“NBA挑戦という修行” 河村勇輝の現在地

平均身長およそ2メートル。バスケットボールの世界最高峰、NBA=アメリカプロバスケットボールに、今シーズンから挑戦する河村勇輝選手は1メートル73センチとリーグで最も小柄ながら、懸命にプレーする姿でファンの心をつかんでいます。
「3年かけて本契約を」と挑んだ舞台で、順調なスタートを切ったように見える23歳の若者が、今どのような手応えを感じているのかを知りたいと思い、河村選手の元を訪ねました。
(ロサンゼルス支局 本間祥生)
「3年かけて本契約を」と挑んだ舞台で、順調なスタートを切ったように見える23歳の若者が、今どのような手応えを感じているのかを知りたいと思い、河村選手の元を訪ねました。
(ロサンゼルス支局 本間祥生)
広がる人気 “高価なものは小さな包みに入っている”

11月下旬、河村選手が所属する、NBAグリズリーズの本拠地・テネシー州のメンフィスで取材に応じてくれた河村選手。
約束したホテルに自分が運転する車で現れた時の第一声は「だいぶ冷えますね」。
笑顔であいさつをしてくれた気さくな若者が今、このメンフィスの街のファンを熱狂させています。
約束したホテルに自分が運転する車で現れた時の第一声は「だいぶ冷えますね」。
笑顔であいさつをしてくれた気さくな若者が今、このメンフィスの街のファンを熱狂させています。

「We want Yuki!!」(勇輝を出せ!)
チームのホームアリーナ「フェデックス・フォーラム」では試合終盤、ファンが総立ちになり河村選手の出場を求める声援が恒例になっています。
日本人の私がアリーナを歩いていると「I love Yuki!」と何度も声をかけられるほどです。
チームのホームアリーナ「フェデックス・フォーラム」では試合終盤、ファンが総立ちになり河村選手の出場を求める声援が恒例になっています。
日本人の私がアリーナを歩いていると「I love Yuki!」と何度も声をかけられるほどです。
グリズリーズファン
「彼にはエネルギーがある。チームメートとの関係も大好き」
「Great things come in small packages. “高価なものは小さな包みに入っている” そうだろ?」
「彼にはエネルギーがある。チームメートとの関係も大好き」
「Great things come in small packages. “高価なものは小さな包みに入っている” そうだろ?」
その人気ぶりについてどのように感じているのか、尋ねました。

河村選手
「当たり前のことではないと思っています。もちろんそういった声援をプレッシャーに感じることもありますけど、その期待に応えられるプレーをしたいと思っています」
「当たり前のことではないと思っています。もちろんそういった声援をプレッシャーに感じることもありますけど、その期待に応えられるプレーをしたいと思っています」
本拠地のグッズショップにはすでに河村選手の背番号「17」のユニフォームが並んでいます。

河村選手の契約は将来性のある若手にチャンスを与えることなどを目的に、NBAと下部リーグを行き来してプレーできるよう設けられた「ツーウエー契約」です。
「ツーウエー契約」の選手のユニフォームが販売されているのは、グリズリーズでは河村選手だけ。
出場を求める大歓声は、アウェーの試合でも見られることがあります。
チームを取材する地元紙の記者もこんな光景は初めてだと指摘します。
「ツーウエー契約」の選手のユニフォームが販売されているのは、グリズリーズでは河村選手だけ。
出場を求める大歓声は、アウェーの試合でも見られることがあります。
チームを取材する地元紙の記者もこんな光景は初めてだと指摘します。
グリズリーズを取材する地元紙 ダマイケル・コール記者
「ツーウエー契約の選手でこのレベルの人気は見たことがない。スーパースターであるレブロン・ジェームズ選手のように高くは跳べないし、2メートルを超える身長もない。だけど、身長1メートル73センチは一歩外に出ればふつうに見かけることができる。彼が小さいからこそ、ファンは彼が自分たちの代表だと感じている」
「ツーウエー契約の選手でこのレベルの人気は見たことがない。スーパースターであるレブロン・ジェームズ選手のように高くは跳べないし、2メートルを超える身長もない。だけど、身長1メートル73センチは一歩外に出ればふつうに見かけることができる。彼が小さいからこそ、ファンは彼が自分たちの代表だと感じている」
初の“日本バスケ”からNBAへ
体格や運動能力の違いから「日本人には不可能」とも言われていたNBA。
初めてその道を開いたのは、2004年の田臥勇太選手でした。
その後、2018年に渡邊雄太選手が続き、2019年にはドラフト1巡目で八村塁選手が指名されるなど、日本のバスケットボールは着実に世界との差を縮めてきました。
初めてその道を開いたのは、2004年の田臥勇太選手でした。
その後、2018年に渡邊雄太選手が続き、2019年にはドラフト1巡目で八村塁選手が指名されるなど、日本のバスケットボールは着実に世界との差を縮めてきました。

