男性よりも3割少ない? 女性の“老後リスク”と備え方とは

男性よりも3割少ない? 女性の“老後リスク”と備え方とは
「ここまで少ないのかって思いました。正直、生活できません」

短大卒業後に就職し、厚生年金保険料を25年以上納めてきたという40代の女性。それでも年金の見込み額が月11万円ほどだとわかりました。

ことし国が公表した「財政検証」で明らかになった、男女の年金の格差。
今年度50歳になる人が将来受け取る年金の見込み額(平均)は、男性が14万1000円に対して、女性は9万8000円と10万円を下回っています。

NHKで女性の年金に関するアンケートを行ったところ、300を超える回答がありました。多かったのが“私の年金は大丈夫なのか?”という現役世代からの不安の声。

悩みを抱える女性たちへの取材から、年金が少なくなる要因と対策を考えます。

(社会番組部ディレクター 山内沙紀 / 首都圏局ディレクター 立花江里香 / 福島局ディレクター 森紗和子)

※記事の最後に専門家からのアドバイスも掲載しています。

正社員で働いていても年金は月11万円

「独身で、正社員ではあるが給料も少なく、年金をもらえるようになった時、衣食住をまかなえない」
声を寄せたひとり、中国地方に暮らす40代の佐々木瞳さん(仮名)です。母親の介護をしながら、地元企業で正社員の事務職として働いています。

10年以上勤めてきましたが、ほとんど給料は上がらず基本給は14万円台。母親の国民年金4万円ほどとあわせて何とか生活しているといいます。

今の職場に勤めるまでも、企業の事務や臨時職員などで働き、社会保険料は25年ほど納めてきました。しかし、将来受け取る年金の見込み額を「ねんきんネット」で調べたところ11万円ほどだとわかり、不安を募らせています。
佐々木瞳さん
「これだけ給料が低いってことは、もらえる年金が少ないというのはわかっていたので…でも、ここまで(少ないのか)って思いました。自分の生活費は今でもマイナスの状態なんです。母親の介護がなくなったとしても、自分にかかるお金というのはこれから病気もするだろうし、正直、独り身だったら生活できません」
男性に比べて女性の年金が低くなる大きな要因の一つは、公的年金制度の“二階部分”、厚生年金にあります。
国民年金は20歳以上で60歳未満のすべての人が加入しますが、厚生年金は会社員や公務員が加入し、収入が高いほど受給額が増えていく仕組みです。

賃金が低いと納める社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料)が下がり、その分受け取る厚生年金も少なくなります。

女性は、男性に比べて昇進・昇給の機会が少ない傾向にあり、賃金が低く抑えられ、それが老後にも影響するのです。

年収240万円ほどの佐々木さんの場合も厚生年金の部分の見込額が4万3000円にとどまっています。

節約のため1日1食の日も…

佐々木さんは少しでも支出を減らすため、食事の回数を減らし1日に夕食のみのときもあるといいます。

収入をあげようと転職を考えていますが、要介護3の母親にはリハビリの付き添いが必要で働き方に制約があります。
さらに数年前に自宅で倒れてからは、仕事のある日も休憩時間にいったん家に帰り、母親の様子を確認して昼食を食べさせて戻ってくる生活をしています。

家から近い勤務先で、残業がなく、休暇も柔軟にとれることを条件にすると、今よりも収入の高い職場を探すことは難しいと感じています。
佐々木さん
「今、定時に帰らせてもらっているので、いくら給料が低くても(今の職場に)いるしかないのかな…。事務職は女性が多いんですけど、管理職にあがるのは男性ばかり。あとから入った若い男性には(昇進の)声がかかっても、女性は何をしても認めてもらえない。単身の女性の場合、今の生活も老後のことも一人でまかなっていくことを念頭に置いてもらえてないのかなって思います」

離婚も女性の低年金リスクに

介護の負担や賃金格差に加え、「離婚」も女性の年金が低くなるリスクのひとつです。

いま年金を受け取っている人の中で、「離婚」をした女性の63%が月10万円未満だといいます。

NHKのアンケートにも、離婚した後の老後に不安を募らせる声が寄せられました。
「25年間の婚姻期間中は国民年金だけ。日本の年金制度は夫婦ありきです。(夫の)年金分割をしましたが、私の年金に3万円ほど加算されるだけです。将来助けてもらえるのでしょうか」(宮崎県50代女性)

