韓国の国会では、14日午後4時すぎから本会議が始まり、最大野党「共に民主党」など野党6党が提出したユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案の採決が行われました。
可決されるには、国会議員の3分の2にあたる200人以上の賛成が必要で、与党「国民の力」から少なくとも8人が賛成に回れば可決されることから、与党の動向が焦点となっていました。
採決には国会議員300人全員が出席し、投票の結果、賛成が204票、反対は85票で3分の2以上が賛成したことから、議案は可決されました。
野党側の議員は192人で、与党「国民の力」から少なくとも12人が党の方針に反して賛成に回った形になります。
このほか、棄権が3票、無効が8票でした。
韓国の国会で、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の弾劾を求める議案の採決が14日午後行われ、国会議員の3分の2以上が賛成したことから、議案は可決されました。
ユン大統領の職務は停止されることになり、今後、憲法裁判所が、弾劾が妥当かどうかを判断することになります。
ユン大統領は「私は決して諦めない。私への叱責と激励を心に受け止め、最後の瞬間まで国家のために最善を尽くす」としています。
弾劾の議案が可決されたことで、ユン大統領の職務は停止されることになり、ハン・ドクス(韓悳洙)首相が大統領の職務を代行します。
そして、今後180日以内に憲法裁判所が、弾劾が妥当どうかを判断することになります。
韓国で大統領の弾劾を求める議案が可決されたのは、2016年の当時のパク・クネ(朴槿恵)大統領以来です。
ユン大統領による「非常戒厳」をめぐっては、検察や警察が捜査していて、今後の捜査の行方にも注目が集まっています。
ユン大統領「私は決して諦めない」
弾劾を求める議案が可決されたことを受けてユン大統領がコメントを発表しました。
この中で「私は今しばらく立ち止まるが、この2年半、国民とともに歩んできた未来への旅路は、決して立ち止まってはいけないだろう。私は決して諦めない。私への叱責と激励を心に受け止め、最後の瞬間まで国家のために最善を尽くす」としています。
そのうえで「公職者の皆様にお願いする。大統領の職務代行を中心に、みんなが力を合わせて国民の安全と幸福を守るため、最善を尽くしてほしい。また、政界の皆様にお願いする。暴走と対決の政治が熟議と配慮の政治に変わるよう政治文化と制度の改善に努力してほしい」としています。
そして「愛する国民の皆様、私は韓国国民の底力を信じる。韓国の自由民主主義と繁栄のために、力を合わせましょう」と結んでいます。
最大野党 代表「民主主義が再び勝利した」
ユン大統領の弾劾を求める議案が可決されたことを受けて、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表がコメントを発表しました。
この中では「きょう、韓国の民主主義が再び勝利した。寒さにも負けず1日も欠かさずに弾劾を訴えた国民がいたので、きょうの勝利が可能になった」としています。
そのうえで「私たちが国民とともに力を合わせれば、どんな困難も乗りこえることができる。私たちが進む道がまさに韓国の未来だ」としています。
ハン首相 “国政の安定的運営に全力”
ユン大統領の弾劾を求める議案が可決されたことを受けて、大統領の職務を代行するハン・ドクス首相の関係者は、弾劾の議決書が大統領に伝達されると職務代行態勢にかわるとしています。
今後は、ハン首相が、外交や国防、治安対策を担当する閣僚や、軍の合同参謀本部の議長と協議を行って安全保障や治安面での指示を行うほか、臨時の閣議やNSC=国家安全保障会議を開催すると見られます。
ハン・ドクス首相は、記者団に対し「国政の安定的な運営に全力を尽くす」と述べました。
石破首相 “引き続き緊密に意思疎通の努力を”
石破総理大臣は、弾劾を求める議案が可決される前に訪問先の福島県大熊町で記者団から日韓関係への影響などを問われ「他国の内政の話であり日本政府としてのコメントは差し控えたいが、この事態については政府しても私自身としても特段かつ重大な関心を持って注視している」と述べました。
そのうえで「韓国は国際社会のさまざな課題にパートナーとして協力すべき重要な隣国であり日韓関係の重要性は何ら変わるものではない。推移はまったく見通せないが、引き続き緊密に意思疎通をしていかなければならず、そのためのあらゆる努力をしたい」と述べました。
外務省 韓国担当部署の幹部ら採決の行方見守る
外務省では、韓国を担当する部署の幹部や職員が出勤して情報収集を行うとともに採決の行方を見守っていました。
外務省幹部はNHKの取材に対し「現地からの報告や報道から、ある程度予想されていた結果だ。今後の韓国政府の様子や弾劾の手続きの行方を見守りたい。今後の展開もさまざまなパターンが想定されるので、予断を持たずに情報収集を行っていく」と述べました。
そのうえで「外交当局間の意思疎通はさまざまなレベルで行ってきているが、今後も継続し、地域の安全保障に影響が出ないようにしたい。来年の国交正常化60年に向けて、事務的に準備を進めるつもりだが、韓国側の混乱が続く可能性もあり、先行きは不透明だ」と述べました。
政府関係者 “改善の日韓関係 悪影響が危惧”
政府関係者はNHKの取材に対し「改善してきた日韓関係への悪影響が危惧される。今後、日本に厳しい立場を取る野党の代表が大統領となる可能性が十分にあり、そうなれば慰安婦問題などの懸案に関してゴールポストを動かすようなことをされてしまうかもしれない。両国関係が根本的に悪化すればビジネス面にも影響が出かねない。日本政府としては事態を注視しながら対応していく」と述べました。
