を黒髪に染めて、社会人になっても
行動パターンが変わらず、渚の大きくなったおなかを触ろうとする陽平。強引な力技で陽平を
排除する杏と控え目な椋。それぞれが卒業して違う人生を歩んでも、再び集まって来た事を喜ぶ渚と朋也。「私アメリカから帰って来たの。皆あけましておめでとうございますなの。」晴れ着姿で
登場したのは、留学から戻って来たことみ。おなかを触り中の新たな命の躍動に感動した。一方で再び触ろうとした陽平のチャレンジは、杏により完全シャットアウトされた。久し振りの再会を果たした朋也達。おせち料理を囲みながら送られた年賀状を全員で見ていた。家族との関係が改善して仲良く写真に写る智代。やんちゃな仲間達と一緒に写真に写る有紀寧。バイト仲間のりえと杉坂からもメッセージが届いた。「あっそうだこれ芽衣ちゃんに渡してくれ。芳野さんの新曲だよ。インディーズで活動再開したんだ。芳野さんと俺とで考えたんだ。」祐介のファンの芽衣にプレゼントが贈られた。タイトルは「ラブ&スパナ」陽平はアルファベット読めなかったが、どん底から立ち直り今の姿が表現される、最もなタイトルだった。(陽平の地元って東北ですよね。一応正社員で働いているのかな?どんな仕事してるのか気になりますけど、黒髪になっただけでなく精神的に大人になったと思うのは、私だけでしょうか?逆に杏の方が全然変わってない気が。)
「なあ岡崎、父親になる気分はどうだ?僕は親になるなんてまだ先の話だと思ってた。お前らがそうなるって聞いて、身近に思えるようになったんだ。妊娠って地震や雷のような天才みたいだって思っている。だから突然そうなった気持ちが知りたいんだ。」結婚・妊娠と非現実な出来事が身近な人間に起こった。その気分を知りたいと思い質問をぶつけた陽平。その思いは、集まって来た女子達も同様だった。「さあなわっかんねえ。正直実感だってあるかないか?ただ好きな人が出来て、そいつの為に生きたらこうなったんだ。」父親になる実感はまだ感じていない。しかし渚の為に生きて来た結果だと説明した朋也。「あははははは岡崎何も変わってないな。渚ちゃんとお前が、遠くに行った気がしたけど。近くにいたそれが分かったよ。」人生の先を進んでいるように思えた親友が、まだ近くに居た事がわかった。陽平にはそれで十分だった。(結婚出産って、独立した人間だなって感じますよ。それが若いうちなら尚更です。それとことみが調べている
もう1つの世界について謎が明かされてきました。見る事も感じる事も出来ない世界が、身近にあって物理的に行き来出来ないが、エネルギーは移動が出来るという事です。もっと簡単にまとめると繋がりがある世界だという事。もし幻想世界がもう1つの世界ならば、意識が関係している
ならば、絶望した人間が作り出しているんじゃないかって勝手に想像してしまいます。)
「何だどうしてあの時の事を思い出したんだ?何故あの物語を知っていたんだ?」ことみの話の途中、たった1人残された世界を題材にした劇を思い出した朋也。知らないはずの物語なのにどうして脳裏に浮かんだのか、自分でも分からなかった。「隠された世界は1つじゃないの。」「未来は1つじゃない。可能性は沢山あると思うんです。」隠された世界は1つじゃない。作り出すのは、人間の心が生み出す可能性。ことみの研究と椋の占いの理念が、隠された世界についてちょっとだけ知るきっかけとなった。(心が生み出す世界って感じですか。どういう世界になるのか
それには可能性が沢山あるんですね。まるで未来の人生みたいです。過去は変えられないけど
未来は変えられる。秋生の言うように街も人間のニーズに答えて変わっていく。時というのは一方通行で進むだけなんです。逆に考えると幻想世界は時が止まっている気がするのです。)
