11月24日に行われた名古屋市長選挙に立候補しました
が、力及ばず落選しました。ご支援いただいた皆様に感
謝申し上げますとともに、お詫び申し上げます。今後の
ことは白紙です。改めてご報告申し上げます。
来年1月13日(月・祝)に予定している毎年恒例のBIPセ
ミナーは予定どおり開催させていただきます。下記URL
からお申込みいただけます。なお、既にお申込みいただ
いた皆様には、選挙期間中に連絡が滞りましたので、今
後順次連絡させていただきます。
https://kouhei.nagoya/bipseminar/
イスラエルがレバノンと停戦合意しました。一方、イス
ラエルとハマスとの停戦、ガザ地区での戦闘終結はかな
り困難そうです。昨年秋来、ガザ地区では戦闘による犠
牲者が過去に例のないペースで増加しています。
1.8200部隊
「8200部隊」はイスラエル参謀本部諜報局情報収集部門
の一部署。NSA(米国国家安全保障局)に匹敵する諜報
機関です。
イスラエルには首相府に国家サイバー局があるほか、モ
サド等の情報機関もサイバー部門を有しますが、8200部
隊はIDF(イスラエル国防軍)のサイバー攻撃・防御の
超精鋭部隊です。
8200部隊の前身は1948年イスラエル独立宣言以前から存
在した「シンメン(ヘブライ語で『新たな軍務』)」。
1952年に米軍放出備品を使って設置され、当初は「イン
テリジェンスサービス部隊」と呼ばれていましたが、
1973年第4次中東戦争後に再編されて8200部隊となりま
した。
8200部隊の存在は約10年前まで非公表でしたが、2012年
6月、NYT紙が「NSAと8200部隊がコンピュータウイルス
『スタックスネット』をイラン攻撃に使用」と報道。僕
もその報道で存在を知りました。
信号情報収集(SIGINT)や暗号解読を主な任務とする数
千人規模の組織です。インターネット等から通信情報及
びコード解読を行ったり、最新テクノロジー開発に従事
しています。
イスラエルでは機密情報の約9割が8200部隊によって生
成され、同国諜報特務庁「モサド」や他の情報機関も同
部隊の生成情報に依存しているそうです。
イスラエルのサイバーセキュリティ業界は世界最高水準
であり、関係企業では社員が8200部隊出身であることを
公表してセールスポイントにしています。
イスラエルでは高校卒業後の18歳で男女問わず兵役義務
があります。8200部隊は新兵の中から、ハッキング、数
学、技術、言語、チームワーク等に適性のある1%を採
用。
8200部隊はその存在が公になって以降、ブランド化して
います。厳しい訓練と実務経験を経た後に起業する者も
多く、起業家やエンジニアを輩出する土壌やOBネットワ
ーク等はハーバード大学等に匹敵するとまで言われてい
ます。部隊出身者が起業した会社プロフィールに「CEOは
8200部隊出身」等と明記して箔を付けるのに一役買って
います。
部隊出身者はIT系上場企業やユニコーン(評価額10億ド
ルを超える未上場企業)を次々と誕生させており、サイ
バーセキュリティ領域の潮流を理解するうえで8200部隊
は避けて通れません。
8200部隊の主な役割は「COMINT(コミント)」、つまり
コミュニケーションインテリジェンス(通信情報収
集)。情報機関の多くは政府系機関ですが、8200部隊は
IDF諜報局の一部門でもあります。つまり、政府系機関
かつ軍の一部であり、8200部隊の隊員は「兵士」です。
米国NSAなどの情報機関は大学や特殊訓練を経た30?40歳
代の専門家が活躍していますが、8200部隊は18?20歳が
中心です。
兵役義務を終えると、就職、進学、結婚それぞれの道に
進みますが、予備役があります。一定年齢まで1年に数
日ないし数週間、部隊に戻って任務を果たします。
8200部隊に選抜される際、事前に「スクリーニング(選
