政府は17日朝、総理大臣官邸で犯罪対策閣僚会議を開き、闇バイトによる事件を受けた緊急の対策を決定しました。
この中では、取締りの強化や抑止を図るため捜査員が架空の人物の運転免許証などを使ってSNS上の闇バイトに応募し、犯行グループに接触する「仮装身分捜査」のあり方を検討し、運用指針を策定したうえで早期に実施するとしています。
また、アルバイトを募る際に、募集者の氏名や連絡先、業務内容などの表示がないものは職業安定法に違反することを明確にして広く周知するほか、求人サイトを運営する事業者に対して、掲載前の事前審査を厳格化することを指導するとしています。
さらに、秘匿性の高い通信アプリなどSNSのアカウントを開設する際に本人確認の厳格化を事業者に要請すること、「即日即金」など闇バイトの募集で使われる単語を検索した人の画面に自動で警告の動画を表示する広告や、荷台に広告を掲示する「アドトラック」と呼ばれる宣伝車を活用して犯罪に加担しないよう呼びかけることなどを実施するとしています。
闇バイト取締り「仮装身分捜査」とは 政府が緊急対策決定
闇バイトによる犯罪が相次いでいることを受けて、政府の犯罪対策閣僚会議が開かれ、捜査員が架空の人物の運転免許証などを使って闇バイトに応募し、犯行グループに接触する「仮装身分捜査」を早期に実施することなどを柱とする緊急の対策を決定しました。
「仮装身分捜査」とはどのようなものなのか?
「おとり捜査」との違いは?
導入に向けての課題は?
詳しくお伝えします。
「仮装身分捜査」運用指針策定し早期実施へ
石破首相「断じて許してはならない」
石破総理大臣は、犯罪対策閣僚会議で「闇バイトによる強盗事件が相次いで発生しており、被害者が亡くなる大変痛ましい事案もみられる。この種の犯罪は、他者への慈しみや堅実な努力といった日本社会の中で大切にされてきた道徳観、価値観を揺るがしかねないものであり、断じて許してはならない」と述べました。
そのうえで「国民の安全・安心な暮らしを守り抜くことは、政府の重要な責務だ。実行犯はもちろん、事件の首謀者まで絶対に検挙するため、徹底的な取締りを行う。断固たる決意のもとスピード感をもって各種対策に取り組んでほしい」と関係閣僚に指示しました。
警察庁では、「仮装身分捜査」を取り入れた捜査手法を「雇われたふり作戦」と名付けて犯罪の取締りや抑止につなげたい考えで、坂井国家公安委員長は17日の閣議後の会見で「匿名・流動型犯罪グループの取締りに必要な体制の確保や装備資機材の高度化を図るとともに、仮装身分捜査を早期に実施するための取り組みを強力に進めていきたい」と述べました。
【図解】仮装身分捜査とは おとり捜査との違いも解説
警察庁が導入を検討している「仮装身分捜査」とはどのようなものなのか。
ことし8月以降、闇バイトによる強盗事件が相次ぎ、首都圏で発生した一連の強盗事件ではこれまでに46人が逮捕されていますが、指示役の検挙や実態解明、それに次の犯行をいかに未然に防ぐかが課題となっています。
SNSなどで行われる闇バイトの募集の多くは、秘匿性の高い通信アプリに誘導されたあと、本人確認のためだとして、指示役から運転免許証などの証明書の提示が求められます。
求めに応じて送ってしまうと、断ろうとしても個人情報を理由に脅されて犯罪に加担させられるケースが多くなっています。
警察庁によりますと、これまで捜査員であることを隠して闇バイトに応募するという捜査自体は行われてきましたが、本人証明書の提示を求められることが多くなったため、検挙につながるケースはほとんどなかったということです。
このため捜査員が架空の人物の運転免許証などを使って闇バイトに応募する「仮装身分捜査」の導入が検討されています。
運転免許証などの証明書を偽造することは、公文書偽造などの罪に問われるおそれがあるため、これまで実施されてきませんでした。
ただ、刑法では「法令または正当な業務による行為は罰しない」と規定されているため、警察庁は現在の法律の範囲内で対応が可能ではないかとしています。
警察庁は関係省庁と協議し、闇バイトによる犯罪の捜査に限った運用にするなど、運用の指針を策定したうえで、来年にも実施したい考えです。
「おとり捜査」との違いは?
