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クリプトアナーキスト宣言(Timothy C. May, YAMANE Shinji訳)

2020/10/13に公開

(original: https://web.archive.org/web/19980129140949/http://www.vacia.is.tohoku.ac.jp/~s-yamane/hackersML/papers/crypto-anarchy-J.html )

From: [email protected] (Timothy C. May)
Subject: The Crypto Anarchist Manifesto
Date: Sun, 22 Nov 92 12:11:24 PST

世界のサイファーパンクスへ、

昨日シリコンバレーでの「生身のサイファーパンクス」の集会で、 Cypherpunk メーリングリストのあらゆる読者層(幽霊メンバーや立ち聞きメンバーその他全員)が配布資料を電子的にも入手できるように、と数人が要求した。<ふう>[1]

以下は私が1992年に私が設立集会で読みあげた「クリプトアナーキスト宣言」[2] だ。1988年半ばに遡るもので、「Crypto '88」および「Hackers Conference」 [3]で同じ考えのテクノ・アナーキストに配られた。その後、私はこれについて1989年と1990年にハッカー会議で話をした。

変更したい箇所が2、3あるが、歴史的理由からそのままにしておく。いくつか見慣れない用語があるかも知れないが、私がさきほど配布したクリプト用語集が手助けになるだろう。

(これには私の署名欄にある暗号用語も全部説明してある!)

--ティム・メイ

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クリプトアナーキスト宣言

ティモシー C. メイ [email protected]

妖怪が近代世界に出没している。クリプトアナーキー(暗号の無政府状態)という妖怪が----[4]

コンピュータテクノロジーのおかげで、個人や集団に、完全に匿名の方法で相互通信し対話する能力がもたらされようとしている。あらゆる人物どうしで、お互いの「真の名前」[5]や法的身分証明などを知ることなしに、メッセージを交換し、ビジネスを行い、電子的に契約を取り決めてることができるのだ。いくつものネットワークを介した対話は、暗号化されたパケットの多重ルーティングと暗号プロトコルを実装した不正操作防止ボックス(あらゆる不正書き換えにほぼ完全に耐えうる)を介せば、探知されないだろう。そして、「評判」こそが一番重要になる。そしてその「評判」は、普通の商取引の信用評価は現在よりもはるかに重要なものになるだろう。ここで問題にしている技術の進歩進歩によって、政府の規制・課税・経済活動の管理監督・そして機密保持能力の性質は完全に変わってしまう。そして「信用」と「評判」の性質さえも変えてしまうだろう。

この革命(社会的な革命であると同時に経済的な革命になるに違いない)のための技術は過去10年来、理論上だけのものだった。すなわち公開鍵暗号・ゼロ知識対話式証明システム、そして対話・認証・証明のための幾多のソフトウェアプロトコルといった方式である。いままではこの技術の中心は欧米の学術会議であり、会議は国家安全保障局(NSA)に綿密に監視されていた。しかしようやく最近になって、コンピュータネットワークやパーソナルコンピュータがこのアイデアを実際の装置として具体化させるのに充分な計算速度を獲得した。そしてこの先の10年の計算速度の向上によって、このアイデアは金銭的に実行可能で、本質的に阻止不可能になるだろう。現在開発されている高速ネットワーク・ISDN・不正操作防止装置・スマートカード・通信衛星・マイクロ波中継装置・何MIPS(百万命令数/秒)のパーソナルコンピュータ・そして暗号化チップがその機能を付与する技術になるだろう。

政府は当然、国家保障の不安・麻薬売買や税金逃れの為の使用・社会崩壊の危険性を引き合いにだしてこの技術の普及を遅らせたり阻止しようとするだろう。これらの懸念の多くは正当なものだろう - つまり暗号の無政府状態は国家機密を自由に流通させ、禁制品や盗品を流通させるだろう。コンピュータ化された匿名の市場は強奪や暗殺のための忌まわしき市場を作りだしかねない。多くの犯罪者や海外の犯罪的構成分子は暗号ネットの積極的な利用者になるだろう。しかしこれは暗号の無政府状態の普及を止めはしない。

