子どもが不登校 仕事辞めました…

子どもが不登校 仕事辞めました…
まさか、自分の子どもが不登校になるとは思っていませんでした。

娘は小学校4年生から2年間学校に行っていません。

体調不良が続き不安定になっている娘を家に残して仕事には行けない。

2か月後、私は仕事を辞めることになりました。

不登校の小中学生、34万人余り。その親たちもまた、切実な現状と向き合っています。

(社会部記者 勝又千重子)

不登校のわが子を置いていけず…

「吐き気がする」…。

娘がそう訴えるようになったのは小学校4年生の2学期。

新型コロナに感染したあと、回復して学校に行こうとした日のことでした。

このとき私は「まだコロナの症状が続いているのだろうか」くらいに思っていました。

その後、小児科に何度通っても症状が改善せず、やがて医師から「心因性のものかもしれない」と言われるようになりました。

小児精神科で医師から“不登校”ということばが出たとき初めて、「そうか娘は不登校なのか…」と認識しました。
学校の友だちや先生について悩みを言うこともなかったので、原因はわかりませんでした。

「私の育て方が悪かったのだろうか」
「離婚でつらい思いをさせたからだとしたら私のせいだ…」

娘の将来がどうなるのか不安で、自分を責め続けました。

しかし、つらかったのはそれだけではありませんでした。
ひとり親家庭のため、娘が体調を崩して休んでいる間、付き添えるのは私だけです。

派遣の仕事で生計を立てていましたが、会社を休み続けるには限界があり、2か月ほどたって私は仕事を辞めざるを得ませんでした。

児童手当や細々とやっていた副業とあわせて収入は月に10万円ほど。

どうやって生きていこう。

不登校で苦しんでいる娘には絶対に心配させたくない。

娘の不登校と生活が私の両肩に乗っている重圧で押しつぶされそうでしたが、誰に相談してよいかもわからず、孤独でした。
北海道に住む40代の母親は、取材に対し、涙をこらえながらそう話してくれました。

不登校で保護者の5人に1人が離職

昨年度、不登校になった小中学生は全国で34万人を超えて過去最多となっています。

都内のフリースクールがことし10月に公表したアンケート結果からは、保護者の切実な状況が見えてきました。
子どもが不登校になったことによる変化を聞いた質問では、5人に1人が「仕事をやめざるをえなかった」と回答。

特に、自宅で1人で留守番をさせづらい小学校低学年の保護者で多くなりました。

また、半数以上が「気分の落ち込み」や「孤独を感じた」と答えました。

▼気分の落ち込み 57%
▼孤独を感じた 55%
▼体調不良になった 26%
▼仕事をやめざるをえなかった 19%
▼精神科を受診した 15%
▼特に変化はなかった 11%
▼子どもをたたいてしまった 9%

調査を行ったフリースクールは「不登校の子どもたちが増える中、子どもだけではなく保護者も深刻な困難を抱えているが、その支援は行き届いておらず、追い詰められてしまう状況がある」としています。

“親にも居場所を”全国に広がる「トーキョーコーヒー」

こうした中、保護者たちの居場所づくりが全国で広がっていると聞き、兵庫県で暮らす当事者のもとを訪ねました。

夫と3人の子どもと暮らす柿野実波さん(38)。

小学校5年生の長男と、2年生の次男が不登校となっています。
はじめに不登校になったのは長男で、小学校に入学後、徐々に学校に行きたくないと言い始めました。

友達とうまくいっていないわけでも、勉強についていけないわけでもなさそうで、本人も自分の気持ちをうまく表現できないようでした。

柿野さん自身、親として焦りが募っていったといいます。
柿野実波さん
「自分の中に“学校に行くのが当たり前”という常識があって、勉強も遅れてしまうし、やっぱり引っ張ってでも学校に行くのが正しいんじゃないかと思ってしまうこともありました。学校に『欠席します』と連絡をするのがすごくつらくて、申し訳ないという気持ちで自分を責めるような状況が続いて、どんどんしんどくなっていきました。私のそういう状況を見て、子どもも『自分が悪いことをしている』という感覚になって親子ともどもすごく疲弊していったんです」
そんな時、柿野さんが見つけたのが「登校拒否」ということばから生まれた「トーキョーコーヒー」というプロジェクトでした。

不登校の子どもがいる保護者の居場所として“大人が楽しく活動する”ことを目的に、2年前に始まりました。
編み物や農業、ダンスなど、それぞれの拠点によって活動内容はさまざまで、まずは大人が安心できる仲間と一緒に活動に打ち込むことで、自分自身の心を癒やし、子育てや教育について語り合おうというコンセプトです。

現在、全国で400か所近くまで広がっています。
近所の拠点に通い始めた柿野さん。

ほかの母親や父親と過ごす中で、不登校に関する悩みも自然に話せるようになったころ、自分が元気になっていることに気づいたといいます。
柿野さん
「子どもに対して全力で味方になってあげたいと思っているのに、学校に行ってほしいと思ってしまう自分を責める気持ちがあったのですが、その気持ちを分かってもらえて、共感してもらえたのはすごくありがたかった。孤独から抜けられる、1人じゃないんだなというところからすごく心が充電されて、そうなると子どもが何をやってもまるっと受け入れようっていう気持ちになれました」
徐々に不登校であることを、前向きに捉えられるようになったという柿野さん。

