【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、ネタバレありの本音レビューをします。

今回ピックアップするのは『ジュディ 虹の彼方に』(2020年3月6日公開)です。主役のジュディを演じたレネー・ゼルウィガーが第92回アカデミー賞主演女優賞を受賞した本作は、1930~1960年代に活躍した往年の大女優ジュディ・ガーランドの少女時代と晩年を描いた物語。ひとりのスター女優が少女時代にどれだけ酷使されていたか、そしてその影響で大人の女優になってどれだけ困難な道を歩むことになったのかを描き、驚きの真実と共にレネーの絶唱に涙する大感動作に仕上がっています!

【物語】

17歳の頃に出演した『オズの魔法使い』でトップスターになった女優、ジュディ・ガーランド。それから30年後の1968年。ジュディは二人の子供を連れて、あちこちの劇場で巡業ステージを送っていました。

しかし、宿泊費滞納でホテルから追い出されてしまいます。彼女は仕方なく元夫に子供たちに預け、ひとりでイギリスへ渡ることに。ロンドンのクラブで歌う仕事が得られて、再び陽の目を見るチャンスを得ますが、少女時代から薬物依存症だった彼女はメンタルが不安定でした。周囲を振り回し、チャンスを逃し、子供たちからも「もうママとは暮らしたくない」と愛想をつかされてしまうのです……。

【ブリジット・ジョーンズからジュディへ】

皆さんはOLたちのバイブル映画『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)をご存知でしょうか? この映画でブリジットを演じていたのがレネー・ゼルウィガー。彼女は当時30代前半。この映画でスター女優になり、すんごい売れっ子になりましたが、レネーは生き馬の目を抜くハリウッドのショービジネス界で生きるには繊細だったようで、しばらく姿を消していました。

そのレネーが『ジュディ 虹の彼方に』で見事なカムバック! 熟年の大人の女優としての魅力と演技力を炸裂させて、アカデミー賞主演女優賞をサクっと受賞したのだから、レネーかっこよすぎです!

そんなレネーが演じたジュディ・ガーランドは、1969年に亡くなったので、彼女のことを知らない人は多いと思います。でも、この映画で描かれるジュディの人生にはくぎ付けになりますよ。それは、あまりにも波乱万丈だからです。

【少女時代の虐待が人生を狂わせた?】

本作は晩年のジョディを描きつつ、少女時代のジョディも挿入していきます。まず驚いたのは、『オズの魔法使い』で少女スターになったジュディに対する周囲の大人の対応です。眠る間もなく働かせるために薬を服用させ、体型を維持するために食事をとらせず、すべて薬で補うという毎日

彼女は撮影用に準備されていたごちそうを「食べたい」と言いますが、スタッフの返事は「NO」。代わりに錠剤を渡されるのです。今だったら虐待で訴えられているようなことが、フツーに行われていた時代なんですよ、怖い怖い!

この少女時代の生活が大人になったジュディの状態の伏線になっています。幼い頃から薬物依存にさせられていたために、薬が手放せず、心も体がボロボロになっていたのです。気まぐれでステージをドタキャンしてしまうのもメンタルの不安定さから来ていたのですね。

【歌唱力と演技力で生き抜いた!】

映画『ジュディ 虹の彼方に』は、ジュディの厳しい少女時代と晩年の苦しみも描いていますが、彼女の功績を讃えることも忘れていません。それは彼女が偉大なるエンターテイナーだったことです。そこで発揮されるのがレネー・ゼルウィガーの歌唱力!

ミュージカル映画『シカゴ』(2002年)でも素晴らしい歌声を披露していたレネーですが、この映画での歌唱は本当に感動的! おそらくジュディ・ガーランド自身の「私には歌しかない」という崖っぷちの気持ちや歌手魂がレネーに乗り移っていたと思われます。ブリジット・ジョーンズ時代のレネーは完全に消えて、新しい大人の女優が誕生した感もあり「凄いものを観た」と実感しました。素晴らしかった~!

47歳という若さでこの世を去ったジュディ・ガーランド。スターとして生きることの困難さも描いた本作は、ひとりの女性の生き方としても見応えがありますよ。

執筆=斎藤 香 (c)Pouch

ジュディ 虹の彼方に
(2020年3月6日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー)
監督:ルパート・グールド
出演:レネー・ゼルウィガー、ジェシー・バックリー、フィン・ウィットロック、ルーファス・シーウェル、マイケル・ガンボン、リチャード・コーデリー、ロイス・ピアソン、ダーシー・ショー、アンディ・ナイマン、ダニエル・セルケイラ、ベラ・ラムジー、ルーウィン・ロイド
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