NBAで6シーズンプレーした渡邊選手が日本のBリーグに移籍した今シーズン、河村選手は入れ替わるようにNBAの舞台に足を踏み入れました。
これまでの3人との大きな違いはアメリカでのプレー経験がないことです。
山口県出身の河村選手は地元の中学校から福岡第一高校に進み、2年生と3年生でチームをウインターカップ2連覇に導きました。
これまでの3人との大きな違いはアメリカでのプレー経験がないことです。
山口県出身の河村選手は地元の中学校から福岡第一高校に進み、2年生と3年生でチームをウインターカップ2連覇に導きました。

その後、Bリーグの横浜ビー・コルセアーズに加入し2023年にはレギュラーシーズンのMVPと最優秀新人賞を同時に受賞するなど、日本のバスケットボール界で着実にステップアップしてきました。
その河村選手が世界的に注目されたのが、NBAのスーパースターも多く出場した、パリオリンピックでした。
その河村選手が世界的に注目されたのが、NBAのスーパースターも多く出場した、パリオリンピックでした。

平均20.3得点、7.7アシストと、ともに全体3位の記録をマークして存在感を示したのです。
NBAを目指して9月にアメリカに渡り、プレシーズンマッチに参加できる契約を結びました。
当初はすぐにNBAの舞台に立つとは見られていませんでしたし、河村選手自身も数試合で下部リーグのGリーグに行くことが予定されていたと明かしてくれました。
NBAを目指して9月にアメリカに渡り、プレシーズンマッチに参加できる契約を結びました。
当初はすぐにNBAの舞台に立つとは見られていませんでしたし、河村選手自身も数試合で下部リーグのGリーグに行くことが予定されていたと明かしてくれました。

河村選手
「プレシーズンマッチの最初は1、2試合でそのままGリーグヘ行くと伝えられていたんですけど、1試合やるたびにチームから『もう1試合帯同してほしい』と言われて、その積み重ねでここまできました」
「プレシーズンマッチの最初は1、2試合でそのままGリーグヘ行くと伝えられていたんですけど、1試合やるたびにチームから『もう1試合帯同してほしい』と言われて、その積み重ねでここまできました」
プレシーズンマッチの5試合で平均4.2アシストとチーム2位の数字をマーク。
日本で培ったボールハンドリングや広い視野を生かしたパスの能力がNBAでも認められていきました。
日本で培ったボールハンドリングや広い視野を生かしたパスの能力がNBAでも認められていきました。
“挑戦は修行”信頼勝ち取った積極性
河村選手は「この挑戦は修行」と通訳をつけずに単身海を渡りました。
仲間とのきめ細かいコミュニケーションが必要なバスケットボールにおいて、ことばの壁にも直面しています。
仲間とのきめ細かいコミュニケーションが必要なバスケットボールにおいて、ことばの壁にも直面しています。

