眺望が阻害される上、プライバシーも著しく侵害される。そもそも隣に高層建築物は建たないと聞いていたから買ったのに――。名古屋市千種区に立つ地上42階建てのタワーマンションの住人3人は2024年6月5日、販売者の積水ハウスなどに対し、同社が隣地で開発を進めるタワーマンションのうち30階を超える部分の建設中止を求めて、名古屋地方裁判所に提訴した。タワマンの建設計画が乱立する中、似たようなトラブルの火種は各地でくすぶっている。
原告が住む「グランドメゾン池下ザ・タワー」(以下、ザ・タワー)は高さ約152mの超高層マンションで、14年に完成した。一方、このマンションの西側30mほどの場所で建設が進むのが「グランドメゾンThe池下ガーデンタワー」(以下、ガーデンタワー)だ。22年5月末に着工し、完成すれば地下1階・地上39階建て、高さ約136mになる。
訴状によると、原告がガーデンタワーの建設計画を知ったのは21年7月末ごろ。ザ・タワーの隣接地に立っていたショールームの解体通知書が積水ハウスから届いた。通知書には、ガーデンタワーの建設に伴いショールームを解体する必要があると書かれていた。
原告は積水ハウスや施工者の長谷工コーポレーションに対して、建築計画に関する説明を要求した他、建物を低くするよう設計変更などを求めた。ザ・タワーは眺望を売りにしており、販売担当者からは隣地に建物が建つとしても29階まで、などと聞かされていたからだ。
しかし、納得のいく説明はなされず、建築計画の変更に関する話し合いは拒絶された。そこで原告は23年11月28日、工事の中止を求めて仮処分を申し立てた。その後、申し立てを取り下げた上で、積水ハウスと長谷工コーポレーション、中電不動産(名古屋市)の3社を相手取り、建設差し止め訴訟を提起した。
原告の1人で、39階に住む新美治男氏は日経クロステックの取材に、「同規模のマンションが建つと分かっていれば、この部屋は買わなかった」と憤る。
原告が建設差し止めの根拠として挙げたのが、(1)売買契約違反(2)信義則違反(3)人格権(眺望権、プライバシー権)の侵害――だ。
(1)について原告は、積水ハウスとの間で、ザ・タワーからの眺望を阻害するような高層建築物は建設しないという合意が成立しており、それが売買契約の内容になっていたと主張。同社は専有部分の眺望を害するような建物を建ててはならないという契約上の義務を負っていたと指摘する。
原告は理由について、ザ・タワー購入時、積水ハウスの販売担当者が眺望の良さをアピールすると共に、上述のように隣地に高層建築物は建たないと説明していたことを挙げる。原告が居住者に対して実施したアンケートによると、回答した99人のうち原告を含む44人が同様の説明を受けていたという。