前回は,藤井との人間関係に困っている坂本へのアドバイスとして「言われて嬉しかった"褒め言葉"10事例」を説明しました。人は誰でも自分を認めてほしいと思っています。しかし,日本人の多くは,その民族性からでしょうか,褒めるのが上手くないと言われています。これは,非常に残念なことだと思います。

 適切に,上手いタイミングで心から染み出た"褒め言葉"には,人を感動させる力があります。このことを理解し,上司の立場にある人は,もっと「褒める」を考えるべきでしょう。

 さて,今回のエピソードには,藤井が登場します。藤井の育成は坂本にお願いしていましたが,当然,私はすべてを坂本任せにするつもりはありませんでした。そこで,今回は,坂本同席のもと,藤井に販社との提案活動の進捗報告をしてもらったときの話を紹介しましょう。

 今回は“仕事に役立つ7つの科目”の「(3)説得的会話」に関するノウハウがテーマとなります。

 PDFファイルで「上手い説明10のルール」チェックポイント・シートも用意しましたのでご活用ください。

仕事に役立つ7つの科目
(1)文書
(2)仕事の段取り
(3)説得的会話
(4)ヒューマンマネジメント
(5)思考力
(6)情報収集力
(7)提案力

説明は「伝えよう」と思わない限り伝わらない

芦屋:藤井,きょうはちょっと君に直接聞かせてほしいんだけどいいかい?今の販社への提案と仕様確定状況はどうなの?

藤井:そうですね,販社の利用者のデータ保管が結構,厳しいんですよ。こっちとしては,本当にいるのかって感じですね。まあ,いるなら作るし,断っても駄目なんでしょうから。東さんには電話して言っているんですが,まあ,返事はいつも通りですね。戸塚さんは,僕みたいなシステムオンリーの人間とは話合わないみたいだから,どうかなと。まあ,あまり最近は興味ないみたいですけどね。でも,まあ全体的には大きな問題がないって言うか。この前レポートした感じですね。

芦屋:・・・ごめん,藤井,ちょっとよく分からないんだ。

藤井:あ,分かりにくいですか。どこがでしたか?

芦屋:うん,ちょっと・・・理解したいと思って聴いたんだけど。本当に分からないんだ。ごめん,坂本,どういうこと?

坂本:提案状況と仕様確定状況についてですね。

芦屋:そう。

坂本:前者は全体の半分完了です。今は先方利用者のデータ保管機能についてペンディング状態です。これは,先方の東氏から強く要望されている機能です。さほど,難しくないと思ってたので芦屋部長代理にはまだ説明しておりませんでしたが。機能実現策,対応目処を明らかにしてから説明する予定でした。ここまでよいですか?

芦屋:了解。

坂本:後者は全体の4分の1ですね。今のところ,提案内容から大きな変更要望になったものはありません。まあ,総じて計画通りということです。

芦屋:東さんの状況は?当方への接し方は?藤井どう?君の話では結局どうなのか分からなかったけど。

藤井:大丈夫です。特に変わりませんよ。

芦屋:そう・・・何か彼の行動で変わった点はない?

藤井:ないですよ。最近忙しいって言って,会議に出られることが少なくなりましたけど・・・

芦屋:坂本,どういうこと?危ないんじゃない?忙しくて会議に出れなくなると,当方への好意的な意見やサポートが受けれなくなるんじゃないか?

坂本:そこまで推定するのは難しいですね。「東氏が会議に出てこなくなった」ということは事実ですけど,それが当方にとって「危ない」と言えるかどうか・・・。「当方へのサポートが減る」という論拠にまでは・・・

芦屋:そうか。戸塚氏も忙しくて参加できなくなっているんだな。

坂本:そうですね。これは私の推定ですけど,戸塚氏は販売支店のセールス研修などのカリキュラムを作っている感じがあります。この前から,そんな研修カリキュラムと思える内容の質問が多くなっていますから。まあ,あくまで推定ですけど・・・

芦屋:そうか。了解。よく分かったよ。ところで,藤井。申し訳ないが君の説明は分からない。

藤井:・・・どこが・・・でしょうか。