皆さんもお近くの催しに参加して,「思いやりの心」や「かけがえのない命」について,もう1度考えてみませんか?
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03.html
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人権週間のトップページは毎年同じで、人権は「思いやりの心」と同様であるかのような表現は相変わらず変わっていません。
しかし「人権」と「思いやり」は別物で、そのような誤った理解を浸透させるべきではありません
以前これを批判したエントリーをアップしましたので、詳細はそちらをお読みください
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人権教育への提言http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-935.html●
「人権」を「思いやりの心」にすり替えてはいけない~人権週間に寄せて思うことhttp://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-1060.html●
人権意識を啓蒙すべき人権週間さえも瓦礫処理PRに都合良く利用するとは~宮城県の震災瓦礫処理http://akiharahaduki.blog31.fc2.com/blog-entry-1123.htmlところで人権週間で
本年度の啓発活動強調事項としてピックアップされる17の項目ですが、内閣府が行った
人権擁護に関する世論調査での質問に対応してたのですね
この世論調査にざっと目を通してみたのですが、やはりここでも「人権」のとらえ方に法務省の人権週間と同じような違和感を抱きましたので、書いておくことにします。
こちらを見ながらお読みいただけると良いかと思います
↓
●平成29年10月調査 人権擁護に関する世論調査「基本的人権は侵すことのできない永久の権利として,憲法で保障されていることを知っているか」
との質問に対し、「知っている」が82.8%(前回は77.8%)でしたが、果たして人権について正しい理解をしているかどうかはこの数字からはわかりません。
日本では人権を一部の人の「特権」のことだと思っていたり、権利を主張するならまず義務を果たせ、みたいに権利と義務がバーターになってると思ってたり、決して正しい理解がなされているとは言えない状況です。
現に、自分が人権侵害されたことがあると感じた人に、それはどんな場合か、と尋ねたところ「あらぬ噂,他人からの悪口,かげ口」との選択肢が51.6%でトップだったようで、これっていわゆる社会問題として考えられるべき「人権問題」なのか・・・うーん・・・というか、これを回答の選択肢に入れる内閣府のセンスに首をひねります。
全体の印象は、国連人権理事会や自由権規約委員会が問題視している人権侵害について質問事項に入っていないのが多いということ、そして、人権侵害をほとんど私人間の問題として見ていることです。
実際、私人間でおこる人権侵害事例も多数にのぼりますが(
こちらを参考に)、公権力による人権侵害の視点を枠外にするのはやはり根本的に間違いだと思います。
共謀罪や秘密保護法はまだそれほど多数の一般市民に向けて直接牙をむいてないとはいえ(というかそうなってからでは完全に手遅れなんですが)、重大な人権侵害が懸念される事項として国連から指摘されているし、
随分前から批判されている死刑問題についても何も質問は無し
犯罪被害者の人権については独立した一項目の質問が設けられていますが、もう一方の被告人の人権(代用監獄や長期拘留)ついての質問はなし。国連が問題視してるのは後者なのですが。
(今ならちょうど籠池氏の長期にわたる逮捕拘留がまさに人権問題としてあげられなくてはなりませんね。逃亡や証拠隠滅の恐れもないのに家族との接見も禁じた勾留が4ヶ月もの長期に及んでいるのは明らかに人権侵害です。)
沖縄での米軍による人権侵害や、平和運動に対する弾圧についても質問無し
長時間労働やサビ残、過労死問題についての質問も無し
生活保護補足率が2割しかなく、残り8割が生活保護水準以下で暮らしているという、生存権侵害ついても質問無し。(今後生活保護1割カットして消費税10%という、更に生存権脅かす事態が待っています)
貧困問題についても質問無し
原発についても質問無し
こういう質問事項がないと言うことは、内閣府はこれらを社会的に重大な人権問題であるととらえていないのだと思えるのですが。
調査方法は調査員による個別面接聴取法で、用意された回答の選択肢の中から選んでいくスタイルのようです
