感情で仕事をしない

ちょっと前にWill/Can/Mustのことについて書いたのだが、補足しておきたいこともあるな〜というのと、ちょうど良いタイミングでそーだいさんのエントリも出てきたので乗っかっていく

soudai.hatenablog.com kiyo-shit.hatenablog.com

で、まあ仕事をしていると、クソイラつくおっさんに出喰わすことあるじゃないですか。私も一昨日ありました。感情が揺さぶられる場面というのはあって、まあ、人間なのでそれはしょうがなさそう。

とはいえ、その感情に意思決定を委ねてしまうのはプロフェッショナルとしてどうなんだろうか、という話。感情的になって判断を誤った経験は誰にでもあると思う。主にパチスロを打っている時に。

WillとEmotionは別物である

まず、Will(意志)とEmotion(感情)を切り分けて考える必要がある。そらそうやろ、という話なんだがたまに人間との会話中に「それはWillじゃなくてEmotionでは?」となることもある。感情につき動かされた振る舞いを目標・目的に無理にリンクさせているようなケースとか。

Will(意志)は、目標達成に向けた、能動的で持続的な力のことを指す。「この案件を成功させる」「チームの生産性を向上させる」「顧客満足度を高める」といった具体的な目標に向かって、継続的に行動を起こし続ける原動力となる。これは自分でコントロールできるし、ある程度鍛えることもできると考えています。継続的、ってところが重要そう。

一方、Emotion(感情)は、外部からの刺激に対する、受動的で一時的な反応のことを指す。喜怒哀楽そのもので、天気に喩えられがち。晴れの日もあれば雨の日もあるし、台風が来ることもある。感情は自然に湧き上がってくるもので、完全にコントロールするのは難しい。クソイラつくおっさんに出喰わすとクソイラついてしまう。

仕事で大事なのはもちろんWillの方。Emotionが意思決定の軸に影響を及ぼすとろくなことにならんので可能な限り排しておくべき。感情で仕事をしない。

感情が仕事にもたらす厄介ごと

意思決定の質が下がる

「なんかムカつくから」「気に入らないから」みたいな理由で判断すると、だいたい間違える。感情的になっている時の判断は、短期的な感情の解消を優先してしまって、長期的な利益を見失いがちになる。

バフェットが「バークシャーの歴史において、我々が感情的な決定をしたことを思い出すことができない」と言い切っていて、あまりにも強い。投資の世界では、恐怖や欲望といった感情に支配されると、高値で買って安値で売るという最悪のパターンに陥るわけだし、バフェットが長期間にわたって優秀な成績を残し続けているのは、徹底的に感情を排除した合理的な判断を貫いているからと言えそう。そうなったらそうなるわな。

現場においても、感情的になって「あいつが気に入らないから、あいつの提案は却下」みたいなことをやっていると、本来採用すべき良いアイディアを潰してしまうことになる。結果的にチーム全体のパフォーマンスが下がってしまう。し、「あの人は感情的な意思決定をする」という評価をされると、意思決定の場から排除されることになるのでキャリア形成にも悪影響がでる。

仕事のクオリティが不安定になる

気分が乗っている時は良いものができても、落ち込んでいる時は全然ダメ、みたいなことになりがち。これでは、安定した価値提供はできん。

プロフェッショナルとして求められるのは、どんな精神状態でも一定のクオリティを維持できるようにありたい。顧客は、こちらの気分なんて知ったこっちゃない。約束した品質のものを、約束した期日に納品してもらうことを期待している。「今日は気分が乗らないのでいつもより低品質です」とか言われたらこいつイカれてんなと思うじゃないですか。そういうことです。

感情の波に左右されるということは、つまり品質が安定しないということ。これは信頼を失う最も確実な方法の一つ。一度失った信頼を回復するのは、めちゃくちゃ大変だし、時間もかかる。

周囲に悪影響を及ぼす

機嫌が悪い人が一人いるだけで、チームの雰囲気は最悪になる。あれはもう一種の公害と言える。生産性も下がるし、誰も幸せにならん。

感情は伝染する、というのは心理学的にも証明されている現象で、一人がイライラしていると、それが周りにも伝わって、チーム全体がピリピリした雰囲気になってしまう。逆に、一人が前向きで冷静だと、それも周りに良い影響を与える。

特にマネージャーやリーダーの立場にある人は、この点を強く意識する必要がある。上の人間が感情的になっていると、部下は萎縮してしまって、本来の力を発揮できなくなる。結果的に、チーム全体のパフォーマンスが大幅に低下することになる。

