【デスク解説】シリア アサド政権“事実上崩壊”なぜ?今後は?

事実上崩壊したとされるシリアのアサド政権。
その背景や今後の情勢について、国際部のデスクが解説します。
(国際部 澤畑剛デスク)

Q シリアのアサド政権が崩壊したとみられている。まずこれまでに分かっていることを整理してください。

まず、日本時間の午後2時ごろ反政府勢力が占拠した国営テレビからビデオ声明を出し、アサド政権の打倒に成功したと改めて主張した。
一方、政権側はアサド大統領自身がどこにいるのか伝えていないが、アメリカのニュースサイトアクシオスはイスラエル高官の話としてアサド大統領がシリア国内のロシア軍の基地に移動し、ロシアに移動する可能性があると伝えている。
ジャラリ首相はビデオ声明を出し、政権の移譲に協力する考えを示したが、総合的に考えて、アサド政権は事実上、崩壊したとみられる。
シリアでは、アサド親子による独裁政権が50年以上続いた末、崩壊したことになる。

Q なぜ今、反政府勢力がこれほど急速に攻勢を強めているのか。

詳しい背景はまだ分かっていない。
アサド政権はこれまで後ろ盾としてきたロシア、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラから十分な軍事支援が得られない、その隙を突かれたのは確か。
シリアのこの10年余りの動き。
2011年に民主化運動「アラブの春」が波及し、民主化デモが起きたが、武力弾圧され、それをきっかけに内戦に発展した。
2014年、混乱に乗じて過激派組織IS=イスラミックステートがシリアとイラクにまたがるイスラム国家の樹立を一方的に宣言し、内戦は泥沼化した。2020年、アサド政権の後ろ盾のロシアと反政府勢力を支援するトルコが停戦合意を交わして以降、戦闘はこう着状態になっていた。
ところが、11月27日以降、それまで北部のせまい地域を支配していた反政府勢力が一気に攻勢を強めて、南下し、主要都市を次々に制圧し、わずか10日あまりで首都への進攻していた。
以前であれば、こうしたアサド政権の窮地では、後ろ盾のロシアが、激しい空爆で支援に乗り出すところだが、今のロシアにはウクライナへの軍事侵攻の対応を迫られ、支援は限られていたと見られている。
アサド政権のもう一つの後ろ盾だったのがレバノンのシーア派組織ヒズボラ。陸上の戦闘を担う主力部隊として、イランから派遣された他の民兵を率いて、アサド政権を支え続けてきた。
ヒズボラの民兵から直接話を聞いたことがあるが、シリア内戦では空からはロシアが空爆し、自分たちはイランの軍事顧問の指示のもと、陸上の戦いを行い、アサド政権を支えていたと自慢そうに語っていた。
ところが今回はヒズボラ自身が、最近のイスラエル軍との激しい戦闘で大きく弱体化し、もはや兵力をシリアに送る余裕は無かったと見られている。

Q アサド政権が崩壊し、今後のシリア情勢はどうなるか。

権限の移譲などの話もあるが、まだ全く見通せない状況にある。だが、今後に向けての懸念材料はすでに見えてきている。最大の懸念は、アサド政権を追い詰めた反政府勢力の攻勢を主導しているのが「シリア解放機構」という、イスラム過激派であること。この「解放機構」は、国際テロ組織アルカイダ系の組織が母体となっている。イスラム過激派が大きな発言力を持つ新たな国造りで国際社会が向き合い方に苦労するのは必至で、前途多難は避けられない情勢。
ただシリアでは、2011年以降の内戦で、30万人以上の民間人が死亡、国内外で避難生活を強いられている人は、あわせて1400万人にのぼる。アサド政権が崩壊した節目で「今世紀最大の人道危機」から抜け出すためにも国際社会の支援を必要としている。
中東では、2011年に始まったアラブの春以降、イランがアラブ諸国の混乱に乗じてイスラエルを包囲するように周辺国に勢力を広げ、シリアもイランの強い影響下にあった。ところが、1年前のガザ地区の戦闘をきっかけに中東各地に紛争が飛び火する中、レバノンのヒズボラに続いて、アサド政権と、親イランの勢力が相次いで後退を迫られている。ガザの戦闘をきっかけに中東の勢力図は塗り変わりつつある。