ウクライナ空軍は21日、ロシア軍がウクライナ東部の都市ドニプロにある重要施設に対しさまざまなミサイルで攻撃を仕掛けたとしたうえで「ICBM1発がロシア南部アストラハン州から発射された」と発表しました。
地元の州知事は一連の攻撃で産業施設や住宅が被害を受け、火災が発生するなどして、2人がけがをしたとSNSで明らかにしました。
アメリカの複数のメディアは欧米の政府当局者の話として、「発射されたのは弾道ミサイルだが、ICBMではなかった」と報じました。
ロイター通信はアメリカ政府当局者の話として「ICBMではなく、中距離弾道ミサイルだ」と伝えていて、情報が錯そうしています。
また、ロシア側は、ウクライナ軍が19日以降、アメリカ製のATACMSなど欧米から供与された射程の長いミサイルでロシア領内を相次いで攻撃し、緊張を高めているとして反発を強めていますが、ウクライナ側はミサイルの使用の確認を避けています。
戦争の早期終結に自信を示すアメリカのトランプ次期大統領が就任する前に、ロシアとウクライナのいずれもみずからにできるだけ有利な状況を作りたいとの思惑があるとみられ、軍事、情報戦の両面で攻防が激しくなっています。
ウ軍「ロシアがICBM発射」 ロは「中距離弾道ミサイル」と発表
ウクライナ軍は21日、「ロシア軍がウクライナ東部への攻撃の中でICBM=大陸間弾道ミサイル1発を発射した」と発表しました。
一方、ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部への攻撃で新型の中距離弾道ミサイルを使用したと明らかにし、ICBM=大陸間弾道ミサイルを発射したというウクライナ側の発表を、事実上、否定しました。
ゼレンスキー大統領「あらゆる特徴がICBMだったこと示す」
ウクライナ空軍がロシアがICBM=大陸間弾道ミサイルを発射したと発表したことについて、ゼレンスキー大統領は日本時間の21日午後9時前、SNSに公開した動画の中で「ロシアの新型ミサイルだ。速度や高度などあらゆる特徴がICBMだったことを示している」と述べました。
そのうえで「専門家が検証中だ」としています。
プーチン大統領「中距離弾道ミサイルを使用」
ロシアのプーチン大統領は21日演説し、ウクライナ東部への攻撃で「オレシュニク」と名付けた新たに開発した極超音速の中距離弾道ミサイルを使用したと明らかにし、ICBMを発射したというウクライナ側の発表を、事実上否定しました。
その上で、ウクライナが欧米から供与された射程の長いミサイルで、ロシア領内に攻撃を行ったことへの報復だとしていて、「実験は成功し、目標は達成した」と述べ、実験も兼ねた攻撃だったと主張しました。
また、「ウクライナの地域紛争が世界的な性格を帯びることになった」と述べた上で、「われわれの施設に対する兵器の使用を許可している国の軍事施設に対して、われわれは兵器を使用する権利がある」と述べ、ウクライナへの軍事支援を続ける欧米に警告しました。
ロシアの軍事侵攻をめぐり早期終結に自信を示すアメリカのトランプ次期大統領が就任する前に、ロシアとウクライナのいずれもみずからにできるだけ有利な状況を作りたいとの思惑があるとみられ、軍事、情報戦の両面で攻防が激しくなっています。
米国防総省「実験的な中距離弾道ミサイル」
アメリカ国防総省のシン副報道官は、21日の記者会見で、「ロシアが発射したのは実験的な中距離弾道ミサイルだ」と指摘したうえで、ICBM=大陸間弾道ミサイルをもとにつくられたとしています。
シン副報道官は「戦場に投入された殺傷能力の高い新たなタイプの兵器であり、懸念している。このミサイルが戦場で使われたのを確認したのは初めてだ」と指摘しました。
また、このミサイルの発射に先だって、ロシアからアメリカに対して通告があったということです。
ロシアのICBMとは
ロシアは世界で最も多くの核弾頭を保有する、アメリカとならぶ核大国で、ICBM=大陸間弾道ミサイルの開発を推し進めてきました。
