食費をどうする 物価上昇の中で エンゲル係数30%超の月も

家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は、高い水準まで上昇していて、このところは、食料品の値上がりが家計を圧迫していることがうかがえます。

影響はさまざまな場所に…
子ども食堂では利用者の予約回数を制限せざるをえないケースも出ているということです。

対応を迫られている現場を取材しました。

総務省の家計調査によりますと「3人家族」の食費は、ことし8月には平均で9万3130円となり、去年の同じ月を4.9%上回りました。

クリスマスなどのイベントが多い12月を除くと、1か月の食費が9万円を超えるのは、統計の比較が可能な2000年以降で初めてとなりました。

家計の消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は30.4%となり、2000年以降では12月を含めても最も高くなりました。

また、ことし1月から9月までの平均のおよそ28%は、年間ベースで残る「2人以上家族」の統計との比較では、1982年以来42年ぶりの高い水準となります。

エンゲル係数の月ごとの推移をみますと、2000年以降で最も低かったのは2005年3月の19.7%で、それ以降はおおむね20%台前半から半ばで推移しましたが、ことし5月以降は20%台後半の高い水準となっています。

一般的には、エンゲル係数が低いほど生活水準が高いとされていますが、このところは、食料品の値上がりが家計を圧迫していることがうかがえます。

消費者物価指数 食品などの値上がり背景に上昇

全国の先行指標となる東京23区の10月の消費者物価指数は、天候による変動が大きい生鮮食品を除いた総合の速報値で2020年を100として107.9となり、去年の同じ月より1.8%上昇しました。

食品などの値上がりが続いていて「生鮮食品を除く食料」が去年の同じ月より3.8%上昇するなど、全体を押し上げています。

消費者の節約志向が続く中で

物価の上昇を背景に、賞味期限が近づいた食品などを割安に販売している都内のスーパーでは来店客の増加傾向が続いています。

都内や埼玉県で7店舗のスーパーを展開する会社では、賞味期限が近づいていたり、商品の箱に傷がついたりしたという理由で販売できなくなった食品や飲料をメーカーなどから仕入れています。

これらの商品は通常売られている価格よりも割安で販売されているということで、都内の店舗では訪れた買い物客がじっくりと商品を選んでいました。

会社によりますと、物価の上昇を背景に消費者の節約志向が続く中、来店客も増加傾向だということで、先月末までの1年間の売り上げは、去年10月末までの1年間に比べ、10%余り増えたということです。

初めて店を訪れたという40代の女性は「すごく安いので買い込んでしまった。食費が気になるし、外食をするにも高いのでできるだけ節約したいと思っています」と話していました。

また、10日に1度の頻度で来店しているという60代の男性は、「生活にかかる費用の中で食費が占める割合は高いので、こうした商品の販売はありがたいです。年々物価が上がっているがその割に給料があまり上がらず大変です」と話していました。

スーパーを運営する合同会社「ファンタイム」の松井順子代表は「食品の購入は避けて通れないので、少しでも節約したいというお客様は増えていると思います。時間をかけて商品を選ぶ方も多く、いろいろと試行錯誤されているのだと感じます」と話していました。

食材費が去年の1.5倍近くに 負担増で対応迫られる子ども食堂

物価の上昇を背景に、都内の子ども食堂では食材費の負担の増加などへの対応を迫られています。

東京 板橋区の子ども食堂では火曜日から日曜日までの6日間、1日50食限定で夕食を提供しています。

利用は予約制で、子どもは無料、大人は300円で、その場で食べたり弁当を受け取ったりすることができ、1人親家庭の子どもや高齢者などさまざまな人が利用しています。

こうした中、この子ども食堂では、食材費の上昇に直面していて、ことし9月までの半年間の費用は去年の同じ時期に比べて1.5倍近くに増えたということです。

このため、食材を購入する際には地元の人から安い店の情報を聞いたり、複数のスーパーを回ったりして、少しでも費用を抑えるようにしています。

また食材を選ぶ際には鶏肉の場合、もも肉ではなく比較的安いむね肉を選ぶようにしたり、できるだけ買い足しを控え、冷蔵庫にあるものでメニューを決めるようにしたりしているということです。