別審査)」されます。その資質の審査評価基準こそが
8200部隊最大の秘密です。審査時は高校在学中の17歳。
軍に興味はなく、遊び盛りでYouTube等に夢中の普通の
少年少女。学歴等は関係ありません。
学業の優劣と、職場や戦場での能力は別物。貧困のため
に勉学環境に恵まれずに成績が悪い生徒や、勉強よりも
読書が好きで学業に身が入らなかった生徒もいるでしょ
う。その中から適性を見抜く審査評価基準、評価手法は
明らかにされていません。
言語習得能力、パターン認識、プログラミング等で優れ
た能力を秘める高校生をどのように選定するのか。学業
成績や知識ではなく、ソフトスキルやポテンシャル、成
長意欲等に注目していると聞きます。もちろん、学業成
績が優れ、理数系に秀で、IQ(知能指数)やリーダーシ
ップ、ハッキングやプログラミング等の能力のある優秀
な生徒も選定されます。しかし、それだけではないとい
うことでしょう。
部隊では、多くの資金を投入して教育し、国家の重要任
務を達成するのに必要な能力を鍛え上げます。
側聞するところでは、隊員がイノベーティブな思考回路
を持てるよう鍛錬し、限られた資源で大きな結果を生み
出すマインドをセットします。その構造は、スタートア
ップ企業を立ち上げるのに必要な資質と共通します。
8200部隊では「無知を恐れない」ことを叩き込むそうで
す。8200部隊に加わると、隊員は様々な訓練を経て「不
可能なことない。全ては可能、何でもできる」と教え込
まれます。
8200部隊のみならず、イスラエル社会では「未経験なら
ではの価値」が評価されるそうです。固定観念や既成概
念に囚われないことを意味します。イスラエルが「スタ
ートアップ国家」と呼ばれるようになった所以です。
欧米起業家も、8200部隊出身者を中心としたイスラエル
人起業家の同調圧力を恐れない姿勢、社会的枠組みに囚
われない自由な発想、緊密なネットワークに一目置いて
います。
イスラエルには「無知を恐れない」「失敗を恐れない」
精神が浸透しているそうです。常に安全保障上の緊張状
態に置かれていることに加え、8200部隊出身者の活躍も
相俟って、イスラエルのそうした社会風土を生んでいる
のかもしれあせん。
そうした社会風土がスタートアップ企業を育む源泉にな
っています。変化のスピードが速い中で、綿密に計画し
たり擦り合わせしているうちにイノベーションはどんど
ん進みます。「やってみないとわからない」「失敗もチ
ャンスに変える」という思考回路でスピーディに挑戦す
る精神がイスラエルの強みでしょう。
除隊後も世代を超えてネットワークを活かして支え合う
構図も8200部隊出身者の活躍の秘密です。世代間の交流
は多様性を強化します。
多くのスタートアップ起業家やエンジニアを輩出する
8200部隊のプレゼンスは、今後ますます高まっていくと
予想します。
2.ラベンダー
昨年秋から始まったイスラエル・ハマス戦争でIDFがAI
標的生成システム「ラベンダー(Lavender)」を使用し
ていることが、今春の独立系メディア「+972
Magazine」とオンライン紙「Local Call」の調査報道で
明らかになりました。
取材対象(情報源)は、IDFに所属し、ガザ攻撃に参加
し、ハマス工作員・戦闘員の暗殺作戦のためにラベンダ
ー使用に直接関与していた6人の将兵とされています。
ラベンダーの存在がメディアに登場するのは初。同取材
チームはこれまでも「ハブソラ(福音)」というAI標的
生成システムについての調査報道を公開していました。
ハブソラが建物を標的とするのに対し、ラベンダーは人
間を標的としています。
報道では、ラベンダーはハマスとイスラム聖戦(PIJ)
の軍事部門に所属している疑いのある全工作員を潜在的
「人物標的」としてマークするように設計されており、
ラベンダーでハマス要員3万7千人の識別を行い、IDFは