また、別の政府関係者はNHKの取材に対し「もう一段、緊迫の度合いが高まったと受け止めている。日韓関係が改善されてきていただけに、どのような影響があるかも含め状況を見守るほかはない」と述べました。
国会議事堂前 可決発表で大きな拍手と歓声
ソウルの国会議事堂の前では大勢の市民が集まり、路上に設置された大型モニターを通じて、国会で行われたユン大統領の弾劾を求める議案の採決の行方を見守りました。
そして、可決が発表されると、集まった人たちからは大きな拍手と歓声が上がり、抱き合って喜ぶ人たちの姿も見られました。
40代男性
「これまで2年半、長くつらい時間でしたが、心の中にずっと引っかかっていた重いものが取れたような気分で、私だけでなく多くの国民が同じようにすっきりしたと感じていると思う」
20代の女性
「可決されて本当にうれしいです。前回、ほとんどの与党議員が投票しなかった時には、仕事をしない議員への不満が大きかったです。今後、ユン大統領やそれに同調した人たちが1日も早く逮捕され、処罰を受けてほしいです」
2回目の弾劾求める議案の内容は
ユン大統領の弾劾を求める2回目の議案では、ユン大統領による「非常戒厳」が憲法に違反し、内乱罪にあたるとしています。
具体的には「憲法機関である中央選挙管理委員会に違法に侵入しただけでなく、国会議員、政治家、言論人などの不法逮捕を試みた」と指摘しています。
さらに「国憲を乱す目的でその要件と手続きに違反して非常戒厳を宣布し、武装した軍と警察を動員して国会に侵入するなど、国会と国民を脅迫し暴行する一連の暴動を起こすことで大韓民国全域の平穏を害する内乱罪を犯した」としています。
そして「非常戒厳が宣言される前まで国家非常事態と見られるいかなる異常兆候も見られず、必ず『兵力をもって』これに応じなければならなかったいかなる状況もなかった。非常戒厳宣言は憲法と法律が定めた実体的要件を備えていない」としています。
一方で、ユン大統領が「日本中心の奇異な外交政策に固執した」などとする記述は、2回目の議案には入りませんでした。
韓国メディアは、国会審議で行われた関係者の証言やユン大統領の国民向けの談話などをもとに「1回目の議案よりも違憲・違法行為をさらに具体的に盛り込み、弾劾の法的な理論を補強している」と伝えています。
韓国大手メディアの報道は
韓国の複数の大手メディアは14日の朝刊で、与党「国民の力」で、弾劾の議案に賛成する議員が可決に必要な8人を上回る可能性があるという見方を伝えています。
このうち保守系の「中央日報」は「追加で賛成の意思を明らかにした議員はいないが、弾劾案の可決を防ぐラインはすでに崩れたというのが大方の見方だ」と伝えています。
また、保守系の「東亜日報」は「2回目の採決で与党から投票に参加する議員は20人を超える可能性がある。議案の可決は避けられないという観測が出ている」と伝えています。
革新系の「ハンギョレ新聞」は、独自に取材した結果として弾劾の議案に賛成する与党議員の数を具体的に示し「可決に必要な8人を超えた」としています。
一方で保守系の「朝鮮日報」は「弾劾の議案が可決される可能性があるという分析がある一方で、ユン大統領派の議員が『まだ弾劾の議案を通過させるときではない』と総力をあげてほかの議員の説得に入り、可決されるかどうか早急に判断できない」とも伝えています。
大統領の弾劾 過去には
韓国の国会では、大統領の弾劾を求める議案が可決されたことがあります。
2004年には、当時のノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領が、大統領選挙をめぐる側近らによる不正資金事件の責任などを理由に、弾劾の議案を可決され、職務を停止されました。
しかし、憲法裁判所は、「罷免する重大な職務上の違反には当たらない」として、棄却し、ノ大統領は職務停止からおよそ2か月で大統領職に復帰しました。
2016年には、当時のパク・クネ大統領が、知人による大統領府高官の人事への介入などを理由に、弾劾の議案を可決され、職務を停止されました。
2017年、憲法裁判所は弾劾を妥当とする決定を言い渡し、パク大統領は韓国の大統領として初めて、罷免されました。
弾劾めぐる手続きは
韓国では、大統領の弾劾を求める議案が国会で可決されると、大統領は職務を停止されます。
その場合は首相が大統領の職務を代行します。
韓国メディアによりますと、弾劾の議案が可決されたあと、その議決書が大統領府に届けられると、大統領の職務が停止されるということです。
有力紙「東亜日報」は2016年に当時のパク・クネ大統領の弾劾議案が可決された際には、可決からおよそ3時間後に議決書が大統領府に届けられ、職務が停止されたと伝えています。
大統領の弾劾を求める議案が国会で可決されると、憲法裁判所が弾劾が妥当かどうかを審理して、180日以内に最終的な決定を言い渡します。
韓国メディアによりますと、2004年に国会で弾劾の議案が可決された当時のノ・ムヒョン大統領の場合、可決から憲法裁判所が弾劾は妥当ではないとして棄却するまでに63日かかりました。
また、2016年に弾劾議案が可決された当時のパク・クネ大統領の場合、可決から憲法裁判所が弾劾は妥当と決定するまでに91日かかったということです。
憲法裁判所では、裁判官9人のうち6人以上が妥当と判断すれば、大統領は罷免され、60日以内に大統領選挙が行われることになります。
一方で、憲法裁判所は裁判官3人が退任したあと、空席のままで現在6人しかいませんが、韓国メディアは6人のままでも全員が妥当と判断すれば、弾劾が決定されると伝えています。