一方で、物価の上昇などを背景に新規の利用者が増加していることから、すべての予約を受けきれず、毎日利用していた人の予約回数を制限せざるをえないケースも出ているということです。

食堂を運営する「NPO法人キッズぷらっとフォーム」の武井重雄理事長は「物価高を背景に新たな利用者が増えていて皆さんが大変な状況にあることを実感している。現在は寄付や助成金の活用でなんとかやりくり出来ている状況なので、みんなで知恵を絞り、弁当の値上げをせずに提供を続けていきたい」と話していました。

大学生も 食費削る実態浮き彫りに

物価が高騰する中、大学生の中で、食費を削っている実態が大学生協で作る連合会の調査でも浮き彫りとなっています。

この調査は、全国大学生活協同組合連合会が毎年秋に行っていて、全国30の大学の学生、9800人余りから回答を得ました。

それによりますと、1人暮らしをしている大学生の1か月の食費の平均は2019年は2万6390円でしたが、去年は2万5880円と、510円減少しています。

また、1回の食事代の平均額も前の年と比べて朝、昼、夜の3食ともに減少し、節約や工夫をしたい費目として6割の学生が「外食費を含む食費」と回答しました。

連合会の大築匡 広報調査部長は「生活が苦しくなっても携帯代などの通信費を削りにくいため、真っ先に食費を削る傾向が続いている。ことしは物価高の影響が去年以上に色濃く出るのではないかと予測している」と指摘したうえで、「奨学金の返済などもあり、アルバイト代をなるべく貯金に回す一方で、自炊をして食費を減らすなどしている。学生の中では将来への不安が大きい」と指摘しています。

100円朝食で学生支援する大学も

都内の大学では、食材価格の高騰を受ける1人暮らしの学生を支える取り組みが行われています。

埼玉県や都内を中心に3つのキャンパスがある文教大学では、このうち3つのキャンパスにある食堂で平日の毎日、学生たちに朝食を提供しています。

足立区にあるキャンパスでは、およそ20人の学生が利用していて、午前8時に食堂が開くと学生が次々に訪れていました。

この日の朝食のメニューは、デミグラスソースがかかったハンバーグやチキンに、ひじきの煮物がついたボリュームたっぷりの定食で、学生の栄養面もしっかり考えられています。

朝食は1食わずか100円と破格の値段で、学生たちが飽きないよう、和食と洋食を日替わりで提供していて、授業がない日でも1人暮らしの学生を中心に、朝食を食べに来る学生も多くいるといいます。

この取り組みは2014年から始まり当初は、朝食を抜く学生の健康維持が目的でしたが、食材価格が高騰する中、最近は節約のために利用する学生が増えていて、経済的な支援の意味合いも強くなっているということです。

毎月の食費を1万円以内に抑えているという2年生の女子学生は「1人暮らしで生活が厳しいです。この100円の朝食でいっぱい食べて、昼食は抜く生活をしています。毎日利用していますが、いろいろなメニューがあっておいしいです」と話していました。

授業がある日は必ず利用しているという1年生の男子学生は「コンビニのおにぎりでも1個100円以上するなか、この値段でボリュームのある栄養バランスが整った朝食が食べられるのはとてもありがたいです」と話していました。

食堂で昼食のために大量に仕入れている食材をうまく活用することで費用を抑えているほか、大学や保護者会からの補助でなんとかやりくりして、1食100円の朝食の提供を実現しているということです。文教大学経営企画室の宮下光太郎課長は「多くの食材が高騰する中で、学生の健康な体作りには朝食は欠かせないので、できるかぎり続けていきたい」と話していました。

※大学のキャンパス数など一部の表現を修正しました。(11月18日)

