家具・インテリアなどにおける日本最大の専門店チェーンであるニトリホールディングスは、主力事業「ニトリ」を中心に21年11月からオンライン接客サービス「スタッフスタート」の活用を開始している。ニトリが重視しているのは、「お客様目線」と「コーディネート提案」、そして「教育」だという。

※本連載は新刊『リアル店舗を救うのは誰か ~今すぐ「店舗スタッフ」にECを任せよ~』(日経BP) ▼Amazonで購入する から、一部を転載したものです
ニトリネットで紹介されている「スタッフのインテリアコーディネート」
ニトリネットで紹介されている「スタッフのインテリアコーディネート」

 ニトリのECやOMO(オンラインとオフラインの融合)の基本方針は、「お客様が欲しい情報や商品まですぐにたどり着けるような導線設計」や、お客様ニーズを分析しながら「場所や時間を問わず、より便利で新しい買い物体験やモノを提供していくこと」だ。23年3月期末に会員数1600万人到達が見込まれる「ニトリアプリ」(22年11月20日時点で1508万人)の各種サービスや、スタッフスタートを活用したコーディネート投稿は、それを具現化する大切な方法の一つとして位置付けている。

 ニトリグループは全社を挙げて、暮らしの豊かさを世界の人々に提供することを志しており、その中で社員自らも自分らしい暮らしや空間づくりを楽しみ、それを顧客に伝えていくことを目指している。同社がスタッフスタートのコーディネート投稿機能を導入した理由も、まさにそこにある。

 近年は、SNSなどを通じて目にする「実際の生活の中で使用されているシーン」をインテリアの購入や使用時の参考にしている顧客が増えている。そのため、従業員によるコーディネート投稿を強化することは、よりニーズに合ったコンテンツ発信につながる。従業員によるコーディネート画像を集めることで、自社ECの「ニトリネット」 ▼関連リンク:ニトリネット クリックで別サイトへ やカタログ、店頭POPなどのビジュアルコンテンツとして活用する狙いもある。

 「スタッフスタートによって、アクセス数やEC売り上げへの貢献などが数字で分かるようになり、従業員のモチベーションアップにも寄与している」(ニトリ)

コーディネート投稿ごとに「教育マイレージ」を付与

 スタッフスタートのコーディネート投稿は主に、従業員が自宅の模様替えや整理をした際に撮影されている。表彰やインセンティブが付く仕組みを用意して、暮らしにおける変化の機会に自身のコーディネートにチャンレンジすることで、自分自身のスキルアップにつなげている。

 投稿を行う従業員は導入当初の500人前後から2000人以上にまで増えており、年間で約4400投稿が行われている。

 コロナ禍の巣ごもり消費の後押しもあり、EC売り上げはコロナ禍以前の約2倍に拡大し、客数や客単価も上昇しているが、スタッフスタートの投稿数や投稿者数も伸ばす余地が大きいという。

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書名/『リアル店舗を救うのは誰か ~今すぐ「店舗スタッフ」にECを任せよ~』(日経BP)
著者/小野里 寧晃(おのざと やすあき)
本体価格/1700円(税別)
発売日/2023年3月25日

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 では、どのようにして投稿数や投稿者数を増やそうとしているのか。

 ニトリはとても教育熱心な企業で、上場企業の平均の5倍という教育投資をしている。オンライン学習システム「Eラーニング」や「ニトリカラーコーディネートスクール」「グロービス学び放題」などが受けられるなど、学びの機会を多く提供して人材育成を行っている。自己育成を行い、結果を残した人には「教育マイレージ」が与えられ、教育マイレージがたまるとセミナーへの参加や、検定・資格受験料の補助など、貴重な機会を得られる仕組みもある。

 コーディネート投稿についても、投稿方法やルールなどを教育するために社内ポータルサイトを用意。バニッシュ・スタンダードが提供した教育資料や、社内の商品コーディネート担当部署が作成したコーディネート理論資料、写真の撮り方についてのレクチャー動画などを公開し、全従業員がいつでも閲覧して学べるようにしている。

 また、従業員がコーディネート投稿をするたびに教育マイレージがもらえるように設計。1投稿ごとに付与され、SNSやPOP、ECなどに投稿内容や画像が2次使用されると、教育マイレージが追加されるようになっている。例えば、本社主導で撮影したものよりも、従業員が投稿したコーディネート提案のほうがリアリティーがある場合、売り場のPOPに使われることも多い。

 ちなみに、ニトリの店舗内には「ルーム」と呼ばれる、コーディネートの部屋型プレゼンテーションがあるが、そこに従業員の投稿のアイデアを取り入れるなど、本部側でも投稿情報を吸い上げて活用する好循環を生んでいる。

 また、全店舗に置いている無料の「収納ブック」カタログは、広報宣伝部と協力して、一部をコーディネート投稿画像で構成してつくり上げている。自分の投稿が全店で取り扱われるカタログに掲載され、多くの顧客に見られたり、仲間の従業員から賞賛されたりするのはうれしいものだ。画像に添付されるQRコードから投稿ページに遷移できるため、そこからEC売り上げにもつながっている。

 22年には新入社員全員に教育の一環として、コーディネート投稿を実践する企画を行った。新入社員が実際に売り場でコーディネートを組んで撮影し、コメントを添えて投稿するもので、顧客の反応やECの売り上げなど効果を確認。研修で学んだことをアウトプットすることでコーディネート知識が高まり、今後も積極的に投稿するきっかけにもなると期待している。

 実際、22年の新入社員の投稿比率は他の世代に比べて高水準で推移しているという。撮影したりコメントを書いたりすることを通じて、商品知識やコーディネート知識が高まり、リアル店舗に来店した顧客への提案力が上がっていくメリットもある。

ニトリが見つけた好反応な投稿「3つのポイント」とは

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