天候不良や機材トラブルなどにより、当初の目的地以外の空港に着陸することを
ダイバートといいます。たまにしか起こらないことですが、私は何度も当たったことが
あります。台風、霧、砂嵐、機材故障、空港閉鎖等を経験しました。
今週、成田を出発してアメリカ西海岸に向かって太平洋上を飛んでいた米国系航空会社が
エンジントラブルのためアラスカ州のアリューシャン列島の島であるコールドベイという空港に
ダイバートしました。コールドベイ(CDB) 聞くだけで寒そうな名前の空港ですね。
冬場の天候は過酷で、運航条件の悪い空港ですが、3000m級の滑走路を整備しており、
日本とアラスカの中間にあるので緊急着陸地としては重要な空港です。空港は立派でも
Cold Bayの街は2010年の統計では、何と人口108人の小さな漁村です。
時間に余裕があって、秘境好きな人は、普段絶対に訪れることができないような辺境の
空港に着陸したことを楽しめるかもしれませんが、そんな乗客は少ないと思いますので
インフラも整ってない小屋のような空港での待機は耐え難い環境かもしれません。
(人口108人の漁村で200人分のホテルなんてありそうもないので、空港で雑魚寝になると
思います。代替の飛行機と整備士は本国のベースから飛んでくるので1日以上は待つことに
なります。)
もっと日本寄りの洋上を飛んでいた場合、ロシアのペトロパブロフスク・カムチャツキー(PKC)に
降りることもあります。急病人の場合は受け入れ態勢を考えて新千歳(CTS)まで引き返すか
アンカレッジ(ANC)やホノルル(HNL)まで飛び続けることもあります。
また、冬場にアメリカから日本に向かうとき、偏西風が強くて予想外に燃料を消費した場合などは、
成田ではなく新千歳にダイバートして給油することがたびたびあります。
変わったダイバート先としては、日本からグアムに向かうときの代替着陸地として
硫黄島(IWO)が指定されています。実際に、ここにも日本からの定期便がエンジントラブルで
ダイバートした実績があります。硫黄島は一般人が住んでおらず、自衛隊、海上保安庁、
気象庁職員等400名余りが駐在しているのみで、これらの団体に就職するか、遺骨収集団に
参加するとか、島の設備メンテナンス請負になる等、特別な目的以外では訪問はできません。
そういう意味では貴重な体験ですね。
(通常、硫黄島への空路は週1便の入間基地または小牧基地からの自衛隊輸送機のみです)
日本から中東方面へ向かうときはシルクロード上空を飛びますが、ここも洋上と変わらない
条件です。中国の新疆ウイグル自治区のウルムチ(URC)やカシュガル(KHG)が
ダイバート先として実績がありますが、ビザの問題もあり、乗客の国籍によっては降機許可に
時間を要します。
同様に、シベリア上空も制限が多く、特に北極圏エリアは重要軍事機密の空港が点在しており
着陸許可や受け入れ、ビザ、気象条件に問題があります。
パイロットは、トラブルの深刻さ、気象の変化、残燃料、ダイバート先空港の設備、受入態勢、
許可問題等、複雑な要因を考えて、最適なダイバート先をどこにするか決めるわけですから
冷静で的確な判断力を必要とされます。自動車と違って停まるわけにもいかず、飛びながら
考えるので、1分経過すると15㎞くらい進んでしまいます。
「ここで降りて本場のジェノベーゼ・パスタでも食べるかな?」なんて話していたら
再出発のアナウンス。残念でした。
タクラマカン砂漠の上空。陸地とはいえ洋上と飛行環境は変わりません。