「(DeNAやGREEといった)プラットフォーマーだけが儲かる業界はよくない。DeNAにとってもよくないし、それ以外の会社にとっては最悪だ。きれい事に聞こえるかもしれないが、業界全体が共に発展できればと思っている」。ディー・エヌ・エー 取締役の小林賢治氏は、開発者向け会議「CEDEC 2013」のセッション「スマホ時代に、自社の強みを最大限レバレッジする方法」でこう述べた(写真1)。
最近のアプリ市場では、月に数十億円から100億円もの巨大な売り上げを誇る巨大ヒット・タイトルに注目が集まっている。海外では「Clash of Clans」や「Candy Crush Saga」、日本では「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」といったタイトルだ。
ただ、小林氏によれば、その裏でブラウザタイトルも堅調に収益を確保しているという。同社でいえば「怪盗ロワイヤル」「農園ホッコリーナ」といった2010年度以前からあるタイトルだ。2011年度に開始したタイトルも息が長い。例えば「ガンダムカードコレクション」の最高益は開始から1年経った時点だったという。小林氏は「ブラウザゲームは減っているわけではなく安定している。そこにアプリゲームが追加されている感じだ。つまりブラウザの底堅い収益性とアプリの爆発的な成長が両立している。こんなにおいしい市場はなかなかない」と語る。
一方、業界には「惜しい点」も多いという。まず「いいゲームなのにユーザーに発見されない」という問題だ。あまりに多くのゲームがあるため、結局、ランキングの上位を占めるのは資金力がある企業のゲームか思いっきりネタに振ったゲームだけになってしまっている。
例えば、Cygamesが開発したDeNAのゲーム「神撃のバハムート」は、テレビCMを使った大規模なプロモーションを行っている。ガンホー・オンライン・エンターテイメントはパズドラの累計インストール数を公開しているが、これによるとテレビCMを打った時点で上昇の角度が明らかに変わっている(写真2)。
また「正しく運用できていない」という問題を抱えるゲームもある。ユーザーがゲームをやめるのは、たいてい「敵が理不尽に強い」といった「無理ゲー」だと感じたときだ。しかし、実際にはライトユーザーからベテランユーザー、無課金のユーザーから課金ユーザーまで様々なユーザーがいる。きちんとした分析を行うことで、ゲームバランスを調整する参考になる。小林氏は「今後は『企画』『アート』『マーケティング』『エンジニアリング』『運用』の全てができないと勝つのは難しい」と語る。
レベニューシェアを呼びかけ
ただし、これら全てを自社でまかなえるは大企業だけ。そこで小林氏が提唱するのが「強みを持ち寄って一緒に作る」という方法だ。同氏は例として、米Boeing社の最新航空機「787」を取り上げた。787は35%が日本で作られているが、日本企業は受託ではなく「リスクシェアリングパートナー」として参加しているという。開発費を負担する代わりに利益をBoeing社とシェアする形態だ。
これと同じようなことをDeNAとゲーム開発企業との間でもできないかというのだ。例えば「アートと企画は自社、マーケティング、エンジニアリング、運用はDeNA」「企画と運用は自社、アート、マーケティング、エンジニアリングはDeNA」といった様々な形態が考えられるという。「DeNAには日本有数のサーバーサイド技術者が何人もおり、マーケティングのノウハウもある。どうしていいかわからなかったらまずDeNAに相談してほしい」(同氏)。利益の取り分はその企業がどれだけ関与するかによって変わるので、レベニューシェアの割合は最初に決めておくとした。
何社かの実例も挙げた。現在、2011年設立で従業員19人の沖縄のゲーム開発会社「SummerTimeStudio」とアプリを共同開発しているという(写真3)。家庭用ゲーム機向けのゲームで実績があるメディア・ビジョンともアプリを開発中だ。モバイル大手の面白法人カヤックにも開発・運用を担ってもらっているという。
小林氏は「アニメーターの年収が100万円で1年目に9割がやめてしまうといった日本のクリエイティブ業界の現状はおかしい」と訴える。「エンターテイメントは、まずコンテンツの数が増えなければ話にならない。そのためには人が来なければ作れない。年収100万円では無理」(同氏)。そのために、プラットフォーマーだけでなく業界全体が発展しなければならないというのがDeNAの主張だ(写真4)。