「ことしの株式市場は堅調に推移した」
日本取引所グループの山道裕己CEOは今月13日の定例会見で、ことしの株式市場をこう総括しました。
日経平均株価のチャートを見てみると、まるでことしの干支(えと)の『辰』(龍)のように上に下にと蛇行しながらも、25日移動平均線はゆるやかな右肩上がりとなっています。
1年を振り返ってみると「総じて堅調」「株高の年」だったかもしれません。
株高か株安か 2025年の相場は「あの人」次第?【経済コラム】
2024年は東京株式市場にとって歴史的な1年でした。
日経平均株価の最高値更新、過去最大の急落と上昇。
数々の記録に揺さぶられながらも最後は『上昇』で着地しそうです。
2025年はどのような相場になるのでしょうか。
カギを握るのは“あの人”かもしれません。
(経済部記者 横山太一)
2024年の株価 なぜ上昇?
日経平均株価
▽2月22日 バブル期につけた終値としての史上最高値を34年ぶりに更新
▽3月4日 4万円の大台を突破
▽7月11日 4万2224円で史上最高値を更新
(12月27日時点で日経平均株価は4万281円)
とくに1月-3月、6月-7月は急な山の斜面を駆け上がるかのような上昇基調でした。
株高となった背景には、歴史的円安を追い風に輸出企業の業績が押し上げられるという期待感がありました。
一方、日本の株式市場をめぐる構造的な変化もありました。
1.投資マネーの流入
日本企業のガバナンス改革が進展したことで日本市場の魅力が従前よりも高まったという見方があります。さらに中国経済の減速を受けて、機関投資家からは「それまで中国に向かっていた海外の投資マネーが日本に集まっている」という声が聞かれました。
2.政策保有株の解放
政府や東証の呼びかけに応じて大企業や大手金融機関の間で政策保有株=いわゆる「持ち合い株」を手放す動きが広がり、外国人投資家の間で市場に出回った一部の銘柄を買う動きがあったという指摘があります。外国人投資家が保有する日本株の割合は金額ベースで31.8%と過去最高となりました(※日本取引所グループ 2024年7月発表)。
3.NISA拡充
ことし1月から始まった新NISAも追い風となりました。業界団体が公表した大手証券会社10社の集計によりますと、ことし1月から11月までのNISAの投資額は11兆8000億円あまりと去年の同じ期間と比べて3.7倍に急増。このうち38%は国内株式の投資にあてられたということです。
乱高下の株価 AIで株価予測の動き
株高だったと振り返りつつも「あの日」を思い出す人は多いのではないでしょうか。
8月5日と6日です。
7月31日、日銀が追加の利上げに踏み切り、この先も利上げを目指す植田総裁の発言がたちまち世界中に伝わりました。
その直後、アメリカで市場予想を下回る雇用統計が発表されると市場が激しく動揺します。
それまでは「この先も金利の低い状態が続くだろう」という考えから、低利の円を借りて高金利通貨(ドルなど)に投資をする「円キャリートレード」が広がり、円を売ろうというポジションは記録的な水準に積み上がっていました。
これが一気に巻き戻したのです。
8月5日の日経平均株価はブラックマンデーの翌日を超え、過去最大となる4451円の下落。
翌6日にはこれまた過去最大となる3217円の上昇。
市場関係者からも「パニック状態だ」「市場がかんしゃくを起こした」という声が多く聞かれました。
通貨の先物取引を扱う取引所の「円売りポジション」などの統計を丁寧にウォッチしていれば、巻き戻しが起きたときの“ショックの大きさ”は想像はできたかもしれません。
ただ巻き戻しが起きること自体を予測するのは極めて難しいのが現状です。
こうした中、株価の動きを予測するシステムの開発競争が世界中で活発になっています。
私は今月、都内にあるベンチャー企業を訪ねました。
ここでは金融工学の研究者たちが機関投資家向けにAIを使った株価の予測システムを開発しています。
開発中のシステムは、まず5日後に今よりも値上がりする銘柄を予測します。
過去数十年分の企業の株価やROEなどの経営指標、当時の円相場、米国債の金利など膨大な情報をAIに学習させます。
それによって毎日『5営業日後に最も上昇率が高いと予測する銘柄トップ10』を選び出す仕組みです。
研究者たちがシミュレーションをしたところ、今年1年間、1位か2位の銘柄を買って5日後に売却することを毎日続けた場合、およそ50%の収益をあげられたということです。
今、このベンチャー企業では生成AIの活用にも乗り出しています。
過去のデータだけでなく、投資家の心の動きや行動を分析するためのシステム開発も進めているといいます。
ことし夏のような市場の急変もAIが事前にキャッチして、損失を最小限に抑えるような備えをすることはできるのでしょうか。
投資は利益を得られる半面、損失はつきものです。
必ずリスクはあります。
私が今回見たのは最先端の研究・開発ですが、投資にAIを活用する動きは着実に広がっています。
ベンチャー企業 内田友幸社長
「生成AIの場合は、トレーダーがまず何を考えるのかっていうところを考える。これを極めていくと暴落も予想できるようになる。近い将来はAIがアルゴリズムを作って勝手に株をぐるぐる回す、人間は結果を見るだけみたいな時代が来てしまうかもしれない」
来年の相場はどうなる?
