フリーランスのカメラマンとして働く40代の男性は都内の映像関連会社と4年前に業務委託の契約を結びました。
男性は会社から時間や場所、業務の内容など細かく指示を受けることから、自分の働き方が「偽装フリーランス」にあたるのではないかと考え、労働組合や労働基準監督署に相談してきました。
こうしたなか、おととし、仕事で撮影スタジオに車で向かう途中トラックに追突されて足の指を骨折するなどのけがをしたため、労働基準監督署に労災を申請しました。
「偽装フリーランス」問題 本当に業務委託?その実態と対策は
企業に雇用された労働者とほとんど変わらない働き方をしていながら、労働基準法などで守られない「偽装フリーランス」の問題。
11月にはフリーランスを保護する新たな法律が施行されましたが、新法でもこれを防ぐことが難しいとして、労働団体の連合が都内で集会を開きました。
その実態とは。
何が問題に?カメラマン 40代男性の場合
労働基準監督署は、男性が
▽1か月平均で20日間にわたってこの会社の仕事に従事し、業務の時間や場所も管理されていたことや、
▽報酬は固定給で一定時間の仕事をした対価の性格を有していることなどから、
男性の主張を認めて交通事故も労災として認めました。
男性が会社に提出していたおととし2月の業務日報には、連日、午前10時から長いときには午後7時半までデパートのカタログの撮影などの業務をしていたことが記載されています。
会社側「お金ないから」
男性は、自分自身の働き方について「仕事の始まりが午前10時と決まっていて拘束性があり、遅刻することはできない。撮影のない日も、何時から何時まで何をした、昼休憩を何時に取ったということを記録することが毎日のような業務としてあった。自分はとても弱い立場で、会社から『業務委託契約をやめる』と言われることに対して怖さがある」と話していました。
労働基準監督署は男性の働き方を調査するなかで、会社側が男性に対して「うちは労災に入りたくても入れない、入ったら終わりだから。会社として。お金ないから。だから個人事業主の雇用じゃない形にしている」と発言していたことを認定しています。
この発言について、男性は「雇用に近いような働き方なのに、会社が労災保険に入っていない状態を『お金がない』ということで片付けるようなものではない。発言に対して違和感や憤りを感じた」と話します。
男性は今も会社とは業務委託契約のままで雇用契約が結ばれないということで、「雇用された労働者と同じような働き方をしていて、毎日苦しい状況で、状況を変えようと思っても会社が変えてくれない。会社に怒りがずっとあり疲弊しきっている部分がある」と話していました。
一方、会社は男性との雇用関係を認めず東京労働局に不服を申し立てていて、NHKの取材に対して「回答を差し控える」としています。
フリーランス 462万人 新たな働き方として広がるも…
2020年の国の調査でフリーランスで働く人は国内に462万人いると推計されています。
企業に雇用される労働者と異なり、働く場所や時間などを自由に決められることから新たな働き方として広がっています。
フリーランスには労働基準法が適用されないため長時間労働や解雇などの規制がなく、残業代も支払われず、最低賃金の保障がありません。
また、原則として業務によるけがや病気への労災補償が受けられません。
フリーランスの人が労災補償を受けるには、みずから保険料を支払い労災保険に特別加入しなければなりません。
労働者?フリーランス?労基署の判断のポイントは
11月に施行されたフリーランスで働く人を保護する新しい法律の付帯決議では「労働者に当たる者に対し、労働関係法令が適切に適用されるような方策を検討するとともに、偽装フリーランスに適切に対応できるよう十分な体制整備を図る」とされています。
厚生労働省は対策の一環として、11月1日から自分の働き方がフリーランスなのかそれとも労働者なのか、全国の労働基準監督署で相談を受け付けています。
労働基準監督署では、働く人が
▽仕事を断る自由があるか、
▽仕事の進め方について企業から指揮監督を受けていないか、
▽仕事をする場所や時間を自分で決めることができるか
といった点を見て総合的に判断しているということです。
厚生労働省によりますと、昨年度、全国の労働基準監督署がいわゆる「偽装フリーランス」と認定したのは153件で、今後も違反が疑われる企業が見つかれば指導することにしています。
“新法でも問題防ぐこと難しい” 連合が集会
こうした中、企業に雇用された労働者とほとんど変わらない働き方をしていながら労働基準法などで守られない「偽装フリーランス」の問題をなくしていこうと労働団体の連合が30日、都内で集会を開きました。
連合が東京 千代田区で開いた集会には当事者など200人余りが参加しました。
集会では運送会社から業務委託を受けて働く配達員が、「扱う荷物の量が増え続け、午前7時から夜11時まで帰れないこともある。配達員のなかには体を壊したり、車の事故を起こしたりする人がいる」と述べて、会社には適切な対応をしてほしいと訴えました。
フリーランスを保護する新たな法律でもこの「偽装フリーランス」の問題を防ぐことが難しいとして、この集会が開かれました。
連合の河野広宣総合組織局長は「シフト表やアプリで管理され、毎日決められた時間に事業所に行かなければならず『本当に業務委託なのか』という声はたくさんある。実態が労働者に近いようであれば労働関係法令が適用されるよう、取り組みを進めていかなければならない」と話していました。
専門家 “事後的な救済に頼る状況 大きな問題の一つ”
労働法が専門でフリーランスの問題に詳しい早稲田大学法学部の水町勇一郎教授は「偽装フリーランスの人たちは、本来は労働基準法など労働関係に関する法律に加えて厚生年金などの社会保険の保護も受けられる立場にあるにもかかわらず、そうした法律の適用がない状況に置かれている。現在は、業務中にけがをするなど問題が起こったあとに、訴えを起こして主張が認められれば初めて救われるという事後的な救済に頼っていて、本来は保護されるべき人たちが訴え出なければならない状況は大きな問題の一つだ」と指摘しています。
そのうえで国内では偽装フリーランスとならないための環境整備が諸外国に比べて遅れているとして「ヨーロッパなど諸外国ではスマートフォンのアプリで指示されて配達をする人など一定の人たちについて、『労働者である』と推定して保護をし、フリーランスであるというならばそれを事業者側に立証をさせるという、『労働者推定方式』をとるところもある。日本でもできるだけ労働者にあたるかどうかを事前に判断しやすくなる政策やツールを考えていくことが大切だ」と話していました。