世界遺産の北京・天壇公園には、ひそひそ話のできない仕掛けがある。皇穹宇(こうきゅうう)という建物を、まるく取り囲む「回音壁」がそれである。内径約60メートル。離れた2人が壁に話しかけると、小さな声でも反響して相手の耳に届くという。
▼天壇は15世紀前半、明・永楽帝の治世下で築かれた。敷地の北端に建つ祈年殿は、明、清両朝の皇帝が五穀豊穣(ほうじょう)を天に祈った祭祀(さいし)の場として知られる。皇穹宇には歴代皇帝の位牌(いはい)が安置され、堂内は小さな声もこだまする造りになっていると聞く。
▼地上での私語も、天上では雷鳴のように響く―。そんな思想を反映しているらしい(『中国文化史話①』尚斯国際出版社)。私語を体制批判と置き換えると、寒いものを覚えなくもない。もっとも、世界で指折りの大声を持つあの人にとっては耳たぶをかする程度の挿話だろう。
