大熊町町長選挙事情
町長に立候補したのは2人。新人の木幡仁氏が町ごとの移転を主張し、現職で再選を目指した渡辺利綱氏が、町への帰還を訴えて対立。除染を進めて地元の復興を目指した渡辺氏が中高年層を中心に支持者を集めて3451票で当選。町議を途中で辞職して立候補した木幡氏は、明確なヴィジョンを提示して浸透させることが出来ず2343票で、落選。・・・のようなマスコミの報道でした。しかし実際はもっと別の根本的な対立要因があったようです。。
木幡氏の提示する基本政策を見てみますと
先ず、最初に確かに
1.放射能汚染の厳しい現実を直視し、「地元には帰れない」と言う事を前提とした新たな取り組みを行います。
とありますから、この点を際立った1つの対立ポイントと考えるのはわかります。そして、放射性物質の基本性質や汚染の現状を考えれば木幡氏の主張こそ至極まともな主張でしょう。いくら数兆円をかけて除染したところで、数年で戻れる筈がありません。それに、時間のみの関数で、化学処理などで放射能を無くす事の出来ない放射性物質の『除染』の実体は『移染』です。既に放射性物質でかなり酷く汚染されてしまった原発立地から、汚染の低い他の地域に放射性物質を移動して汚染する事は愚かなことです。
次に木幡氏の基本政策案には
2.町として町民の東電賠償請求を支援します。
とあります。これはどちらの候補者も示している政策で、一見対立点はないと考えられるでしょう。しかし、この内容をもう少し詳しく見ると木幡氏は、
・役場に弁護士を常駐とし、賠償請求のモデルプランを作成、請求をスムーズに行えるようにします。
・大熊町役場に常駐入居している東電職員を撤退させます。
とあります。これには驚きです。現在会津若松市にある大熊町役場の仮庁舎には東電の職員が3人も入居して常駐しているというのです。それは現職渡辺利綱町長の方針で、東電の職員が常駐してすぐに対応出来るように・・との説明のようです。町役場に東電の職員を時々呼ぶのなら理解できますが、常駐している事はかなり異様な事でしょう。損害賠償の請求相手が役場に常駐しているのです。町役場が東電と癒着して、損害賠償を東電に有利に進め、損害賠償請求裁判の阻止の為と言われても仕方ないでしょう。
原子力マネーで潤ってきた大熊町は、この期に及んでも、東電の影響下に留まりたいのでしょうか?東電をいまだに恐れているのでしょうか?まともに考えたら木幡氏の主張通り、東電職員は撤退させて、その代わりに弁護士を常駐させ、損害賠償のモデルプランを作成してもうほうが、被災した町民にとって遥かに便利で有利でしょう。これまでも仮設庁舎に常駐している東電職員を撤退させるよう、木幡氏や他の住民も何度か申し入れして来たようですが、無視されてきたのです。マスコミもこの異様な事態をしっかり報道するべきではないでしょうか?福島県のマスコミも、いまだに東電の顔色を窺っているように感じます。
木幡氏の最後の主張は
5.原発をなくす。
です。そう、もうお分かりの通り、今回の選挙は、原発推進派で東電と仲の良かった現職と、脱原発、脱東電を主張した木幡氏の闘いであったのです。
そして、3.11以降の今回の選挙でさえも、大方の予測通り、推進派の渡辺利綱氏が勝ちました。残念ながら、大熊町にはまだまだ東電に感電している大人が多いという事でしょう。若しくは、この期に及んでさえ、東電に反旗を翻せない雰囲気があるようです。・・これが原発立地の現実です。
ただ、これまでの選挙と比べると、有効投票のほぼ4割の票を獲得した脱原発派の木幡氏は、かなり善戦したと言えましょう。しっかり、彼の主張が届けば、今回の選挙に勝つ事も可能だったと考えられます。
今回の選挙の投票日の前日あたりには、地元の新聞やテレビなどのマスコミは、除染が成果を上げているような論調で、他の情報が入らない人々には、翌年あたりにでも町に帰れるような錯覚を起こすような報道振りでした。意図したかどうかは分かりませんが、実質、現職を援護射撃した形です。
(・・政府や東電の言う事を信じて、そんな報道をするマスコミも低レベルです。・・)
投票日前には、東電や関連会社が仮設住宅などに出向いて、住民に対する暗黙の「引き締め」もあったようです。
大熊町には東電関係の会社に勤めている人間が6.7割いるとの事です。東電職員が3人も常駐している町役場でまともに損害賠償の話ができる筈がありません。そればかりか、避難民は保証金もまだろくに渡されず、苦しい生活を強いられています。今、東電やその関連会社をクビになったら生活していけないという不安も大きいでしょう。東電の職員が役場に常駐している現状を見て、これからも東電は存続し、東電関連企業でずっと働き続ける事を期待してしまうかも知れません。
この期に及んでも原発立地の住民に限ってこそ原発賛成派が多いという現実があるようです。事故前と同様、福島県の市町村の中で、原発推進派がダントツに多いのは、原発立地の大熊町や双葉町(福島第一原発)富岡町、楢葉町(福島第2原発)のようです。(・・・現在、福島県内で原発立地以外での原発賛成派はほとんどいないでしょう。それは、福島県に限った事ではなく、日本全国の傾向ではないでしょうか?)
今回の選挙で現職が勝った要因は、勿論、年配の(特に男)住民が、地元を除染して、また地元に住みたい・・・と言う希望も大きかったと思いますが、それ以外に、まだまだ東電の力が地元に及んでいたという現実もあったからのように感じました。
もう何度潰れても然るべきであり、償いきれない大きな罪を犯してしまった東電が、生き残りをかけて、いまだに大熊町や富岡町などの原発立地の大きな被害者を支配しようと考えていたのです。許されざることではありませんし、地元の住民ももっと怒るべきでしょう。
東電を潰して国有化して事故処理を行い、東電の影響を取り払わなければ、まともな選挙も期待出来ないようです。残念ながら今回の選挙でも、東電の感電から解放されていない大熊町の有権者が多数派だったと言う事になりましょうか。
※注 「感電」・・・電力会社に原発マネーで取り込まれて仕舞うという意味で使っています。
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