河村選手
「今でも全く聞き取れないことや自分が言いたいことを正確に伝えられないことがほとんどです。だけど物おじする時間もないですし、とにかく自分の夢、目標に向かって恥ずかしがっている暇もないので『勇輝っておもしろいやつなんだな』とか『勇輝ってオープンな性格なんだな』と関わりを持ってもらえるように、いろんなことをやってきました」
「今でも全く聞き取れないことや自分が言いたいことを正確に伝えられないことがほとんどです。だけど物おじする時間もないですし、とにかく自分の夢、目標に向かって恥ずかしがっている暇もないので『勇輝っておもしろいやつなんだな』とか『勇輝ってオープンな性格なんだな』と関わりを持ってもらえるように、いろんなことをやってきました」
そのことばのとおり、シーズン前のトレーニングキャンプでは初日からチームメートに積極的に話しかける姿が印象的でした。
NBAの各チームで恒例になっているルーキーのダンスコンテストでも率先してダンスを披露し、ロッカールームではチームメートに日本のグミを配るなど、あらゆる手段でチームに溶け込もうとしてきました。
その積極的な姿勢が信頼関係を築き、チームのエースも河村選手を弟のようにかわいがるようになりました。
NBAの各チームで恒例になっているルーキーのダンスコンテストでも率先してダンスを披露し、ロッカールームではチームメートに日本のグミを配るなど、あらゆる手段でチームに溶け込もうとしてきました。
その積極的な姿勢が信頼関係を築き、チームのエースも河村選手を弟のようにかわいがるようになりました。

グリズリーズのエース ジャ・モラント選手
「予想する以上に河村選手は英語を話し上達している。コートに出ればベストを尽くしている。兄弟として、チームメートとして、彼が成長を続けて夢に向かって進み続けることを祈っているし後押ししたいと思っている」
「予想する以上に河村選手は英語を話し上達している。コートに出ればベストを尽くしている。兄弟として、チームメートとして、彼が成長を続けて夢に向かって進み続けることを祈っているし後押ししたいと思っている」
河村選手に英語上達の“コツ”を尋ねると、いたずらっぽい笑顔を浮かべてこう応えました。

河村選手
「話せないけど『英語を話したい気持ちはすごくあるよ』とか『あなたは僕のイングリッシュティーチャーだよ』みたいな感じで、とにかく英語を教えてくれという“ノリ”で入っていきました。チームメートが教えてくれる英語はスラングや会話表現で、もちろんとても勉強になるんですけど、正しい文法でインタビューにしっかり答えられるようになりたいんです」
「話せないけど『英語を話したい気持ちはすごくあるよ』とか『あなたは僕のイングリッシュティーチャーだよ』みたいな感じで、とにかく英語を教えてくれという“ノリ”で入っていきました。チームメートが教えてくれる英語はスラングや会話表現で、もちろんとても勉強になるんですけど、正しい文法でインタビューにしっかり答えられるようになりたいんです」
河村選手は文法の勉強にも力を入れているといいます。
その勤勉さが周囲から信頼される要因だと感じるエピソードでした。
その勤勉さが周囲から信頼される要因だと感じるエピソードでした。
“まだNBAのレベルではない”立ちはだかる高い壁

河村選手はコートに入る前、必ず深々と一礼します。
これは日本にいるときから変わらないルーティンですが、置かれている立場は大きく変わりました。
試合のスタートからコートに立つことが当たり前だったこれまでのキャリアでは考えられない、試合終盤のわずかな時間での出場や体格で自分を大きく上回る選手たちへの対応を余儀なくされているのです。
昨シーズン、Bリーグでは40%を超えていたシュート成功率が、今シーズンは26.7%(12月14日時点)。
ディフェンスでも身長差から簡単に上からシュートを決められる場面もあり、高い壁にぶつかっています。
これは日本にいるときから変わらないルーティンですが、置かれている立場は大きく変わりました。
試合のスタートからコートに立つことが当たり前だったこれまでのキャリアでは考えられない、試合終盤のわずかな時間での出場や体格で自分を大きく上回る選手たちへの対応を余儀なくされているのです。
昨シーズン、Bリーグでは40%を超えていたシュート成功率が、今シーズンは26.7%(12月14日時点)。
ディフェンスでも身長差から簡単に上からシュートを決められる場面もあり、高い壁にぶつかっています。

