無罪判決を受けたのは、元妻の須藤早貴さん(28)です。
2018年5月、和歌山県田辺市の会社社長、野崎幸助さん(当時77)が自宅で急性覚醒剤中毒で死亡したことをめぐり、覚醒剤を摂取させて殺害したとして、殺人などの罪に問われました。
裁判では、野崎さんが殺害されたのかどうかと、殺害された場合、被告が犯人といえるかが争点となり、検察が無期懲役を求刑したのに対し、被告は「覚醒剤を摂取させていません」などと一貫して無罪を主張していました。
“紀州のドン・ファン”殺害事件 元妻に無罪 判決理由は
和歌山県の資産家で“紀州のドン・ファン”と呼ばれた会社社長に覚醒剤を摂取させて殺害したとして、28歳の元妻が殺人などの罪に問われた裁判で、和歌山地方裁判所は「元妻が殺害したとするには合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡しました。
12日の判決で和歌山地方裁判所の福島恵子裁判長は、検察が有罪の根拠として「事件当日に覚醒剤を摂取させることができたのは被告だけだ」と主張したことについて「野崎さんが覚醒剤を摂取したとみられる時刻には幅があることなどから、ただちに被告が覚醒剤を摂取させたとまでは推認できない」と指摘しました。
また、被告がインターネットで『覚醒剤』や『完全犯罪』などと検索していたことについては「それ自体が殺害を計画していたことを推認させる行動とはいえない」と述べました。
そのうえで「第三者による他殺の可能性や自殺の可能性はないといえるが、野崎さんが覚醒剤を誤って過剰摂取した可能性はないとは言い切れない。被告が殺害したとするには合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡しました。
須藤早貴さん 涙をぬぐうような姿も
須藤早貴さんは、上下黒のパンツスーツにマスク姿で法廷に入り、午後1時40分に裁判が始まると裁判長に促されて証言台の前に座りました。
そして、裁判長が無罪の主文を言い渡した際、まっすぐ前を見つめ落ちついた様子で聞いていました。その後、弁護士からハンカチを渡され涙をぬぐうような姿も見られました。
裁判員 “判決を出す上で悩みはなかった”
判決のあと、裁判員を務めた20代の男性が会見に応じました。
今回の裁判はことし9月12日の初公判から先月18日まで22回の審理が行われ、あわせて28人の証人尋問が行われました。
これについて男性は「期間が長く、証人や証拠も多かったのでそれらを吟味して判決を出すのは苦労した」と述べました。
そのうえで「被告は真摯(しんし)に裁判を受けている印象があった。直接的な証拠がないこともあって、有罪の目で見ると有罪に、無罪の目で見ると無罪に見えてくるので、証拠だけを見て自分の感情を切り離して考えた。しっかり話し合って出した答えなので、判決を出す上で悩みはなかった」と話していました。
和歌山地検 “主張が受け入れられず残念”
無罪判決について、和歌山地方検察庁の花輪一義次席検事は「検察官の主張が受け入れられなかったことは残念だ。今後については判決文の内容を精査し、上級庁とも協議のうえ、適切に対応したい」とコメントしています。
識者 “状況証拠を寄せ集めたが有力なものなし”
判決について元裁判官の半田靖史弁護士は「目撃者など直接的な証拠がない中で検察官は状況証拠を寄せ集めたが、取り立てて有力なものがなかった。それなりに犯人であることを示す事情があると指摘しているが、結局は、有罪を示すものとして、最終的なハードルは超えていなかった」と話しています。
傍聴券 倍率は約6.3倍
和歌山地方裁判所では、午前中に傍聴券の抽せんが行われ、傍聴を希望する人が長い列をつくりました。
裁判所によりますと、48席の傍聴席に対して傍聴を希望した人は301人で、倍率はおよそ6.3倍でした。
傍聴希望の人たちは
傍聴希望者の列に並んだ和歌山市の50代の男性は「被告の発言と検察側の主張、どちらが認められるのか、裁判所の判断を慎重に見ていきたい」と話していました。
また、和歌山県湯浅町から来た30代の女性は「状況証拠だけだと報道されているので、それで有罪と判断できるのか関心があります。裁判官や裁判員には先入観のない判断をしてほしいと思います」と話していました。