【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。
ピックアップするのは、映画『そばかす』(2022年12月16日公開)です。恋愛感情を抱かない「アロマンティック」、性的欲求がない「アセクシャル」というセクシャリティをもつヒロインが、自分の人生を切り開いていく物語です。
ヒロイン・蘇畑佳純を演じる三浦透子さんがとにかく素晴らしいです。では物語からいってみましょう!
【物語】
佳純は恋愛感情を人に抱くことなく、他者を性的な対象として見ることもなく生きてきました。
そんな彼女も30歳になると、母親(坂井真紀さん)は結婚の話ばかりをするように。そんな母の心配をスルーしてきた佳純に対し、ついに母親は行動に出ます。
なんと、「一緒に洋服を買いに行こう」と誘いながら、佳純をお見合いの席に連れて行くのです!
【恋愛の価値観の押し付けにモヤモヤ】
主人公が恋に悩み苦しむ映画はたくさん観てきましたが、本作のヒロインはそれらと対極に位置しているように感じます。
恋愛しなくても楽しい毎日なのに、恋愛ありきの人生や結婚適齢期とか、自分が相入れない価値観を押し付けられてモヤモヤしたり悩んだり。恋愛に限らず、「他人にとやかく言われたくないよね!」と思いました。
とはいえ、佳純のセクシャリティは周囲の理解を得にくいのはたしか。
佳純の母は「結婚、結婚!」としつこいし、友達だと思っていた男性からは「好きになった」と突然迫られ困ってしまう。
生きづらいなと少し思いつつも、男性が告白して来たのは、自分が誤解されるような行動をとったのかもしれない、とちゃんと謝り、恋愛感情がないことをはっきり言葉にします。
絶対に逃げず、相手の目を見て自分の思いを伝えることができる佳純なので、人間関係が変な風にこじることがない。
すごく正直で、真っ直ぐ生きているところがとても魅力的でした。
【ユニークな家族が佳純の人生を盛り上げる】
また佳純のホームグラウンドの蘇畑家は基本明るく、なんでもぶっちゃける家族。なので、言い合いになっても喧嘩になっても、決して暗くならないところがいいんですよ。
お母さんは勝手にお見合いのセッティングする直球勝負を挑んでくるし、妹(伊藤万理華さん)は佳純が親友の真帆(前田敦子)と同居すると知るや「お姉ちゃん、レズなんじゃないの?」とかズバッと言うし。
派手なおばあちゃん(田島令子さん)は奇妙な存在感を放ち、お父さん(三宅宏城さん)は、ちょっと心がお疲れ気味で仕事を休んでいるけど穏やかだし……。
言いたいことを言われているから、こっちも言いたいことが言えることってあるじゃないですか。だから、蘇畑家のお茶の間のシーンって、賑やかで暖かくていいんです。
変な空気になってもお婆ちゃんがボソッとおかしなことを言ったり、お父さんが優しかったり、そのバランスが絶妙なんです。
「も〜うるさいなあ」と思うことがあっても、変に気を使われるより楽じゃないかな。
【恋愛しなくても幸せな人生】
「アロマンティック」と「アセクシャル」と繊細なテーマを扱う本作。しかし、物語ではセクシャリティについて掘り下げると言うより、“そのセクシャリティを持った女性の人生” として綴られています。
「なぜ私は誰かを好きにならないのだろう」「なぜみんなと違うのだろう」と悩むのではなく、自分のセクシャリティを素直に受け止め、「楽しい人生を送っているからいいんじゃない?」という考えが素敵。
みんなと違っていたっていいんです。幸せのあり方は人それぞれですからね。
そんな優しいメッセージが伝わってきますし、観終わったあと、とても幸せな気持ちになれました。
自分らしく楽しく生きていきたいという気持ちにさせてくれる映画『そばかす』。三浦透子さん、坂井真紀さんなど俳優たちも素晴らしいのでぜひ観ていただきたいです!
執筆:斎藤 香(c)Pouch
Photo:©2022「そばかす」製作委員会 (not) HEROINE movies メ〜テレ 60 周年
『そばかす』
(2022年12月16日より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー)
監督:玉田真也
脚本:アサダアツシ
出演:三浦透子、前田敦子、伊藤万理華、伊島空、前原滉、前原瑞樹、朝の 千鶴、北村匠海(友情出演)、田島令子、坂井真紀、三宅弘城
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