判断ハイジーンで感情を乗りこなす

じゃあ、どうすれば感情に左右されずに済むのか。ここで出てくるのが、ダニエル・カーネマンが『NOISE』の中で提唱している「判断ハイジーン」という考え方だ。

判断ハイジーンとは、意思決定のプロセスを標準化し、ノイズ(不要な可変性)を減らすための手続きのことである。

要するに、「こういう時は、こういう手順で決める」というルールをあらかじめ厳格に定めておく、ということ。個人的な感覚や気分が入る隙をなくす。これを徹底することで、誰がやっても、どんな精神状態でも、一定の質の意思決定ができるようになる、という世界観。

具体的な判断ハイジーンの実践方法

判断ハイジーンを実践するには、いくつかの具体的な手法がある。

チェックリストの活用が最も基本的で効果的な方法。重要な意思決定をする際に、必ず確認すべき項目をリスト化しておく。「この判断は長期的な目標に合致しているか?」「データに基づいた根拠があるか?」「ステークホルダーへの影響を考慮したか?」といった項目を、感情に関係なく機械的にチェックしていく。

冷却期間を設けるのもありそう。重要な判断ほど、即座に決めずに一晩寝かせる。感情的になっている時は、時間を置くことで冷静さを取り戻せることが多い。「24時間ルール」として、重要な決定は必ず一日置いてから最終判断する、というルールを設けている組織もある。良くあるのが「欲しいと思ったものを一週間くらい買わずにおいて、それでも欲しいと思ったら買う」みたいなやつ。あれも判断ハイジーンプロセスと言える。

まあ現代においてはAIを第三者の視点として取り入れるのが便利。自分の意見や考え方について考察、反証、別視点での見方を問うというのを良くやってます。

サーファーと航海士は違う

「感情を大切にして、情熱的に仕事をする」みたいな話は、確かに聞こえは良い。でも、ビジネスはサーフィンとは違う。我々は、目的地に向かって確実に船を進めないといけない航海士である。

サーファーは、目の前に来た波(感情)に瞬間的に反応して乗る。波がなければ何もできないし、どこにたどり着くかは波次第。良い波が来れば素晴らしいパフォーマンスを見せるが、波がなければただ海に浮いているだけ。そして、どんなに上手いサーファーでも、台風の時は海に出ることはできない。

一方、航海士は、海図(プロセス)とコンパス(目標)を使って、どんな天候(感情)でも目的地に向かって進む。嵐が来ても、冷静に航路を維持する。時には迂回することもあるが、最終的には必ず目的地にたどり着く。

どっちがプロフェッショナルか。顧客は、こちらの気分や感情の状態に関係なく、約束した成果を期待している。そのためには、感情の波に左右されない、安定した航海術が必要になる。

感情と直感の違い

暮らしの中で発生する「なんかきな臭い」という直感が、実際にリスクを察知していることもある。まあ直感は感情というよりは経験の蓄積による反応なので感情とはちょっと違うかな〜というのが個人の意見です。

どちらにしても判断ハイジーンのなかにおいて直感の活用はできるだけ遅らせる、という話があるのである側面では感情と同じように扱っても良い。つまり直感が先にあっても分析や検証は十分にする必要がある。

プロセスの力を信じる

結局のところ、感情に左右されない意思決定をするためには、プロセスの力を信じることが重要。良いプロセスがあれば、どんな人でも、どんな状況でも、一定の品質の成果を出すことができる。

これは製造業では当たり前の考え方で、個人の技量や気分に依存しない、再現性の高いプロセスを構築することで生産性を向上させている。同じことを知識労働の分野でもやれば良い。

Design itとJust do it, Don't askという考え方*1も、この文脈で理解できる。良いプロセスを設計したら、あとはそれを機械的に実行していく。その場その場で感情的な判断を挟むのではなく、事前に設計されたプロセスを信頼して実行する。

もちろん、プロセス自体は定期的に見直して改善していく必要がある。でも、実行の段階では、プロセスを信じて淡々と進めていくのが最も効率的だし、品質も安定する。

まとめ

暮らしの中から感情を完全に排除するのは無理だし、その必要もない。感情があるからこそ、人間らしい創造性や共感力を発揮できる部分もある。ただ、意思決定という重要な局面では、感情の入り込む余地をなくすべき。

そのためには、厳格なプロセスを設計し、それを守り抜く「判断ハイジーン」がめちゃくちゃ重要になる。感情的になりそうな場面でも、事前に決めたルールに従って機械的に判断していく。これができるようになると、仕事の品質が安定するし、周囲からの信頼も高まる。

サーファーのように感情の波に乗るのではなく、航海士のように目標に向かって着実に進んでいく。そういうのをちゃんとDesign itして、Just do itしていくのが、結局は一番強い、という話でした。

感情を無理に排する必要はないけど、それに振り回されるのはプロフェッショナルとしてどうなのか。WillとEmotionをしっかり切り分けて、冷静で合理的な判断ができるようになっていきたいですな。

*1:リンケージのValuesの中に「Design It」「Just do it, Don't ask」というのがある Philosophy | 株式会社リンケージ - Linkage