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 デジタル革命のさなかにあって日本企業、というか日本はそろそろ覚悟を決めないといけないと思うぞ。何の話かというと、日本の企業社会のありようを決めていた「終身雇用」というあしき慣行からの脱却だ。「今どき転職が当たり前になっているんだから、終身雇用なんてとっくに崩れているよ」と笑う読者もいるかと思うが、それは早合点だ。働く側からすれば当たり前になりつつあるかもしれないが、企業側からすればそうではない。欧米企業などと同様、機動的な解雇が可能にならないと話にならないんじゃないの。

 日本は解雇規制が厳しいとされている。「いやいや、米国はともかく欧州とはそんなに変わらないぞ」という話もあるが、やはりめちゃくちゃ厳しい。何せ企業が倒産の危機にでも立ち至らない限り、整理解雇なんかはほぼ不可能だからね。具体的にどうなのかについては後で詳しく書くが、例えばDX(デジタルトランスフォーメーション)でビジネス構造を変革した結果、不要になる業務を担ってきた人を「あなたの業務は不要になった」と解雇することはできないのだ。

 もちろんそれだけが理由であるわけではないが、これじゃ当然、日本企業は本気のDX、本気の変革にちゅうちょするよね。DXの結果として余剰人員が生じても解雇はできず、配置転換などで対応しなければならない。今は「空前の人材不足」とされるご時世だから、DXなどによる余剰人員の発生はむしろ歓迎なのかもしれない。だけど、景気の悪化などで人材不足が解消されたらどうなるのか。そもそも専門性の高い業務は配置転換で対応できるのだろうか。

 最も分かりやすい例で考えてみよう。ある小売業が今後のEC(電子商取引)の進展を予測して、できる限り早く実店舗を閉店して事業をECサイトに集約したほうがよいと経営判断したとしよう。「そんな事例、聞いたことがないぞ」などと言ってくれるなよ。あくまでも分かりやすくするための仮の話だからな。原則として米国企業なら時を移さずに店舗を閉鎖して店員を整理解雇するだろう。日本企業の場合は時間をかけ段階的に……なんて話になるはずだ。つまり、日本企業お得意の亀の歩みとなり競争に負ける。

 「確かにそうかもしれないが、経営の都合で解雇OKなんて人でなし過ぎるだろ」と思う読者は多いはずだ。実は私も全くその通りだと思う。私は解雇規制の緩和が必要だと信じて疑わないが、今の雇用慣行の下では人でなしの所業だ。これも後で詳しく説明するが、日本企業はメンバーシップ型雇用なので、経営の都合で解雇されては「約束が違う」。だけど今、日本企業もジョブ型雇用を導入しようとしているだろ。ジョブ型雇用は特定の業務を担ってもらう約束で雇用する。その業務がなくなれば解雇するしかないではないか。

 ジョブ型雇用は欧米などでは当たり前の雇用慣行だ。専門家、あるいはその道を志す若手らをその道のプロとして遇する。だから、事業戦略上の打ち手や事業変革などの結果、その業務が不要になれば解雇する。日本企業はDXを推進するため優秀な技術者らを採用しなければならないから、ジョブ型雇用を導入して能力に見合った報酬、市場価値に見合った報酬で雇用しようとしているが……。はて、整理解雇が事実上不可能なのに、ジョブ型雇用なんて導入できるものだろうか。ひょっとしたら「なんちゃってジョブ型」なのか。