昨今の「日本、スゴーイ」自画自賛ブームがどうにもこうにも気持ち悪くて
昨日のエントリ-でも少し触れたところ、ちょうど毎日新聞で興味深い分析が掲載されました。少々長文ですがお持ち帰り。
●日本礼賛本:嫌韓・嫌中しのぐ勢い? ブームの理由を探る
毎日新聞 2015年02月25日 17時37分
http://mainichi.jp/select/news/20150226k0000m040014000c.html
書店で“嫌韓・嫌中本”をしのぐ勢いで売れているのが「日本はこんなにスゴイ!」と褒めたたえる“日本礼賛本”だ。謙遜が美徳、自己PRは下手だったはずのこの国で今なぜ、この手の本が売れるのか。理由が知りたくて、尋ねて回った。【小国綾子】
◇将来不安癒やす安定剤? 震災機に広がり
書店でタイトルを拾ってみる。「ドイツ大使も納得した、日本が世界で愛される理由」「やっぱりすごいよ、日本人」「イギリスから見れば日本は桃源郷に一番近い国」「イギリス、日本、フランス、アメリカ、全部住んでみた私の結論。日本が一番暮らしやすい国でした。」「だから日本は世界から尊敬される」。どれもこの1年間に出版された。
そういえば、テレビでも「所さんのニッポンの出番」「世界が驚いたニッポン!スゴ〜イデスネ!!視察団」など外国人に日本を褒めてもらう番組がいっぱいだ。
ブームの「火付け役」の一つは、47万部売れた2010年12月出版の「日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか」(竹田恒泰著、PHP新書)。担当編集者、藤岡岳哉さんは「当時、正面切って自国を褒める本はほとんどなかった。自国を褒めていいというメッセージが読者に待ち望まれていた」と分析する。
出版の3カ月後、東日本大震災が発生。整然と助け合う日本人の姿が世界から称賛を浴びた。「『日本は素晴らしい』と口に出す人が増え、部数は大きく伸びた」。シリーズ3冊で累計約81万部。3冊目「日本人はいつ日本が好きになったのか」の表紙のキャッチフレーズはこうだ。
<「自分の国がいちばん」とやっと素直に僕らは言えた>
実際、NHKの「日本人の意識」調査(13年)で「日本人はすぐれた素質をもっている」「日本は一流国だ」と答えた人はそれぞれ68%、54%。03年の51%、36%を底にU字回復し、1983年の最高値レベルまで戻している。やはりこのブーム、日本を好きな人が増えたせいなのか。
一方、斬新な書名が話題の「住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち」と「住んでみたヨーロッパ 9勝1敗で日本の勝ち」(川口マーン恵美著、講談社+α新書)。前者は16万部、後者が14万部。いかにも日本礼賛といった題名だが、中身は日本をベタ褒めしているわけではない。教育面を中心に日本にも苦言を呈しており、読後の印象はせいぜい「6勝4敗」だ。
担当編集者、間渕隆さんは「日本を誇る本は売れるので著者と相談の上、少々盛って『7勝3敗』とする予定だったが、ゴロが悪いので『8勝2敗』にした」と種明かしする。「00年代半ばまでは欧米人と結婚した日本人女性が日本の情けないところを指摘する本が売れていた。07年、デュラン・れい子さんの『一度も植民地になったことがない日本』が20万部を超えたあたりで潮目が変わった。震災がその傾向に拍車をかけた」
昨年は「呆韓論」など韓国や中国をたたく書籍が多くベストセラーに入り、「嫌韓・嫌中本ブーム」として注目された。「読者も飽きてきた」(間渕さん)ところで盛り上がったのが、今回の「日本礼賛本ブーム」だ。ネット上では「ヘイト本ブームと表裏一体」「まるで“愛国ポルノ”」などの批判の声もある。
もっとも間渕さんは「日本礼賛本=嫌韓・嫌中本の裏返し」という図式には懐疑的だ。「愛国心を動機に読む人だけなら数万部止まり。16万部も売れません。確かに1冊目は最初、産経新聞の読者層や嫌韓・嫌中本を読む50、60代男性に売れた。しかし読者層は広がり、2冊目は女性にもよく読まれている」
多くの読者を引きつけるには、もっと別の理由があるということか。
過去にも、日本や日本人をたたえる本が売れた時代はあった。「『日本人論』再考」の著者で東大名誉教授(文化人類学)の船曳建夫(ふなびきたけお)さんは、その手の書籍がブームになる背景には常に「不安」があったと指摘する。「明治維新以来、国が苦境にある時も右肩上がりの時にも、日本人論は日本人がアイデンティティーに不安を抱えた時代に流行し、不安を癒やす『安定剤』の役目を果たしてきました」
船曳さんによると、日本人論ブームの第1期は日清・日露戦争の富国強兵の時期の「武士道」(新渡戸稲造著)や「代表的日本人」(内村鑑三著)など。西洋の先進国と比較し、日本をポジティブに評価しようとした外向きの時代だ。第2期は29年世界恐慌から開戦ごろまで。九鬼周造の「『いき』の構造」など「日本は非西洋である」を前提に日本の伝統に価値を求めた内向的な時代。