ラベンダーの指示に従って攻撃を行っているとのことで
す。IDFはラベンダーの指示を「あたかもそれが人間の
決定であるかのように」処理したと記しています。
ハマス戦闘員は自分が戦闘員であることを家族や隣人に
も秘匿しているため、ラベンダーの「暗殺リスト」に記
載される人物は、上級幹部以外は様々な情報から推定さ
れた対象者です。
ラベンダーを動かしているのは上述8200部隊。同部隊司
令官が過去に出版したAI関連の著作の中で、ラベンダー
と同様の標的生成マシン構築に関する解説を記していま
す。
それによれば、人物の危険評価を行う「数百、数千のチ
ェック項目」や戦闘員通信ソフト「Whatsapp」のグルー
プに入っているか否か、数ヶ月ごとに携帯電話を変更し
ているか、頻繁に住所を変更しているか等々、推定に必
要な特徴条件から攻撃対象人物を特定します。
IDFは大量監視システムで集めた個人データ、ガザのほ
ぼ全住民約230 万人のデータをラベンダーにインプット
し、危険評価を行っているそうです。
一見合理的なようですが、ハマスの工作員・戦闘員とい
う認定は、つまり推測であり、100%正確とは言い切れ
ません。
ラベンダーを使用する兵士は、抽出された数百の標的か
ら無作為に対象を選定し、精度確率90%の標的を攻撃し
ます。つまり10%の誤りがあるということです。IDFが
ハマス戦闘員を狙って空爆していると主張しても、10回
に1回は関係ない人物が対象になることが避けられない
ことを意味しています。
IDFはラベンダーがある人物をハマス戦闘員と判断した
場合、それを命令として扱うことを決定しました。つま
り、ラベンダーが標的とした人物について、さらに生の
インテリジェンスデータ等で確認することはしないこと
を意味します。
IDFは今回のガザ攻撃までは「人物標的」という言葉は
ハマスやイスラム聖戦の「上位の軍事工作員」だけを指
していました。なぜなら、「上位の軍事工作員」 を殺
害するためにその自宅を空爆すれば、家族や周囲の民間
人が巻き添え被害の犠牲になることは避けられないもの
の、攻撃における軍事的利益とそれによる民間人の巻き
添え犠牲には国際法で定める「均衡性の原則」が適用さ
れるためです。
逆に言えば、軍事的に重要ではない下位工作員を殺害す
るのに、巻き添え犠牲を伴う空爆はできないという原則
です。
ところが、昨年10月7日にハマス軍事部門がイスラエル
南部への越境攻撃で約1200人を殺害し、約240人を拉致
したことで、IDFは「ハマスでの階級や軍事的重要性に
関係なく、軍事部門の全ての工作員を人物目標とする」
ことを決定しました。
人的範囲が広がったため、以前は人物標的の殺害を許可
するために行っていた確認作業を省略することになりま
した。
以前の戦争では、1人の人物標的の殺害を許可するため
に、担当将校はその人物が確かにハマスの軍事部門の上
位メンバーであるという証拠を確認していました。
今回はラベンダーが作成する殺害リストを採用し「人間
の職員はラベンダーの決定に対してゴム印を推すだけの
役割を果たすことが多かった。1人の標的の確認に約 20
秒だけ使った」と上記調査報道の中で関係者が証言し
ています。
ラベンダーがなぜその人物を標的であると識別したの
か、識別の根拠になるデータは何なのか等々は、一切確
認していないそうです。
グテーレス国連事務総長は今年4月5日、IDFがラベンダ
ーを使って人口密集地の住宅地を標的にしていることに
懸念を示し「生と死の決断をアルゴリズムに委ねるべき
ではない」と発言しました。
IDFはこの発言に反発し「標的特定プロセスには多数の
ツールを使用しており、攻撃に当たってはアナリストが
独自の検証を行っている」「テロリストを推定する情報
システムは目標を特定する過程で分析官が使うツールに
過ぎない」と反論しています。
3.父さんはどこ?