「週5日働いているけどパート扱いで厚生年金に入れず。シングルマザーで生活が苦しく国民年金の支払いも免除されていたので、年金定期便が届いて目を通すともらえる金額が最低限に近く、理不尽です」(東京都40代女性)
アンケートに声を寄せた50代の中田美沙さん(仮名)も、そうしたひとりです。
中田美沙さん
「離婚して一生懸命働いてきました。残業などが多いと子育てが十分にできないため転職もしてきましたので、現在、30年前と手取り額はほとんど変わりません」
専門学校を卒業してから20代で結婚し、離婚後は2人の子どもを育ててきた中田さん。

公務員や非正規の仕事を経て、今は保険会社で正社員として働いています。

入社してから給料はほとんど横ばいで年収300万円ほど。65歳まで働けますが、給料は下がる見込みです。
結婚前や婚姻中に厚生年金に加入していなかった期間が10年ほどあったため、年金の見込み額は月9万円ほどだとわかりました。

上の子どもは就職して独立しましたが、下の子どもはまだ大学1年生でこの先も学費がかかります。

さらに去年、自分にがんが見つかり手術をうけました。今後の医療費も考えると、現在の貯金額500万円ほどでは足りないと心配しています。
中田美沙さん
「離婚する時に老後のことなんて頭にありませんでしたが、10万円に届かない年金額を目の当たりにすると“夫婦モデル”じゃないと生活できないのかと思ってしまいます。離婚後は子育てと両立できる仕事を探して働いてきましたが、収入が低ければ社会保険料の納付も低いまま。65歳以降も健康でこのまま生活できたらいいけど、もし何かあったら厳しいと感じています」

40~50代女性は10万円未満!? 男女格差が明らかに

こうした単身女性の老後リスクが明るみになったのは、ことし7月。5年に1度、国が公表する「財政検証」で、初めて1人当たりの平均年金額の見通しが示されたのです。

これまで国は会社員と専業主婦の世帯を想定した「モデル年金」で公表してきました。夫婦2人なら、今年度は22万6000円です。
しかし今回の年金の推計値で、女性個人の年金額を試算すると、特に40代と50代の女性は平均で月10万円を下回ることがわかったのです。

単身で働いていない65歳以上の人の1か月の消費による支出はおよそ15万円。(総務省「家計調査」2023)

毎月5万円ほど足りない計算になります。
ニッセイ基礎研究所 準主任研究員 坊美生子さん
「月10万円未満の年金で生活する場合、単身で他に収入がなければ、いわゆる“相対的貧困”の状態に相当します。年金制度ができたのは60年以上前で、そのころとは社会の状況が大きく変わっています。単身世帯の増加や働き方の変化など、女性の生き方が多様化するなかで、女性個人としてのリスクが顕在化したと考えています」

非正規からキャリアアップを目指しても

「会社員の夫と、専業主婦のモデル世帯」から、女性が働き続ける社会へと変化するなか、はざまに置かれたのが今の40代から50代の女性たちです。

非正規雇用の増加や就職氷河期などを背景に、失業や転職を繰り返した単身女性からも不安の声が多く寄せられました。
「氷河期世代で、格差を自己責任と認知させられ本当に生きづらい。非正規雇用なので、何の仕事ができるのか、雇ってもらえるのか、住まいはあるのかなどなどを思うと、正直、長生きしたいと思えません」(東京都50代女性)

「大学を卒業しても正社員になれずバイト生活を5年。(国民年金の)未払い分を数か月分払いましたが、全額は納入できていません。ほかの方より年金は少ないと思っていますが、65歳になっても働ける自信はない」(長崎県40代女性)
「増えない年金と上がる物価にため息ばかり。正社員とちがい自助努力。平均給与よりずっと低いですが、50代後半でつける仕事は今よりずっと報酬は少ない。雇用の流動性は、中高年には難しい」
こう声を寄せた、50代の横山聡江さん(仮名)。

17年ほど、金融機関で契約社員として働いています。
横山さんは短大卒業後、キャリアアップを何度も試みてきました。最初は民間企業に正社員として入社しましたが、女性だと昇進できない組織風土に行き詰まりを感じて退職。

職業訓練でグラフィック企画を学び、印刷会社に再就職しました。営業の正社員として10年以上働きましたが、業績の悪化で会社都合の退職に。

再び職業訓練に通い、今度は証券外務員とファイナンシャル・プランナーの資格を取って今の会社に非正規雇用で再就職しました。
失業中は厚生年金に加入できなかったことに加え、再就職しても賃金が思うように上がらなかったため、年金は月13万円ほどになる見込みです。80代の母親と都内で同居していますが、もし老後に賃貸の家賃を払うことになればこの年金では生活が難しいと感じています。

