公立学校の教員の給与は、仕事が多岐にわたり、勤務時間の線引きができないとして法律によって残業代を支払わない代わりに、一律で月給の4%を上乗せすることになっています。
どうなる?教員給与 文科省と財務省で意見の隔たり 現場は…
来年度の予算編成で焦点となっている教員給与の上乗せ分の扱いをめぐり、文部科学省と財務省の間で意見の隔たりがあり、検討が進められています。焦点は、引き上げ幅と時期、それに働き方改革の成果を条件とするかどうかです。
文科省「処遇改善は喫緊の課題」 財務省「働き方改革が必須」
来年度の予算編成では、この4%の上乗せ分が焦点となっていて、文部科学省が処遇の改善は喫緊の課題として、一度に13%まで引き上げたいとしている一方で、財務省は働き方改革が必須だとして、時間外勤務の削減などに応じて段階的に10%への引き上げを目指すとする案を示していました。
関係者によりますと、文部科学省と財務省は、時間外勤務の削減などの条件をつけずに、現在の4%から6年後の2030年度までに、段階的に10%に引き上げる案で検討を進めていて、年度ごとの引き上げ幅について、詰めの調整を進めています。
また、文部科学省が求めている教職員の定数改善を含めた人員拡充策についても調整していて、24日にも閣僚折衝を経て、最終的な対応を決める方針です。
現場の先生たちにアンケート
現場の先生たちは、どのように考えているのか。文部科学省と財務省それぞれの方針についてアンケート調査をしたところ、さまざまな意見が寄せられました。
文科省案 支持の意見は…
まず、給与の上乗せ分を一度に13%に引き上げることや、教員定数の増員などを求める文部科学省の方針を支持する教員からは、次のような意見が聞かれました。
▽「教員の仕事は職務の線引きが難しい。働き方改革は行っていて、限界にきている。この限界を打破するためには、教員定数の増員と処遇改善しかない」(茨城県 小学校 60代以上校長)
▽「働き方改革を進めているが、人手が足りていない。まずは採用人数を増やすためにも、給与の上乗せ分を引き上げてアピールすることの方が先決のように思う」(香川県 小学校 50代教員)
▽「急激に働き方改革が進められたアフターコロナ世代の私たちでも、月50時間ほど残業をしている。不透明な働き方改革に期待を寄せるよりも、目に見える形で上乗せ分をいただけた方がうれしい」(愛知県 中学校 20代教員)
▽「教員の業務では、生徒のために教員が個別に、また、チームで創意工夫を凝らして行うことも多く、勤務時間内に終了することを意識しすぎると、教育の質の低下が考えられる」(東京都・中学校・30代教員)
▽「教員の在校時間を数字上で減らしても、やり残した仕事を家庭に持ち帰る懸念がある。上乗せ分を10%に引き上げる期間や段階的な引き上げ率など、具体的な計画内容を示さないと財務省案に賛成できない」(東京都・中学校・60代以上教員)
財務省案 支持の意見は…
一方で、働き方改革を重視する財務省の方針を支持する教員からは、このような意見が聞かれました。
▽「教員の仕事が多すぎて疲弊している。働き方改革を強力に進めていくというスタンスが大事だ」(香川県 小学校 50代校長)
▽「すべての教員が『やりがい』を重視しているわけでなく、『ワークライフバランス』を重視している者も多くいる。今後の教員のなり手の増加について考えると、財務省案だ」(愛知県 中学校 30代教員)
▽「一律の引き上げだけでは、定額働かせ放題の現状は変わらない。残業時間を入れた実働時間で給与を割ると、時給700円台の人すら存在するのは異常だと思う」(東京都 小学校 30代教員)
▽「どの業務を誰がどのように減らしていくのかを、具体的に現実的に示してほしい。調整額が上乗せされて残業代がもらえるならうれしいが、とんでもない額になりそうだ」(東京都 小学校 20代教員)
▽「定時で退勤する先生もいれば、遅くまで残業をする先生もいて、残業代を支給する必要がある」(東京都 小学校 30代教員)
「業務見直し」「定数改善」求める声も
このほか、自由記述などでは、業務の見直しの必要性や教員定数の改善を求める声が寄せられました。
▽「働き方改革は、国が『待ったなし』としているのに、学校や自治体によって差が大きすぎる。現場任せではなく、より高い視点から改革を呼び掛けてほしい」(東京都 中学校 30代教員)
▽「宿題チェック、印刷、ライン引きなどの専門性を必要としない仕事は、外部人材に頼むのはあり」(茨城県 小学校 30代教員)
▽「不登校児童生徒の急増やいじめの深刻化、児童生徒の多様化など、子どもたちを取り巻く環境が数年前に比べて急激に変化している。教員の定数増は、現場の教員の総意だと感じている。また、部活動の地域移行も見据えて、外部人材を積極的に学校内に取り入れることも、同時に進めていく必要がある」(愛知県 中学校 40代教頭)