河村選手
「1時間以上ベンチに座っている中で急に出場して『結果を残してこい』というのはもちろん簡単ではありません。課題を挙げればきりがないですし、やっぱりプレータイムを勝ち取るためには、すべてのスキルにおいてレベルアップさせないといけないと感じています」
「1時間以上ベンチに座っている中で急に出場して『結果を残してこい』というのはもちろん簡単ではありません。課題を挙げればきりがないですし、やっぱりプレータイムを勝ち取るためには、すべてのスキルにおいてレベルアップさせないといけないと感じています」
それでも河村選手の当初の目標は、1年目はGリーグ、2年目に「ツーウエー契約」、3年目に本契約を結びチームの主力として活躍するという3年計画でした。
1年目から「ツーウエー契約」を勝ちとり、NBAの舞台に立っている現在の姿は、驚くべきスピードで階段を駆け上がっているように見えます。
それについて尋ねても、河村選手はあくまで自然体でした。
1年目から「ツーウエー契約」を勝ちとり、NBAの舞台に立っている現在の姿は、驚くべきスピードで階段を駆け上がっているように見えます。
それについて尋ねても、河村選手はあくまで自然体でした。

河村選手
「自分が一番びっくりしています。ただ、まだまだ僕の力はNBAレベルではないなと改めて感じていますし、だからこそこの挑戦をしたというのもあります。当初の計画である3年目にしっかり本契約をとれるように、すばらしい経験をさせてもらっているので、すべて吸収しながら自分の課題に目を向けて日々成長できればいいと思います。この身長でNBAで活躍することができれば、子どもたちに夢や目標を持ってもらえると思うので、そこはひとつ僕の使命だと思っています」
「自分が一番びっくりしています。ただ、まだまだ僕の力はNBAレベルではないなと改めて感じていますし、だからこそこの挑戦をしたというのもあります。当初の計画である3年目にしっかり本契約をとれるように、すばらしい経験をさせてもらっているので、すべて吸収しながら自分の課題に目を向けて日々成長できればいいと思います。この身長でNBAで活躍することができれば、子どもたちに夢や目標を持ってもらえると思うので、そこはひとつ僕の使命だと思っています」
“日本バスケ”のけん引役に

後日、インタビューのお礼を伝えようと練習を訪ねると「先日はありがとうございました」と笑顔で自分から近寄ってきて、あいさつしてくれた河村選手。
その気さくで誠実な人柄が、アメリカでも受け入れられ、多くのファンの心をつかんでいるのだと改めて感じました。
この先どのようにNBAの高い壁を乗り越えていくのか。
日本バスケからNBAへの道を切り開いた河村選手の挑戦を追い続けたいと思います。
(12月13日 「ニュースウオッチ9」で放送)
その気さくで誠実な人柄が、アメリカでも受け入れられ、多くのファンの心をつかんでいるのだと改めて感じました。
この先どのようにNBAの高い壁を乗り越えていくのか。
日本バスケからNBAへの道を切り開いた河村選手の挑戦を追い続けたいと思います。
(12月13日 「ニュースウオッチ9」で放送)

ロサンゼルス支局記者
本間祥生
2015年入局
水戸局・新潟局・スポーツニュース部を経て現所属
現在は大リーグ取材などとともに自身も打ち込んできたバスケットボールの取材に力を注ぐ
本間祥生
2015年入局
水戸局・新潟局・スポーツニュース部を経て現所属
現在は大リーグ取材などとともに自身も打ち込んできたバスケットボールの取材に力を注ぐ