IDFは標的対象者が夜、家族と一緒にいるに時に攻撃し
ています。「軍事拠点よりも自宅を爆撃する方が簡単」
という理由のようです。標的が自宅に戻ったことを追跡
する「WD(Where’s Daddy、父さんはどこ? )」と呼ば
れるAI追跡システムを使用しています。
WDはラベンダーが選定した標的人物を継続的に監視下に
置き、自宅に帰ったと同時に空爆を指令し、一緒にいる
家族が殺害されることを前提(やむをえない)としてい
ます。
空爆実施までには時間差があり、実際の攻撃時に標的が
既に自宅を出ていることもあり、家族や周辺住民だけが
犠牲になる事例もあったそうです。
さらに、下位戦闘員を標的にする時には無誘導ミサイル
を使用。スマート爆弾(賢い爆弾)と対照的な爆弾とい
うことで「Dumb Bombs(バカ爆弾)」と呼ばれていま
す。精密誘導ではないため、大雑把な空爆のため周辺地
域に被害が及びます。
報道の中で「精密爆弾が不足しており、重要でない人物
に対して高価な爆弾を使いたくない」とIDF関係者が述
べています。
つまりIDFは標的だけではなく、その家族や周辺住民に
被害が及ぶことを承知の上であり、このことは「キルチ
ェーン」と呼ばれているそうです。
イスラエルは「ハマスが拠点を住宅地や病院に置くこと
で、人間の盾をしている」と批判していますが、その一
方でイスラエルは「その楯の犠牲は厭わない」という悪
循環です。
IDFが巻き添え犠牲も厭わない「ヒューマン・ターゲッ
ト」を設定する場合、従来は司令官や大隊長といった幹
部クラスだけが対象でした。
しかし、昨年10月のハマスによる攻撃以降は、組織末端
の工作員・戦闘員まで「ヒューマン・ターゲット」とな
ったため、巻き添え犠牲が急増しました。
IDFは戦争の最初の数週間で、ラベンダーがマークした
標的全員に対して、最大15~20人の巻き添えが出ること
を容認したそうです。これは、過去の戦争において「均
衡性の原則」に基づき、下位戦闘員の暗殺では「民間人
の巻き添え被害」を許可していなかった方針を変更した
ことを意味します。
さらに、標的が大隊長または旅団長の階級を持つ高官で
ある場合は、100人の巻き添え犠牲を容認したと報じら
れています。この規模の巻き添え犠牲の容認は、最近の
紛争や戦争では世界的にも前例のない規模です。
今回のイスラエルとハマスの戦争では、開戦直後からの
死者数の異常な増加が報じられており、以上の情報を踏
まえ、その要因を整理すると以下のようになります。
第1に、標的がハマスの下位戦闘員まで拡大されたこ
と。第2に、標的を拡大するため、IDFの有するガザでの
「大量監視システム」の情報がAI標的システム「ラベン
ダー」に入力され、37000人に及ぶ標的が生成されたこ
と。第3に、ラベンダーの標的精度は90%であり、10%
の誤爆が発生していること。第4に、ラベンダーが生成
する標的を自動的に承認するよう決定し、精査・チェッ
ク・確認を行わないようになったこと。
第5に、標的が下位戦闘員の場合は15~20人、高官では
100人の巻き添え犠牲が容認されたこと。第6に、標的へ
の攻撃はWDによって、夜、自宅に戻った後に実施された
こと。第7に、標的の多くは下位戦闘員であり、精度の
低い無誘導ミサイルが使用されたこと。
報道では、ハマスの越境攻撃後に「IDFの職業軍人はヒ
ステリー状態だった」と記されています。イスラエルは
中東最強の軍事大国であり、ハマス軍事部門による越境
攻撃によってイスラエルの軍人たちが衝撃を受けたこと
がわかります。
報道は「彼らは狂人のように爆撃を開始して、ハマス解
体を企図した」としており、IDF内では「復讐」という
言葉が飛び交い、「どんな犠牲を払ってもハマスを潰
す。何でもいいから爆撃しろ」という雰囲気だったこと
を明らかにしています。
一刻も早い停戦と和平を望みます。
(了)
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