乱高下も含めて記録づくめとなった2024年の東京株式市場。
『巳(み)年』の2025年。
相場はどうなるのでしょうか?専門家に話を聞きました。
日経平均株価
2025年12月末 4万3000円程度
「アメリカではGDPの約7割を占める個人消費が引き続き強く、経済をけん引する原動力となっている。アメリカ経済の先行きに楽観的な見方が広がっていることは日本株にも好材料になるだろう。年前半は、トランプ次期大統領による貿易政策への警戒感から波乱含みとなる可能性もある。ただ、後半になると日銀の利上げの余地が小さくなることが予想され、株価が上昇する可能性は広がるのではないか」
日経平均株価
2025年最高値 4万1000円程度
「今月にはアメリカの主要な株価指数(ダウ平均株価・ナスダック・S&P500)がそれぞれ最高値を更新したが、日本株の上昇幅は限定的だった。さらにトランプ次期大統領の就任によって株式市場も『アメリカファースト』になるとみられる。したがって来年の日本株はアメリカ株が上昇したとしても上昇率は低い状態(=アンダーパフォーム)が続くのではないか」
株価は円相場の動きに大きく左右されます。
2人に「円相場」の見通しも聞きました。
東海東京インテリジェンス・ラボ 長田清英 投資戦略部長
円相場
2025年を通して1ドル=160円台
「円安が進んで年間を通じておおむね160円台で推移するのがメインシナリオだとみている。アメリカの利下げのペースは経済の堅調さを背景に緩やかになる可能性が高くなっている一方、日銀は個人消費を下支えするため継続的な利上げは困難だとみている。そのため日米金利差の縮小による『円買い』は進みそうにない」
みずほ証券 三浦豊シニアテクニカルアナリスト
円相場
2025年3月末 1ドル=150円~155円程度
2025年12月末 1ドル=145円前後
「日銀の異次元緩和を背景に続いていた中長期的な円安局面は終了し、次は中長期的な円高局面になると思われる。トランプ次期大統領がドル安(=円高)を志向する発言をしていることも、円高が進みやすい要因になるのではないか。ただ年明けは海外の投機筋の動向によっては160円程度まで円安が進むことも考えられる」
2人が予想する相場の方向感は違いましたが、共通していたのが1月に就任するトランプ次期大統領の政策の影響です。
特に貿易政策に対する警戒感は、一定程度東京市場でも広がるのではないかとみていました。
ただ、トランプ次期大統領が実際どの国に対して、どれほどの関税強化を始めるかは不透明な部分が多いのが現状です。
仮にアメリカが輸入品に対して関税を引き上げた場合、供給制約からインフレになることも予想されます。
その場合、アメリカは利下げが難しくなり、日米の金利差が縮小されないことで円安が進むことも考えられます。
一方でトランプ次期大統領は選挙期間中にインフレ対策を打ち出していることから、インフレが進むリスクがある関税強化は限定的になるのではないかといった見方もあります。
トランプ次期大統領の就任は1月20日。
来年は新大統領の発言や行動の一挙手一投足に関心が高まるマーケットとなりそうです。
注目予定
(12月27日「おはよう日本」で放送)