まさに印刷技術が中世のギルドや社会的権力構造の力を変革し、ひきずり降ろしたように、暗号もまた経済的取り引きに対する企業や政府の干渉の本質を根本的に変革してしまう。暗号の無政府主義は新しく生まれた情報市場と結合して、言葉や画像のあらゆる素材の流動市場をつくるだろう。そして、まさしく有刺鉄線のように一見とるにたらない発明が広大な牧場や農場を囲みかねない[6] - たとえば、フロンティアの西部における国土と所有権についての概念を永遠に変えたように。ならば、数学の難解な一部門から出た一見とるにたらない発見も、知的所有権をとりまく有刺鉄線を取り去るような鉄線ばさみにだってなるかもしれないではないか[7]

立ち上がれ、君をとりまく有刺鉄条網のほかに失うものはないのだ!

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Timothy C. May | Crypto Anarchy: encryption, digital money,
[email protected] | anonymous networks, digital pseudonyms, zero
408-688-5409 | knowledge, reputations, information markets,
W.A.S.T.E.: Aptos, CA | black markets, collapse of governments.
Higher Power: 2^756839 | PGP Public Key: by arrangement.

Translater's note / 訳注

「クリプトアナーキスト宣言」のオリジナルは、 The Cypherpunks Home Page (URL: http://www.csua.berkeley.edu/cypherpunks/ または ftp://www.csua.berkeley.edu/pub/cypherpunks/ )から入手できます。または、 MIT Press から出版された High Noon on the Electronic Frontier: Conceptual Issues in Cyberspace にも収録されています。

この他の日本語訳には"ティモシー・メイの「暗号無政府主義者宣言」"がASAHIパソコン臨時増刊1993.4.25, p.68. があります。


(再配布者による注)転載・再配布について

上記文書は原文サイトが消滅していたため、インターネット・アーカイブから発掘してきたものです。原文は現在 https://www.activism.net/cypherpunk/crypto-anarchy.html 等でも公開されています。

日本語訳原文掲載サイト「"ハッカーは、クラッカーじゃない。"と主張する会」内の「about Mirroring and Redistributing」のページでは、下記の記述があったため、これに基づき転載・再配布します。

This archive is in the public domain.
You can mirror, re-package, and re-distribute.

この資料集を手元にコピーしてどんどん使って下さい。

(original: https://web.archive.org/web/20000525223012/http://www.vacia.is.tohoku.ac.jp/~s-yamane/hackersML/mirror.html)

脚注
  1. ため息をつく音。メーリングリストは情報交換の場で、情報を要求するだけの読者層がいるのはおかしいよ、という皮肉。 ↩︎

  2. 「クリプト」は「クリプトグラフ=暗号」の意味だけではなく、「隠れた(秘密の)」という意味があり、たとえばCRYPTO-COMMUNISTは共産党秘密党員と訳される。 ↩︎

  3. Cryptoは毎年開かれる国際暗号会議で、Hackers Conference はスチュワート・ブランドによってはじめられたハッカー会議のこと。 ↩︎

  4. この冒頭の文章と末尾の文章はカール・マルクスの『共産主義者宣言』をアレンジしている。 ↩︎

  5. どんなに強い魔法使いでも自分の真の名前を知られてしまうと支配されてしまう。科学者作家ヴァーナー・ヴィンジの小説 "True Names" はこの伝説をネットワーク社会の問題として捉え直している(邦訳「マイクロチップの魔術師」はかつて新潮文庫から出版され、Macintosh用エキスパンドブック『接続する社会』にも収録された)。メイは同書に推薦文を書いている。 ↩︎

  6. 有刺鉄線は一九世紀後半にアメリカ西部で初めて考案・生産された。それまでの放牧場(オープン・ランチ)では牛の移動は無制限であり、牛を自由に捕まえて食べても構わなかったとされる。 ↩︎

  7. 数学的な暗号(解読)法は、情報を隠すだけでなく、情報を公開共有するためにも使われうる。この点は後の「サイファーパンク宣言」でも論じられる。 ↩︎

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