能登半島地震と豪雨 復旧工事の安全対策見直し相次ぐ 懸念も

ことしの元日に発生した能登半島地震からまもなく1年です。
9月には豪雨による被害もありました。

このうち豪雨では、能登半島地震の復旧工事が行われていた石川県輪島市のトンネルに大量の土砂が流れ込み、作業員1人が死亡しました。これを受け被災地では工事の安全対策を見直す動きが相次いでいますが、人件費などコストの増加が懸念されています。

作業員1人が死亡 現場では対策見直し進むも…

輪島市門前町の国道249号の「中屋トンネル」ではことし9月の豪雨で復旧工事の作業員1人が死亡し、工事を発注した国土交通省は11月、再発防止策をまとめました。

これを受け建設会社の間では安全対策を見直す動きが相次ぎ、このうち大手ゼネコンの「大林組」は輪島市内の国道249号で進めている復旧工事現場の3か所に新たに雨量計を設置しました。

雨の状況をリアルタイムに把握することで工事の中止や避難の判断をすみやかにできるようにしたということです。

さらに気象の状況などを作業員全員と共有するため責任者が作業の開始前に必ず説明することにしたほか、新たな気象情報が出された場合には専用のアプリを使って周知も徹底しています。

また工事現場での避難などの訓練も定期的に実施していくことにしています。

一方で安全対策を見直すことで対策の費用や工期の延長に伴う人件費など、「コストの増加」が新たな懸念として浮かび上がっているということです。

10月から輪島市で進めている河川の復旧工事では大雨の際に作業を中止する雨量の基準を見直した結果、工事を中止した日は以前と比べて5日増えたということです。

大林組奥能登災害復旧工事事務所 西中淳一工事長
「豪雨災害を受けて優先すべきは安全で作業員の命だという方針を改めて徹底した。一方で安全対策を徹底すればするほど作業人員やコストは増えてしまう。今後、工事の発注者と相談が必要だと考えている」

国土交通省北陸地方整備局は「現場の条件や気象状況を踏まえ設計の変更が必要と認められた場合には、これまでと同様に費用や工期について適切な変更の対応を行う」としています。

中屋トンネルとは?地震で天井崩落 豪雨で周辺に土砂崩れ

中屋トンネルは石川県輪島市の門前町と市の中心部を結ぶ全長およそ1.3キロの国道249号のトンネルです。

能登半島地震で天井が崩落するなどの被害が出たため通行止めとなり、復旧工事の結果、当初は9月25日からの通行再開が予定されていましたがその4日前の9月21日の豪雨で周辺では大規模な土砂崩れが相次ぎました。

当時は午前7時半からおよそ60人の作業員が復旧工事を行っていましたが、午前9時ごろに作業の中止が決定しました。

土砂崩れで逃げることができなくなった多くの作業員がトンネルの中などに取り残されたほか、安全確認を進めていた50代の作業員1人が土砂崩れで流されてきたトラックの下敷きになって死亡しました。

その後も通行止めが続いていましたが、周辺の県道や市道をう回路として整備することになり、今月25日から地元住民や緊急車両に限って通行できるようになりました。

う回路ができたことで輪島市門前町と市の中心部の間の移動時間は30分ほど短縮されたということです。

ただ「中屋トンネル」そのものの通行再開には時間がかかるということで、トンネルの前後の道路が崩落した部分に仮設の橋を整備したうえで来年夏ごろに2車線で通行を再開できる見通しです。

作業中に災害にあった男性“安全対策の徹底を”

9月の豪雨の際、中屋トンネルの近くで作業中に災害にあった70代の男性は、作業員の命を守るために安全対策を徹底してほしいと訴えています。

石川県志賀町に住む堂口英司さん(74)は9月21日の当時、下請け会社の作業員として交通誘導の作業にあたっていました。

激しい雨で作業は午前中で中止となり、車で帰宅しようとしたところ土砂崩れで道路が寸断され取り残されたということです。

土砂が押し寄せてきたことから、比較的安全だと判断した場所で1人で一夜を明かし、およそ30時間後に自衛隊に救助されました。

堂口英司さん
「気象状況はある程度予測ができると思う。工事を実施するかどうかは建設会社の担当者が的確に判断してもらわないと困る」

そのうえで、作業員の命を守るために安全対策を徹底してほしいと訴えています。

「下請けの会社からは雨が強く降っていても作業員を現場に行かせることができませんとは言えない。『それはできない』と言える人がいれば豪雨で被災することはなかったかもしれない」

復旧工事で相次ぐ労働災害

能登半島地震の被災地で進められている復旧工事では労働災害が相次いでいて、労働基準監督署は多発警報を出して安全確保の徹底などを呼びかけています。

厚生労働省によりますと、能登半島地震の被災地で進められている復旧工事では作業員が亡くなったりけがをしたりする労働災害が相次ぎ、先月末時点で石川県内では45件発生し3人が亡くなっています。

亡くなったのは9月の豪雨災害で輪島市の「中屋トンネル」で復旧工事にあたっていた作業員1人と、10月と11月に公費解体の作業中の2人です。

このため奥能登地域の2市2町を管轄する穴水労働基準監督署は今月(12月)、管内の事業者を対象に労働災害の多発警報を出して安全確保の徹底などを求めています。

専門家“優れた技術・知見の取り入れを”

被災地で行われる復旧工事の安全管理などに詳しい東京大学大学院の堀田昌英教授は、作業員の安全管理を徹底し被災地のいち早い復興につなげていくことが必要だと指摘しています。

東京大学大学院 堀田昌英教授
「災害の復旧工事の場合は安全な準備をしてから作業をするという余裕がないまま工事を始めなくてはいけないことが多く、危険性が高い環境になるのは避けられない。作業員の安全をしっかり確保することは非常に重要だ」

安全管理のためにかかる費用については、安全か費用の一方を犠牲にするトレードオフとして考えるのではなくて、発注する国や自治体などと受注する建設会社がきちんと話し合うことが求められているとしています。

「安全管理にかかる費用を工事費用の中に含めて契約を行うことが発注者の責務であり、適正な事業の実施を目指すべきだ」

さらに優れた技術や知見を取り入れて作業員の安全管理を徹底し、被災地のいち早い復興につなげていくことが必要だと指摘しています。

「ドローンを活用することで現場の状況をいち早く把握する効果などが報告されている。優れた知見や技術などといった取り組みを集めながら復旧・復興の工事を進めていくことが求められている」