イギリスのシンクタンク、IISS=国際戦略研究所が世界各国の軍事力などを分析した年次報告書「ミリタリー・バランス」などによりますと、複数の核弾頭を搭載できるICBM「ヤルス」が多く配備されているほか、極超音速弾頭を含む幅広い種類の弾頭を搭載できる新型の大型ICBM、「サルマト」が実戦配備されています。
ロシアは、去年2月、アメリカとの核軍縮条約「新START」の履行停止を表明したあと、4月にカスピ海に近い南部アストラハン州の演習場で戦略ミサイル軍の部隊が、ICBMの発射実験を行い、成功したと発表しました。
ロシア大統領府「新たなエスカレーション起きている」
ウクライナ空軍がロシア軍がウクライナ東部の都市に対してICBM1発を発射したと発表したことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は記者団の取材に対し、「国防省に質問していただきたい。このことで、私が話すことは何もない」と述べました。
その上で「ロシアは、核ドクトリンの中で、核による紛争を防ぐために最大限努力するという点で、責任ある立場にある」と述べました。
そして「新たなエスカレーションが起きている。これは、退いていくアメリカの政権がとっている非常に無責任な姿勢だ」とバイデン政権の対応を批判しました。
林官房長官 “緊張感持って戦況を注視”
林官房長官は、閣議のあとの記者会見で「戦況における事象の一つ一つについて詳細を述べることは控えるが、ロシア側による一連の攻撃を改めて強く非難するとともに引き続き緊張感を持って戦況を注視したい。ロシアの侵略を止めてウクライナに一日も早く公正かつ永続的な平和を実現すべく国際社会と緊密に連携していく」と述べました。
日本 外務省幹部「事実であれば認められるものではない」
外務省幹部は、記者団に対し「事実であれば侵略を続ける側による明らかな事態のエスカレーションで、認められるものではない。さらなる悪化を防ぐために最善の策をとるのが、日本の一貫した立場で、来週イタリアで開かれるG7の外相会合でも対応を協議することになるだろう」と述べました。
ここ数日 事態はエスカレート
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1000日余りとなるなか、ここ数日、事態はエスカレートしていました。
アメリカの複数のメディアは17日、アメリカ政府当局者の話としてバイデン大統領がウクライナに対しすでに供与した射程の長いミサイルATACMSをロシア領内への攻撃に使用することを許可したと伝えました。
背景には、ロシア側が北朝鮮からの兵士の派遣を受けるなどこのところ攻勢を強める中、バイデン政権がウクライナへの軍事支援の成果が大きく損なわれかねないという危機感があったとみられます。
その後、ロシア国防省は19日、ウクライナ軍がATACMSを使ってウクライナと国境を接するロシア西部のブリャンスク州を攻撃したと発表しました。
これに関連し、ゼレンスキー大統領は首都キーウでのデンマークの首相との記者会見で「詳細は言えないが、われわれはATACMSなど保有している射程の長い兵器はすべて使う」と述べていました。
一方、アメリカがウクライナに対しロシア領内への攻撃に射程の長いミサイルの使用を許可したと報じられたことについてアメリカのCNNテレビは「ロシア当局は数か月に渡るタブーを撤廃されたことに激怒した」と伝えています。
同じ日、ロシアのプーチン大統領は核兵器の使用基準について従来よりも引き下げることを承認しました。
さらに欧米のメディアは20日、ウクライナ軍がイギリスから供与された射程の長いミサイル「ストームシャドー」を使って初めてロシア領を攻撃したと伝え、アメリカ製のミサイルに続く2日連続の攻撃となり、これに対し、ロシア側は欧米への対決姿勢をいっそう強めていました。
ロシア国防省「イギリス供与の巡航ミサイルを迎撃」
ロシア国防省は21日、過去24時間で、巡航ミサイル「ストームシャドー」2発を迎撃したと発表しました。
「ストームシャドー」は、イギリスがウクライナ軍に供与した射程が250キロ以上ある巡航ミサイルで、欧米のメディアがウクライナ軍が20日、このミサイルを使って初めてロシア領を攻撃したと伝えていました。