
「若者のテレビ離れ」がいわれて久しい。しかし、テレビ番組を好きな人は10~20代に多いというデータもある。テレビは誰がどのように見ているのか? ネットを駆使した動画配信サービスの登場と普及が、視聴者、特に若者層のテレビの見方を変えている。
「テレビ番組を『とても好き』な人は10~20代が最も多く、33.9%にも達する」
博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所で上席研究員/グループマネージャーを務める山本泰士氏はこう明言する。メディア環境研究所が2021年5月26日から6月2日にかけて男女15~69歳の1175人を対象に調査した「テレビ番組視聴意識調査2021」で調査した結果だ。「若者のテレビ離れ」がいわれ、若者をターゲットにマーケティングを推し進める企業がテレビ広告を以前ほど重視しなくなったといわれるようになって久しいが、実態は若者層の単純なテレビ離れというわけではなさそうだ。
地上波テレビの視聴時間は漸減し、広告市場も低下傾向
まずテレビ放送、特に地上波テレビが視聴者にどう受け止められているか、状況を見てみよう。博報堂DYメディアパートナーズが06年以降、毎年実施している「メディア定点調査」に基づき、メディアの総接触時間の推移を見てみると、「テレビ」の視聴時間は漸減し、「メディア定点調査2022」の段階で143.6分となった。これに対し、「携帯電話/スマートフォン」が146.9分に達し、テレビに代わって首位に躍り出たことが分かる。
メディア総接触時間の構成比を見ると、この傾向はより明瞭に見て取れる。「メディア定点調査2006」時点で51.3%と過半を占めていたテレビ視聴時間は、その後、相対的に減り続け、「同2022」の時点で32.2%にまで低下する。一方、携帯電話/スマートフォン、「パソコン」「タブレット」というデジタル機器に接触する時間は相対的に増え続け、「同2022」の時点で携帯電話/スマートフォン33%、パソコン16%、タブレット8.1%と計57.2%(小数点以下2桁を四捨五入して表記したため合計数字が単純合計と異なる)にも達する。
- 調査地域:東京都
- 調査時期:2006年から毎年1~2月
- 調査対象:15~69歳の男女
- 調査方法:郵送調査法(RDDによる標本抽出)
- サンプル数(22年調査):652人
20代の若者だけを見ると、テレビ視聴時間が減り、携帯電話/スマートフォンなどへの接触時間が増える傾向は、通説通り、より顕著である。メディア総接触時間のうち、テレビ視聴時間は漸減して18.8%(「メディア定点調査2022」時点)まで下がり、一方、携帯電話/スマートフォンは45.4%(同)にまで達する。一般に流布している通り、若者層がテレビ放送から離れ、メディアのデジタルシフトが加速していることは、間違いなさそうだ。
次に、広告メディアとしてのテレビの価値を見るため、地上波テレビ広告費とインターネット広告費の推移を見てみよう。電通グループが毎年発行する「日本の広告費」によれば、11年以降、地上波テレビ広告費は横ばいが続き、18年からは漸減傾向が強まり、直近の22年の地上波テレビ広告費は、前年比2.4%減となる1兆6768億円にとどまった。
これに対してインターネット広告費は上げ潮基調が続き、19年には地上波テレビ広告費を初めて上回り、22年には3兆912億円と、初めて3兆円の大台に乗せた。総接触(視聴)時間だけでなく、広告市場の規模で見ても、インターネットが地上波テレビを上回る勢いで成長し続け、そのメディアとしての価値を高めていることが明確に分かる。
ではテレビ、特に地上波テレビ放送はこのまま視聴時間を減らし続け、広告メディアとしてもその価値を縮小させていくことになるのだろうか。一方で、“テレビ離れ&スマホ依存”が明確な若者からは、冒頭のように「テレビ番組を好き」と答える声が多数聞こえてくる。これはなぜなのか。テレビの見られ方はどう変わってきているのか。テレビ局はどう対応しようとしているのか。
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