▽「50年前と現在では時代が違う。体制や処遇をはじめ、いまの時代にあった制度にならないと現場は苦しくなる一方だ」(茨城県 小学校 50代教員)
▽「先日、隣の小学校の教員が、人手不足のために授業力を向上するための研修に参加できない事態が起きた。教員の学習時間を確保するためにも、教員を増員していただきたい」(愛知県 中学校 20代教員)
現場の負担軽減へ 新システム導入の動きも
教員の負担を軽減するため、学校現場ではさまざまな取り組みが進められています。
東京・墨田区の吾嬬第二中学校では、教員の負担を減らすため、新しいシステムの導入を積極的に進めています。
おととしから取り入れたのが、生徒の欠席連絡を24時間、自動で受け付けるシステムです。
体調不良などで欠席する生徒の保護者が電話やネットを使って欠席の連絡のほか、症状など欠席の理由をガイダンスに沿って入力します。
入力された欠席連絡は、職員室のモニターのほか、教員1人1人の端末にも共有されます。
以前は、朝の登校時間帯に保護者からの欠席の電話連絡が集中し、職員室で電話を受けた教員が、担任の教員に情報を引き継ぐなどの対応に追われていました。
いまでは、こうした電話が鳴ることはほとんどなくなり、教員どうしが情報を共有したり、授業の準備にあてたりできるようになったといいます。
また、定期テストなどの採点を効率的に行えるデジタル採点システムも導入しました。
機械が解答用紙を読み取ると、生徒全員の採点結果が設問ごとにまとめて表示されます。
さらに、合計点の計算や正答率の分析まで瞬時に行ってくれます。
採点や分析にかける手間が大きく減り、学期ごとの定期テストに加えて、授業中に行われる小テストなどでも活用する先生も増えています。
教員に重い負担となっていた部活動の指導も、地域移行を進めました。
女子バレーボール部で部員たちに声をかけているのは、スポーツクラブの指導員で、技術指導や安全管理を担当してもらっています。
顧問を務める大津裕喜先生は、これまでは部活動が終わる午後6時ごろまでつきっきりで見守っていましたが、いまでは主に指導員に指導を任せています。
大津先生は、最初のミーティングに顔を出した後は職員室に戻ります。
翌日以降の授業の準備などに時間を使うことができるようになり、残業や家で仕事をすることが減ったということです。
休日のたびに負担となっていた大会などの引率も指導員に任せることができ、家族で過ごす時間も確保できるようになりました。
一方で、業務のなかにはなかなか削減できない部分も少なくありません。
大津先生はふだんは1年生3クラスの副担任を務めるほか、国語の授業を週に15コマ受け持っています。
さらに、授業がない時間や放課後にも生徒や保護者への対応が必要な場合があります。
その1つが、さまざまな事情で教室に来て授業が受けられない生徒の対応です。
学校にはこうした生徒のための教室が設けられています。
主に外部の支援員が生徒を見守っていますが、大津先生も自分のクラスの生徒が登校してくると、教室に行って学習の指導をしたり、相談に乗ったりします。
ただ、こうした生徒が登校する日や時間は生徒の事情に応じてまちまちで、生徒に向き合うことを最優先にしているため、予定した業務を変更することもあるといいます。
「生徒が学校にいる間は、何よりも優先して対応したいと思っている。教員と話したい生徒がいれば臨時で対応することもあり、子どもが帰ったあとに別の業務を行っています」
「対応が急に必要になることも日常的に起こっています。予定していた仕事を放課後や勤務時間外に回さざるを得なくなることも非常に多いです。学習面だけでなく生活面も含め、トータルで生徒たちと向き合っているので、機械的に業務を削減することは難しいのが現状です」
専門家“抜本的に負担減らす方向性を”
教員が置かれている状況について、専門家は…。
「子どもたちの状況が多様化していて、教科書通りではない個に応じた授業が行われ、特性に応じたケアなど福祉的な役割も大事になってきている。今でも残業代がついていないサービス残業のような状態だが、多くの先生方は子どもたちのために献身的に働いている」
そして、給与の上乗せ分については「毎年1%ずつしか上げないのは非常に動きが遅いし、先生たちの頑張りを国が認めていないというマイナスメッセージとして捉えられかねない」と指摘します。
一方で、働き方改革の状況は自治体などによって差があるとし「部活動改革や登下校の見守りなど、保護者とか地域の方に理解を求めないといけないようなことは、改革があまり進んでいない。理解を得ながら取り組みを進めていこうというのが文部科学省の考えだが、財務省はそういったことでは、まだまだぬるいと指摘している」と話します。
そのうえで、「教員の負担軽減を早急に進めないといけないという考えは共通している。教員の給与を上げつつ、仕事の負担を抜本的に減らしていく方向性にもっとかじを切るべきだ。財務省と文科省のいずれの案になったとしても、教員をもっと大事にしていく政策の方向性は非常に大事だ」としています。