古河パンにまた新たな創作パンが並ぶ頃になった。秋生の思い出の場所を眺める朋也は街の変化に違和感を覚えていた。自然が無くなる事と渚が健康が繋がっているのではないか、とも
考え始めていた。「人事を尽くしてなんとやらか。お前やっぱり病院で産む事にしたんだな。」今朋也に出来る事は、無事な渚の出産の為の環境作り。それを知り全てをやる事が大切だと秋生は語りかけた。しかしその日街の機能が麻痺するほどの大雪が振った。それは白い闇のように
渚の運命を左右する雪となった。高熱を出し同時に陣痛が始まった渚。出産が早まり朋也は自宅で寄り添い手を握った。「大丈夫です!ちゃんとしおちゃん産みます。朋也君としおちゃんと3人で暮らすんです。」ささやかな未来に向けて、必死で負けないように努める渚。大雪で車を運転出来る状況でない事も重なったが、秋生・早苗・八木が駆け付けた。
「旦那さんは励まし続けて下さい。手を握り続けて下さい。」心と身体が折れそうな渚を支えるように伝えた八木。「渚、俺はここに居るからな!無事に産んで3人新しい暮らしを始めような!」
手を握りながら苦しむ渚を元気付ける朋也。その一方八木の指示通り呼吸をする渚。徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。しかし今の渚にとって赤ちゃんを産む事は、命を削るのと同じ。意識を失い陣痛の痛みで目覚める。朋也にはつらく直視出来ない雪が降り続く、永遠とも感じられる長い夜となった。互いに心が折れそうになりながら、ついに渚は汐を出産した。抱き抱えながら
声を掛ける朋也。しかし渚は、力を使い果たしたかのように目を閉じていた。(こんなにつらい出産を見てこの当たりから涙が出始めました。そして役目を果たしたかのような表情の渚の姿を見てついに号泣してしまいました。子供の誕生は嬉しい事だけど、お母さんが力を使い果たす事は
余りにも悲しいです。)
「渚、俺はここだ!ここに居るぞ!聞こえるだろ、俺達の子供の泣き声。最初に抱いている。俺達の子だ!」手を握りながら必死に汐の姿と自分の声を届けようとした朋也。「はい可愛いです。
しおちゃん、お家で産んでよかったです。しおちゃんには大変な思いをさせてしまいました。でも
少し疲れてしまいました。ちょっとだけ休ませて下さい。」自分の願い通り出産する事が出来て
笑みを浮かべながら喜ぶ渚。しかし代償は余りにも大きくその命は風前の灯火となった。秋生達は必死に命を救おうと動くが、雪がそれを妨げた。「待ってくれよ渚、もっと話をしよう。聞いてくれるだけでも良いから!俺達の子だ、猿みたいだよな。呼んでみるからな俺がパパで、こっちがママだ!きっと直ぐ大きくなるさ!小学校の入学式に連れて行って、授業参観とか運動会とか。俺一番バカにする奴だったのに!おい渚?渚!」近い未来の事を話し続け、元気を取り戻して欲しいと願った朋也。しかし腕は力を失い、かすかに開いていた目も閉じた。新しい命が生まれた矢先、渚は息を引き取った。もう2度とその目を開ける事無く、汐も見る事もなくなった。
「渚約束したよな?ずっと側に居てくれるって言ったよな。それが俺の夢なんだ。生きていたって良い事なんて何もない。糞面白くもない人生なんて。そう思っていた奴が見つけたなんだだ!」出会ってからの3年間、朋也にとって渚は目標も無い人生に見出した、夢であり希望であり全てだった。しかしその夢は、儚い命と共に消えてしまった。「出会わなければよかった!俺は渚と付き合わず、結婚もしない、汐も生まれない!俺達は出会わなければよかったんだ。」夢であり全てだった渚の死は、朋也を絶望に追い込み後悔の念を抱かせた。(渚が死んでしまった。私も朋也と同じように絶望してしまいました。しかし時は未来に向かって進んで行きます。渚を失った後も人生は前だけに向かうのです。今後の朋也と生まれた汐はどうなるのか?)