しかし回答の選択肢の内容には疑問を感じました。特に、公権力や、権限を持った上位機関による人権侵害の選択肢が無いのです。
(
こちらをご覧ください)
例えば、「子どもに関する人権問題」なら、回答の選択肢に理不尽な校則とか、教育委員会の対応の選択肢があっていいと思います。黒髪染強要事件もあったことですし。
ヘイトとも関わりあるけど朝鮮学校の無償化についてや、女性問題とも関わりますがシングルマザーと子どもの貧困についても質問すべきでしょう
「高齢者に関する人権問題」では、少なすぎる年金や天引きされる介護保険料や、介護認定やサービスの切り捨ても大きな人権問題でしょうに、回答にそういう選択肢はありません。
「障害者に関する人権問題」では、自立支援法の問題がすっぽり抜け落ちているし、十分とは言えないサービスも回答の選択肢にあって良いでしょう(今度障害者の昼食代を自己負担にするのも人権問題としてとらえてよいですね)
「外国人に関する人権問題」では、種々の差別の大前提として、前のエントリーで書いた外国人実習制度で強制労働を法制化してることの視点が一切ありません。
「ヘイトスピーチを伴うデモ等の認知度」では、ヘイトスピーチを取り締まる法律の制定についてどう思うか、罰則を設けるべきか、などもっとつっこんで質問すべきだったと思います
「 犯罪被害者等に関する人権問題」を質問の一項目として取り上げることはかまいませんが、先ほど書いたように国連からも長期にわたって問題視されている被疑者、被告人の人権問題についても質問項目を設けるべきです。市民は常に犯罪被害者ではなく、犯罪加害者にだってなるのですから
「ホームレスに関する人権問題」については、回答にあるような差別のほかに、国や地方公共団体による冷酷なホームレス排除施策も選択肢に入れるべきだし、ホームレス問題が起きる前提問題として生活保護の補足率が低すぎることについても視点に盛り込むべきです。
「 東日本大震災に伴う人権問題」でも、原発による人権侵害の選択肢はないし、国による早期帰還強制という回答選択肢は無し
要するに、
あくまで「あなたたち市民の間ではどういう差別や問題が起きていますか」という聞き方&回答であって、公権力による人権侵害の視点がすっぽり抜けてる質問と選択肢ばかりなのです人権って第一義的には公権力に対してつきつけるもの、という原理原則の認識がないし、公権力による人権侵害などおきてないみたいな感じ。
これでは法務省が毎度言うように人権=「市民間での思いやりの心」とみんなが受けとめても仕方がないというか、多分そう受けとめている人が多数なのでしょうね。
あと、驚いたのが、「人権尊重と権利の主張による他人への迷惑について」という項目があったことです。
「人権尊重が叫ばれる一方で、権利のみを主張して、他人の迷惑を考えない人が増えてきた」という意見について、どう思うか、という質問ですが、一体何のための質問でしょうか?
こういう質問を設定すること自体、政府は人権理念と不可分である個人主義に対する敵意を持っていることが伺えます。
人権の主張=基本わがまま、人権の主張より「他人坂に迷惑掛けるな」が至上命題であり、人権の主張は他の者が迷惑と感じない範囲にとどめておけ、みたいな意識がみえる質問項目です。(そもそもこの考え方自体が、人権とはなにかを正しく理解していないといえます)
こういう意識が、例えばデモやストを迷惑だと敵視したり、社会的弱者の人権侵害について皆で連帯する本当の意味での個人主義の成熟を妨げるのです。
そして、それに対する回答も72.1%の人が「そう思う」って答えてて、国民の人権や個人主義に対する理解度はやはり残念なレベルではないかと推測できてしまいます、、。
そして「あなたは、国は、人権課題の解決に向けて、どのようなことに力を入れていけばよいと思いますか。」との質問に対する回答に「犯罪の取締りを強化する」という選択肢があったことにも驚きました。
これは治安維持の問題であって、人権の問題ではありません。それに犯罪取り締まりの強化は、共謀罪に代表されるような人権侵害立法が相次ぐ今日ではなおさら警察権力による人権侵害の危険性も増大しますすから、人権課題の解決としての選択肢に入れるべきものではありません。
こんな間違った選択肢を用意する内閣府が、人権をどうとらえているか、そして、国民に、人権とはどういうものであると、とらえてもらいたいのかが見えます。
高いレベルの民主主義のために必要とされる人権に対する高度な理解が欠けていることが、日本を人権後進(後退)国にしてしまってる原因のひとつだろうと、私は感じています。
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