ギリギリの節約生活を送る学生も

大学の食堂が提供する100円の朝食を利用する学生の中には、1人暮らしをしながら目標の海外留学の資金をためるため、ギリギリの節約をした生活を送る人もいます。

1年生の安藤康太さん(19)はこの春、静岡県から上京し、大学近くのアパートで1人暮らしをしています。国際系の学部に通う安藤さん。

来年、春にネパール、夏にニューヨークへの留学を計画しています。

この留学費用をためるため、日中は大学に通いながら、早朝や夜、飲食店と塾講師のバイトを掛け持ちしています。

食事は自炊が中心で買い物では、うどんなど、安くておなかにたまりやすいものや同じような商品でもできるだけ安いものを選ぶなど節約を徹底しています。

この日の夕食も前日作ったマーボー豆腐の残りに、豆腐だけを足して、おなかを満たしていました。食費は1日3食分であわせて500円以内、単純計算で1食160円ほどに収まるようにしているといいます。

また、買い物に行く際は、事前に買う物をメモし、衝動買いを防いだり、スマホで家計簿をつけて、月ごとの支出を1円単位で把握するなどして節約を徹底しています。

ただ、米や野菜などの価格の高騰が続く中、食費を少しでも抑えようと、食事を抜くなど無理をしてしまうこともあり、1人暮らしを始めた4月と比べ体重が4キロほど減ってしまったといいます。

安藤さんは「絶対に留学に行きたいと思っているので、その費用をためています。食料品の値段が日々、上がってきていると感じていて、この状況で節約をして貯金するのは本当に大変です」と話していました。

「フードパントリー」コロナ禍超えて利用者急増

都内のNPO法人が行う経済的に苦しい子育て世帯に食料品を無料で支援するサービスでは、利用者の登録がコロナ禍の時期を大きく超え、急増しています。

葛飾区のNPO法人「レインボーリボン」では、企業から寄付された米や野菜、缶詰などを月2回、無料で提供する「フードパントリー」と呼ばれるサービスを行っています。

NPO法人によりますと、利用者の登録数はコロナ禍でサービスを始めた2020年の時点で35世帯ほどでしたが、今月の時点では129世帯と、3.5倍以上に急増しています。

一方で、すべての人に提供するだけの食料品の確保も難しく、スタッフも足りないことから、ことし7月からは利用できる人数に上限を設けている状況だということです。

サービスを利用する50代の女性は、高校生の息子と2人暮らしで、事務仕事のほか、複数のアルバイトをかけ持ちして生活しています。

年収は200万円以下で、切り詰めながら生活していますが、米や野菜などの値段が上がり、家計は苦しい状況だといいます。

女性は「最近は何でも高いですが、子どもの食事だけは減らすわけにはいかないので、いつも感謝しています。食料品をもらっているおかげで肉などを買うことができ、とても助かっています」と話していました。

提供する食料品の一部は、NPO側が購入していますが、物価の高騰や利用者の増加で、去年と比べて費用が3倍以上になる見込みだということです。

NPO法人の緒方美穂子代表は「最近は年収300万円から400万円の人の登録もあります。物価高が年収の少なかった世帯を直撃していますが、中間層の家庭でも子育てにはお金がかかり、物価高の苦しさが及んでいるという実感があります」と話していました。

GDP 2期連続プラスも…

内閣府が15日に発表した、ことし7月から9月までのGDP=国内総生産は、前の3か月と比べた伸び率が実質の年率換算でプラス0.9%と2期連続でプラスとなりました。

個人消費にも持ち直しの動きが見られます。

ただ、企業の間で広がったこれまでの賃上げからすると、期待ほどには力強さが見られないという受け止めもあります。

生活に欠かせない食料品や日用品の値上がりが消費の伸びをおさえ、家計の消費意欲も高まりません。

足もとの円安基調が長引くことになれば、輸入コストによる物価の上振れにつながりかねません。

政府は近くまとめる経済対策で物価高対策や賃上げ環境の整備に力を入れる方針です。