最近、腰を抜かしそうになる話を聞いた。ある日本企業にコンサルタントがBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を提案した。BPR後の利益予想を伝えると、その企業の経営者は「こんなに利益が出なくてよい」と言う。けげんに思って理由を聞くと「自分の代にだけ大幅な利益を出すと歴代の経営者OBに妬まれ、ゴルフに呼んでもらえなくなるよ」と答えたそうだ。
いやぁ、驚いた。というか、ぼうぜんとしてしまった。そりゃ、経営者は孤独というから、経営者を退いたあかつきには、1人の老人として友人や仲間とわいわいやりながら楽しく暮らしたいと願うのは、人としてよく分かる。だが、なぜ経営者の諸先輩たちとゴルフに興じることのほうが、現経営者として自社の収益を極大化することよりも重要なのか。もうあきれ果てるしかない話である。
そう言えば以前、日本人なら知らぬ人はいないし、外国人でも多くの人が知っている大企業でCIO(最高情報責任者)を務めた人から、こんなぼやきを聞いた。何でも元役員らが集まる親睦会に出席する気にはなれないそうだ。「皆、リタイアしてもう『ただの人』なのに、現役時代の上下関係がそのまま固定されている。もうばかばかしいったら、ありゃしない」。
まさに終身雇用と年功序列を柱とする日本型雇用制度で頂点を極めた人たちらしいエピソードである。そんな日本企業の経営者、元経営者たちの権力基盤、そして暮らしの基盤とでも言うべき日本型雇用制度を見直そうという声が上がり始めた。その中心にいるのは、日本を代表する大企業が加盟する日本経済団体連合会である。
経団連は2020年の春季労使交渉において、日本型雇用制度の見直しを提起するというのだ。それについては、この「極言暴論」と対をなす私のコラム「極言正論」で詳しく述べたように異存はない。日本型雇用制度を維持している限り、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進などに不可欠な、優秀で若い技術者を採用・育成できないからだ。若手は給与を抑えられているため、人材採用で「GAFA」などに負ける。せっかく社内で育てた人材も、より良い処遇を求めて転職してしまう。
ただ経団連の問題提起は順序が逆だ。まずは経営者の年功序列の撤廃が先だろう。特に経団連に加盟する大企業の経営者は新卒一括採用で入社し、終身雇用の枠組みで出世の階段を上り、年功序列に従って先輩から経営を受け継いだ人が多いだろう。はっきり言うが、そんな日本型雇用制度にどっぷり漬かってきた経営者が、雇用制度を抜本的に変えられるとは思えない。ましてDX、つまり全社的な変革を主導できるわけがないと思うが、いかがか。