◇出版側「自主規制」も
第3期は敗戦から経済復興までの半世紀。「『菊と刀』から『ジャパン・アズ・ナンバーワン』まで、右肩上がりでも『これでいいのか』という不安を背景に、長く日本人論が読まれてきた」と船曳さんは言う。「今回は第2期に似ている。第2期の不安の相手は西洋だったが、今は中国や韓国を意識している点が特徴。人口減など将来に不安を抱えた日本人が未来に明るいものが見えないゆえに、古来の伝統や西洋人からの評価に価値や癒やしを求め、日本人、ひいては自分自身のアイデンティティーを守ろうとしているのでは」と分析する。
一方、このブームは出版現場に影を落としているようだ。
中堅出版社の編集者は「売れる売れないだけでなくイデオロギー面でも自粛ムードが漂う。安倍晋三政権批判や、中国や韓国に好意的な本の企画が『反日』出版社というレッテル貼りを恐れて通らない。ジワジワと自主規制が広がっている」。
サブカルチャーをけん引する太田出版の前社長で、今は生活クラブ運動系シンクタンク「市民セクター政策機構」で隔月雑誌「社会運動」を編集する高瀬幸途さんは、「批判的な知性こそが90年ごろまでの出版文化の背骨を支えてきた。しかし今は自国に批判的な言説は読者に嫌われる。編集者は広告代理店のようにデータ分析し、手を替え品を替え売れ筋を狙う。結果、肯定的言説の本があふれ、編集者も読者もそこに溺れている」と語る。
日本礼賛本を「自己啓発本の変種。不安な時代に自己否定的にならず、自己肯定するための実用ツール」と見る高瀬さん、「本は本来、内面の反省を迫る存在だったはずなのに」と懸念する。
船曳さんからはこんな一言も。「適度なお国自慢は望ましいが、『いいことだらけ』とか『世界で一番』とか、他国を見下すところまで行くと、排他的になり、社会は劣化する。自国の首を絞めます」
日本を礼賛し過ぎて、自国の足を引っ張ったのでは笑えない。
確かに、大震災以来「日本、スゴーイ」ブームが来たと感じます。
過激な新自由主義を突っ走っているため暮らしも経済も酷くなるばかりで出口が見えない、そこにたたみかける大震災。不安や自信のなさが今の社会の根底にあるから、拠り所、アイデンティティを自己が帰属する集団に求める。だからこのブームが最高潮なのでしょう。心理学で言う「同一視」、日本が褒められると自分が褒められてる気になる、というやつですね。
そして今や自民の重鎮達も「安倍首相は保守ではなく右翼、危険だ」と警告するくらいキナ臭い前夜。
時代は今や「第2期、世界恐慌から開戦ごろ」にそっくりです。ちょうどその頃、ナチス前夜のドイツも「アーリア人、スゴーイ」でした。
嫌韓嫌中はあからさまにネガティブな民族蔑視なので倫理上抵抗を感じる人も少なからずいたでしょう。でも日本賞賛なら過度になっても誰かを傷つけるわけではないので、その分幅広い層に受け入れられるんだろうと思います。
嫌韓嫌中のようなレイシズム、ゼノフォビアではないので、全否定はしません。私だって「やっぱりこういうとこは日本がいいな」と感じる事はいくらでもあります。これはどこの国の人でも同様の気持ちを自国に抱くでしょう。それはそれで結構なんですが、今みたいに拠り所を「素晴らしい日本」に求めすぎるのは危険な面が多すぎることは常に自覚しておかなくてはいけないと思います。そうでないと容易に排他的ナショナリズムに持って行かれてしまうでしょう。
また、排他的ナショナリズムに捕まらなくても「日本、スゴーイ」にはその裏で抱えている深刻な問題から目をそらす作用がある、という危険性があると思います。
日本の便利さやサービスの良さの一方で、社蓄や長時間低賃金労働、過労鬱や過労死、雀の涙レベルの社会保障、一億総非正規化や残業代ゼロ法案の問題
外国人の「お客さん」への親切な“おもてなし”の一方で、在日コリアンに対するヘイトスピーチ、外国人労働者や難民に対する酷い扱い
震災での「絆」美談の一方で、忘れられる原発事故や被災者、冷酷な自己責任論、今現在沖縄で政府が行ってる「テロ」と呼べるほどの無法な弾圧に関して本土の驚くべき無関心
震災での「秩序正しいニッポンジン」の一方で、多様性を認めない横並びムラ社会、そこからくるおかませ民主主義という思考停止、それゆえ拍子抜けするほどあっさりと受け入れられてしまう「政府を批判するな」
「日本スゴーイ」に陶酔していたら、日本のこういう根深い病巣は省みられなくなるでしょう。
先日アムネスティの年次報告書が指摘した「日本ヒドーイ」の現実を、「日本、スゴーイ」ブームの中で一体どれだけの日本人が自国の深刻な問題として受け止めたでしょうか
●日本の人権「国際基準から乖離」、アムネスティ年次報告書
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2429594.html自国の深刻な問題と向き合わないことは、結局安倍政権の戦前回帰に手を貸すことと同じなのです。
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