一方、捜査員であることを隠して犯行グループに接触する捜査手法としては、「おとり捜査」があり、日本では現在、薬物や銃器の取引に関する捜査でのみ実施されています。
「仮装身分捜査」との大きな違いの一つは、「おとり捜査」では本人証明書を偽造して提示することまでは行わないということです。
さらに「おとり捜査」では、例えば薬物の売人や購入しようとする人に薬物の売買を働きかけて、犯罪行為を行った段階で摘発します。
一方、「仮装身分捜査」ではSNS上で募集されている闇バイトの投稿にアクセスして接触を図るため、捜査員から犯罪行為を働きかけるわけではないということです。
専門家 “一定の抑止力期待も課題多い”
「仮装身分捜査」の導入について、刑事法に詳しい甲南大学の園田寿名誉教授は「国民の治安に対する不安感が強い中で、犯罪が起こる前に、何とか実行を阻止するという意味では有効な手段で、一定の抑止力が期待できると思う」と、その必要性について理解を示す一方、導入に向けては解決すべき課題が多いと指摘しています。
園田名誉教授は課題として
▽闇バイトの捜査に限定している適用範囲がなし崩し的に広がることがないか、
▽犯行グループに接触する捜査員の身の安全をどう担保するか、
▽実行犯の検挙だけにとどまらず、指示役にまでたどりつけるか、
▽一般国民が捜査協力者として巻き込まれることがないか、などを指摘しました。
そのうえで「非常にイレギュラーな捜査手法であることを考えるとガイドラインのような省庁内部の運用指針ではなく、法律できっちりと規定するべきだ。闇バイトに関する捜査に限定した適用範囲が、今後、なし崩し的に広がることで、安易にこの捜査手法が使われるようになるとほかの人権が侵害されるおそれや疑心暗鬼の社会につながるおそれがあるため、しっかりと議論する必要があると思う」と話していました。
村上総務相「SNS事業者による投稿の削除など促していく」
闇バイトによる犯罪が相次いでいることを受けて、政府が緊急の対策を決めたことについて、村上総務大臣は17日の閣議のあとの記者会見で、SNS事業者に闇バイト募集の投稿を削除するよう促すなどの対策を進めていく考えを示しました。
この中で、村上総務大臣はインターネット上でどのような情報を流通させると違法になるかを示すガイドラインの策定の準備を総務省で進めているとしたうえで、「アルバイトの募集を行う者の氏名や業務内容などの明示がない募集は職業安定法に違反することを明示し、SNS事業者による投稿の削除など適切な対応を促していく」と述べました。
そのうえでインターネットサービスを提供する事業者に対し、携帯電話番号による認証など本人確認の厳格化や、利用者への注意喚起などの対策を進めるよう求めていく考えを示しました。
さらに「スマホで利用される通信アプリのうち『シグナル』などのサービスが闇バイトで悪用されている場合があるとの指摘は承知しており、犯罪捜査を難しくしている面がある。通信サービスを所管する立場から犯罪対策に必要な協力をしていきたい」と述べました。
平デジタル相「警察に全面協力 AIを最大限に活用」
平デジタル大臣は閣議のあと記者団に対し「闇バイトはSNSで募集をかけられることが多く、警察がAIを使ってSNS上をパトロールしており、デジタル庁は技術的な助言を行っている。さらに警察に全面的に協力し、闇バイトの募集がSNS上からなくなるようにAIを最大限に活用していきたい」と述べました。