「最初から日産自動車と手を組んでおけばよかったのだ」──。自動車技術に詳しいアナリスト(以下、自動車系アナリスト)は、日産自動車とホンダが発表した協業の検討についてこう語る。両社は自動車の電動化と知能化分野で戦略的パートナーシップの検討を開始することで覚書(MOU)を締結(図1)。今後、ワーキンググループを立ち上げて具体的な内容を詰めていく。このうち、ホンダの動きについて自動車系アナリストは「遅きに失したとまでは言わないが、スピード感がない」と指摘する。
率直に言って、ホンダは迷走しているように見える。電動車、中でも電気自動車(EV)に関して現実味のある戦略が見えないのだ。足元のEV販売台数の比率は1%にも満たないのに、2030年までにEVの年間生産台数を200万台超に引き上げ、2040年にはエンジンを捨てると宣言。すなわち、同年に100%をEVもしくは燃料電池車(FCV)にするという目標を打ち出した。世界的なEV失速が鮮明になった今でも、同社の三部敏宏社長はこの目標を堅持している。
GMと決裂
迷走の度合いをさらに深めたのは、米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)との間で合意した量販価格帯のEV(以下、量販型EV)に関する共同開発の計画だ。これにより、プラットフォームをはじめ部品を共通化して量産効果を生かし、数百万台の量販型EVを世界で生産・販売する考えだった。だが、結論から言って、両社は決裂した。「コストと商品性で両社の考えが合わなかった」(ホンダ)からだ(図2)。
実は、この結果を予想する声も自動車業界からは上がっていた。「GMはピックアップトラックをはじめ大型車を造るのは得意で利益もしっかりと出せるが、小型車は苦手。ところが、EVで大型車を造ろうとすると、高額になる上に車両が重くなるため、売れ筋のクルマを造りにくい。実際、2023年における同社のEV販売台数は目標に対して大幅な未達に終わった。そうした自動車メーカーと量販型EVの開発で手を組んでもうまくいくわけがない」(トヨタ自動車OB)と。事実、両社は合意後に1年以上の時間をかけて協議を続けたものの、結局は袂(たもと)を分かつことになった。現在、GMは猛進してきた「EVシフト」戦略を修正中だ。
これで困ったのがホンダだ。2024年3月15日の共同会見でも三部社長が語った通り、EVは数が増えないと量産効果を得られずコストが下がらない。開発費用も膨大で、ホンダ単独ではとても生き残れないからである。
ところが、日本国内を見ると、既に巨大なトヨタ連合が出来上がっている。トヨタ自動車の下にSUBARU、ダイハツ工業、スズキ、マツダなどが集う。しかも、その中心にいるトヨタ自動車はエンジン車はもちろん、ハイブリッド車(HEV)からプラグインHEV(PHEV)、EV、そしてFCVまでの「全方位開発」を進めている。確かに、足元のEVのラインアップは脆弱だが、その点はホンダも変わらない。残るのは、三菱自動車を傘下に収める日産自動車のアライアンスだ。結果的に、ホンダは日産自動車と手を組むほうを選んだ。
トヨタ連合に加わらなかった理由について、会見では三部社長は言及しなかった。電動アクスルや2次電池といったEVの基幹部品のコスト削減を狙うなら、より大きな量産効果を期待できるトヨタ連合に参加するほうに軍配が上がるはずだ。
何がホンダのトヨタ連合入りを阻んだのか。この点について、トヨタ自動車出身のコンサルタント(自動車系コンサルタント)は商品企画の自由度を挙げる。