ことし9月からはイベントを開催する側になりました。
取材に訪れたこの日、参加者は近所の公共施設に集まって、コーヒーを飲みながら折り紙をしたりマッサージを受けたり、リラックスした時間が流れていました。

以前は自宅から出られなかったという次男も一緒に参加していました。

ほかの子どもたちと会場の設営を手伝ったりゲームで遊んだりと、次男にも少しずつ変化が生じてきているといいます。
柿野さん
「息子が仲間を見つけて、自分で声をかけて遊ぶというのも今までなかったことで、私がすごく楽しそうだと子どももすごく楽しそうです。本当に親子は“鏡のような存在”だなと。今は親に対する支援の場所がまだまだ少ないので、そういう場所が増えていくことは大事なことだと思います」

企業にもできることが?不登校支援に動き出したのは…

保護者たちが働く企業の側も動き始めています。

不登校に特化した支援をしている企業があると聞き、茨城県の工場を訪ねました。

少年に人気の漫画雑誌を印刷していることでも知られる印刷会社。

創業120年を超え、従業員数はおよそ1800人。

半数近くが工場で勤務しています。
在宅勤務が難しい部署も多いこの会社で、去年1月に導入されたのが、子どもが不登校になった時に使える短時間勤務や休業の制度です。

不登校に特化した制度の導入に踏み切った理由を、人事担当者に聞きました。

きっかけは、不登校の子どもたちが過去最多となっているとニュースで知ったことだったそうです。

自身も小学校入学前の2人の子どもがいたため、今後の子育てに不安を抱き、不登校の現状について社内でアンケートをとったといいます。
回答があった167人中、子どもの不登校を経験した社員は16人、その兆候に不安を感じている社員は36人と、合わせて3割を超えていました。

社員からは仕事との両立の難しさを訴える切実な声が上がったといいます。
中学生の子どもがいる女性社員
「夫婦共に早く家を出るので勝手に学校を休んだり早退していることが先生からの連絡で発覚した。その時はショックを受けた。登校付き添いの指示があり、夫婦でやりくりして対応している」

高校生の子どもがいる女性社員
「自傷行為があり、そばにいてあげないといけなかった。祖父母ではなく親を求められる時期だった」
人事担当者も、想像以上に多くの社員が子どもの不登校に悩みや不安を抱えている現状に驚いたといいます。
共同印刷人事企画課 臼井さや香課長
「実際にヒアリングをしてみると、想像していたより両立が大変で、会社に出勤しなければならない職種の方が、子どもが朝起きられなくて苦しんでいるのに家に子どもを置いて出なければいけない。会社に来ても、子どもは起きられただろうかとか途中から学校に行けただろうかと思いながら1日を過ごしている気持ちを思うと、胸がぐっと締め付けられる思いがしました」
制度導入後、現在2人の社員が利用しています。

利用者からは「仕事と両立ができるか悩んで離職を考えていたけれど子どもをケアしながら安心して働き続けられる制度ができ心強かった」などと感想が寄せられているほか、ほかの社員からも好評だということです。
2人の小学生の子どもがいる女性社員
「実際に不登校になるかどうかはまだ全然分からないことですが、時短勤務が取れるというのはだいぶ気持ちが楽なのかなと思って安心しています」
会社では、人手不足の中で働きやすさを整えていくことは社員の定着にもつながると考え導入を決めた側面もあるということですが、それだけではなく、社内の雰囲気も変わったそうです。
人事企画課 臼井さや香課長
「子育てと仕事の両立は長期戦なので、不登校についても社会課題なんだからお互いに支え合おうよとメッセージを会社から従業員に出したかった。制度導入をきっかけに、職場内に打ち明けたり上司に相談したりする機会になったという声も届いていますので、大変なこともあるけれども支え合って働ける風土の形成になったと思います」

親も含めて、社会で支える仕組みを

専門家は、不登校の子どもたちは今後も増えていく可能性は高いとして、当事者だけが抱え込む問題にしないことが大切だと指摘しています。
大東文化大学 山本宏樹准教授
「現代は学習ができる環境自体がさまざまある中で、学校だけで学びを保障するという考え方が少しずつ時代遅れになってきている。世界的にみても致し方ない流れであり、今後不登校の児童や生徒はまだまだ増えていく可能性は高い。その意味でも、学校に通わない、もしくは通えない、子どもに対する教育的な支援や学びの提供だけでなく、保護者も助かるような情報提供や支援は何なのか、社会全体で考えていく必要がある」

取材後記

不登校の小中学生が34万人を超え、学校以外の学びの場所を選ぶ子どもたちも増える中、徐々に不登校に対する社会の視線は変わってきていると思います。

それでもまだ、周囲に投げかけられることばに傷ついたり相談できなかったりする保護者たちもいる現実があります。

ある日、わが子も同じ状況になる可能性がある現代。

保護者への支援のあり方や、不登校に対するまなざしが変わっていくことで、当事者が抱え込まずにすむ社会になればと思います。

(2024年11月29日 おはよう日本で放送)
社会部記者
勝又千重子
2010年入局
山口局、仙台局を経て現所属
人口減少や子どもに関する取材をしています
自身も育児に奮闘中