ウクライナ 東部の要衝で激しい攻防 「ロシア軍の兵力は4倍」

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってまもなく3年となる中、激しい戦闘が続くのが東部ドネツク州のウクライナ軍の輸送拠点、ポクロウシクをめぐる攻防です。ウクライナ軍の報道官はNHKの取材に対し「ロシア軍の兵力は4倍だ」と述べ、厳しい戦いを強いられているとの認識を示しました。

ウクライナ東部ドネツク州の要衝、ポクロウシクは、ウクライナ有数の工業都市、ドニプロと主要道路や鉄道で結ばれていて、ウクライナ軍は東部の前線に兵員や物資を送るための輸送拠点として利用しています。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」によりますと、ロシア軍は、ことし夏以降、ポクロウシクなどをねらってドネツク州で進軍の速度を上げ、先月下旬までのおよそ3か月間で、去年1年間に掌握した地域の3倍近い1100平方キロメートル以上を掌握したということです。

ロシア軍は現在、ポクロウシクの南側からおよそ3キロの地点に展開していると見られています。

ポクロウシク方面を担当するウクライナ軍のナザール・ボローシン報道官は、NHKのオンラインのインタビューに対し、ロシア軍の兵力はおよそ7万人で、ウクライナ軍の4倍にのぼると指摘し「兵力で上回る敵との戦いが続いている。状況は厳しい」と述べました。

そのうえで「ロシア軍は、ポクロウシクの市街地に入るため、左右から突破しようとしている。あらゆる手段を使って掌握しようとしていて、化学兵器も使用している」と述べ、ロシア軍は手段を選ばず、掌握を試みようとしていると主張しました。

一方で「ウクライナ軍はロシア軍に反撃しており、大きな損失を与えている」とも強調し、激しい攻防が続いているとしています。

避難を余儀なくされる人たち相次ぐ

激しい戦闘が続く中、ポクロウシクからは避難を余儀なくされる人たちが相次いでいます。

ウクライナ当局によりますと、ロシアによる侵攻前、ポクロウシクの人口はおよそ8万2000でしたが、ロシア軍が迫ったことで、地元当局はポクロウシクや周辺地域の住民の避難を進め、今月25日の時点で1万1000まで減少しました。

ことし9月にポクロウシクから首都キーウの郊外へ避難したテチヤナ・チューリナさん(42)は、当時の状況を振り返り「砲撃は午前5時から午前11時まで続きました。2か月半、電気と水道がありませんでした」と話していました。

今、最も心配しているのは、避難せずに地元に残った友人です。

チューリナさんは毎週末、友人に電話し、安否を確認していますが、現地の通信状況が安定せず、つながらないことが多いということで「とても心配です。きょうは大丈夫でも、あすはどうなるかわからないのです」と不安そうに話していました。

チューリナさんは「平和であってほしいというのが願いです。自宅に戻りたい。こんなことが起きる前のような平和な暮らしがほしい」と目に涙を浮かべながら、話していました。

専門家「ポクロウシクを失ったら大きな痛手」

ポクロウシクについて、ウクライナの安全保障の専門家、イワン・ストゥパク氏は「ポクロウシクは多くの道路や鉄道の路線が交差し、ここを通じて、さまざまな場所に食料や兵士、弾薬などが輸送されている。ドネツク州に展開するウクライナ軍にとって非常に重要な都市だ」と述べ、ウクライナ軍の後方支援の重要な拠点として機能してきたと指摘しました。

そのうえで「もし、ウクライナ軍がポクロウシクを失った場合、ドネツク州全体のウクライナ軍の防衛線にとって深刻な打撃となるだろう。ウクライナ軍は別の場所に後方拠点を構築しなければならない。『この世の終わり』というわけではないが、大きな痛手だ」と分析しました。

さらに「コスチャンチニウカやスロビャンシクは、さまざまな物資の供給不足に苦しむ可能性がある」と述べ、ドネツク州の前線に近いほかの都市の市民生活にも影響を及ぼす可能性があるとの見方を示しました。