横山さんは少しでも収入アップにつながればと、宅地建物取引士や、より高度な資格であるファイナンシャル・プランナー1級も取得しました。しかし登録した転職サイトでも思うような求人が紹介されないことに、もどかしさを感じています。
横山聡江さん
「資格があっても、この年齢まで非正規だと自分の経験やスキルを活かして、収入アップできる仕事がなかなか見つからない。国がリスキリングとかシニアのキャリア採用とか、人材の流動とか言ってもまやかしだと思ってしまいます。少しでもキャリアアップを目指しながら働き続けてきましたが、年金をどうすれば上げられるのかわかりません」

老後の年金 “損得だけで考えないで”

将来の年金に不安を抱える女性たちの相談に応じてきた、社会保険労務士でファイナンシャル・プランナーの井戸美枝さん。単身女性が抱える老後リスクについて、解決のポイントをききました。
<働いていても賃金が低い場合は…>
年金を増やす方法は、厚生年金保険料を「長く」「多く」納付することです。たとえばまだ40代なら、今後15年間、転職して年間給与200万円が300万円に上がれば、報酬比例部分の年金額は月7000円ほど増えます。小さい額に見えるかもしれませんが、受給を開始してから終身で受け取ることができると考えれば決して小さくありません。

また、今後はパートやアルバイトにも社会保険の適用拡大が進むので、元気なうちは「社会保険」に加入できる仕事を続けることをおすすめします。入院や通院で仕事を休むことになっても傷病手当金(病休期間中、給与の3分の2相当を支給)がもらえるため、年金以外の収入がなくなるリスクも減らせます。

親の介護などで働き方に制約があるという場合もケアマネージャーや行政などに相談して自分の負担を少しでも減らし、働き方の選択肢を増やせないかあらためて検討してみてはどうでしょうか。

<失業や離婚などで厚生年金の加入期間が短い場合は…>
年金の受給開始を65歳以降75歳まで1か月単位で繰り下げることでも、年金を増やすことができます。たとえば、中田さんの場合は65歳から年金を受け取ると月9万円ですが、70歳からに繰り下げれば月13万円ほどにアップします。ただ、70歳まで全く年金を受け取らずに生活するには、今と同じくらいの収入で仕事を続けなければなりません。

それが難しい場合は「厚生年金」だけ繰り下げて、「国民年金」(満額受給でおよそ月6万8000円)は65歳から受け取り、生活に必要な差額分だけ働いて稼ぐのがおすすめです。

繰り下げ受給を予定していたものの、病気などでお金が必要になったときは、5年分までさかのぼって過去の年金を一括で受け取ることもできます。年金の受け取りに関する相談は、全国の年金事務所や「街角の年金相談センター」で受け付けています。

<非正規雇用からのキャリアアップが難しい場合は…>
スキルや資格を身につけても、転職や職場での収入アップにつながりにくい場合、職場で許されているならば「副業」でチャレンジを始めることをおすすめします。たとえば横山さんの場合、宅建士の資格を生かして不動産業者で「重要事項の説明」などの独占業務を行う仕事を、すきま時間に「副業」としてやってみてはどうでしょうか。

50代は退職前の“助走期間”としてチャレンジができる時期。今の仕事以外の収入源を見つけておけば、65歳以降に働く選択肢が増え、年金で足りない部分をどう補うかイメージもわくと思います。

女性の生き方が多様化するなかで

「男女雇用機会均等法」が成立してから、来年で40年。老後の不安を訴える40代~50代の女性たちは、働く女性を取り巻く環境が変化する過渡期に生きてきました。

制度はできても、今回の男女の年金の格差は、今なお企業や家庭に根強くジェンダーギャップが残っていることを示しています。

取材のなかで、アンケートに声を寄せた50代の女性がこう言葉を漏らしました。

「独身の女性は透明化されていく。女性の多様性を認めてほしい」

これまでの“老後の暮らし”や“モデル年金”に当てはまらない、女性の働き方や生き方をどう救い上げていくのか。今後の年金制度の改正に注目していきたいと思います。

(10月29日「クローズアップ現代」で放送)
社会番組部ディレクター
山内沙紀
2013年入局
山口局、「おはよう日本」を経て、今年から「クローズアップ現代」のデジタル展開を担当
首都圏局ディレクター
立花江里香
2016年入局
名古屋局を経て2020年から首都圏局、社会保障や経済などをテーマに番組を制作
福島局ディレクター
森紗和子
2023年入局
「おはよう日本」を経て2024年から現所属