原付きバイク 国内で生産終了見通し どうなる生活の足?

原付きバイク 国内で生産終了見通し どうなる生活の足?
通勤・通学や買い物など生活の足として長年親しまれてきた原付きバイク。

総排気量は50cc以下で運転のしやすさや燃費の良さから根強い支持がありましたが、来年11月以降の排ガス規制の強化に伴い、バイクメーカー各社は国内生産を終了する見通しです。

私たちの生活の足はどうなっていくのでしょうか?

(経済部記者・小尾洋貴)

原付き人気の火付け役は「スーパーカブ」

原付きバイク普及のきっかけとなった商品と言えば、1958年にホンダが発売した「スーパーカブ」です。
馬力や燃費性能の良さだけでなく、スカートをはいた女性も乗り降りしやすいデザインなどユーザーの利便性を追求したことが支持され、日本のみならず、世界各国で売られるヒット商品となりました。

そば屋の出前などで目にした人も多かったのではないでしょうか。

日本での出荷台数は1981年に259万台と初めて200万台を突破し、翌1982年には278万台と過去最高を記録しました。

しかし、1990年代に入ると、景気の低迷や若者を中心としたバイク離れを背景に100万台を割り込みます。

その後も、免許が要らず比較的安価な電動アシスト自転車の登場などで出荷台数を減らしていき、ついに去年は9万台とピーク時の3%ほどに大きく減少しています。

販売減少に加え 排ガス規制強化の壁

原付きバイクの販売が減っていく中で、さらなる試練となったのが来年11月以降に適用される排ガス規制の強化です。

規制の強化はこれまでもたびたび行われ、メーカーは排ガスを浄化する技術の向上などで対応してきました。

しかし、今回の基準をクリアするには、エンジンの設計そのものを見直す必要があるといいます。
現在、国内で原付きバイクの生産を続けているのはホンダとスズキの2社ですが、両社とも規制の強化に伴い、生産を終了する方向で検討しています。

規制に適合するエンジンの開発が技術的に難しいうえ、市場が縮小する中で新たな投資をしても採算が取れないと判断したとみられます。

メーカーの関係者の中には「身近な乗り物として残したかったが、市場が縮小する中で収益性を考えるとやむをえない選択だ」と漏らす人もいます。

原付きバイクも「電動化」へ

足元の販売は激減しているものの、いまでも全国で430万台あまりの原付きバイクが保有されています。

このため、メーカーでは生活の足としての一定のニーズがあるとみて、いわば「原付きバイクの電動化」を進めようとしています。

自動車の世界でも急速に進む電動化の流れは、バイクにも及んでいるのです。
原付きバイク市場でおよそ5割のシェアを占めるホンダは去年8月、モーターで走行する電動バイクを発売しました。

持ち運びが可能なバッテリーを使う方式で、1回の充電で53キロ走行できるとしています。

1回の給油で300キロ以上走行できるエンジンと比べればはるかに短い距離ですが、バッテリーを交換すれば、充電を待つことなく走行し続けることがメリットだとしています。

この車種を含め、これまでに4車種を市場に投入していて、今後もラインナップを増やして販売を強化していく方針です。

走行距離の短さに加えて、現状では同じような性能の原付きバイクに比べると15万円ほど価格が高く、普及は進んでいませんが、生産台数を増やすことでコスト削減につなげたい考えです。

その一環として、来年春をめどにヤマハ発動機に電動バイク2車種を供給することにしています。
ホンダ 二輪電動事業課 武藤裕輔チーフエンジニア
「いま電動バイクは、かなり限定的な台数しか出せていないが、両社を合わせれば台数の効果が期待できる」

電動アシスト自転車みたいな電動バイク?

一方のスズキも原付きバイクに代わる製品として、新たな電動二輪車を開発しています。

今月、報道機関に公開したのが原付き免許で運転できる「電動モペット」と呼ばれるモーターとペダルがついた折りたたみ式の二輪車です。

法律的には原付きバイクになるため、ミラーやウインカーを備えているほか、運転するには原付き免許が必要で、こうした点は電動アシスト自転車とは大きく異なりますが、同じような使い方も可能です。

具体的には3つの走行モードがあり、電動バイクとしてモーターのみを使って走行すれば、1回の充電で20キロの距離を走行できます。

一方で、モーターをアシスト機能として利用してペダルをこげば、走行距離をさらに伸ばすことができるほか、モーターの充電がなくなっても通常の自転車よりはペダルが重いものの、ペダルのみの走行も可能です。
スズキ 二輪営業・商品部 福井大介チーフエンジニア
「世界的なカーボンニュートラルの流れは変えられない。いま原付きバイクに乗っている人やこれから必要になる人に向けて、第一弾として提案していこうと考えている」
会社では従来の原付きバイクにはない新たな価値を提供することで普及を図りたいとしています。

電動化でバイク4社が連携 普及への課題は?

また、電動バイクの普及に向けて、各社の間で連携を図る動きも出ています。

ホンダ、ヤマハ発動機、スズキ、川崎重工業の4社はバイクの電動化に向けて原付きクラスを想定した上で、バッテリーの規格を統一し、交換式とすることで合意しています。

さらに4社では2年前に石油元売り大手と提携し、東京や大阪などのガソリンスタンドで電動バイクのバッテリーを交換できる拠点の整備を進めています。

環境対策が待ったなしとなる中、各社とも電動化への取り組みを進めていますが、電動バイクの普及に向けては、価格面や走行距離で今も多くの課題があります。

日本自動車工業会が昨年度、バイクユーザーを対象に行った調査では、電動バイクの購入を検討するための条件として「購入価格が安くなる」が最も多い61%、次いで「走行距離が長くなる」の50%でした。
こうした中、低価格をアピールし、海外メーカーが日本市場に参入する動きも出ています。

中国のバイクメーカー・ヤディアは来年夏に原付きクラスの電動バイクを発売すると発表しました。

価格は10万円程度と、電動アシスト自転車より安い価格にする計画で、日本メーカーにとって強力なライバルとなる可能性もあります。

自動車ではすでにEV=電気自動車の販売で世界第2位のBYDが日本市場に参入していますが、バイクの分野でも中国メーカーとの競争が始まろうとしています。

新しい時代の原付きバイクの世界は?

私が子どもだった20年前には、まだ原付きバイクをよく街なかで見かけた記憶がありますし、高校生になる友人が原付きに乗る姿を見て、うらやましく思ったこともあります。

しかし、バイクメーカーを取材するようになった5年前にはその姿も少なくなっていて、少し寂しい気持ちもしました。

原付きバイクがエンジンからモーターへと姿を変えるとしても引き続き人々の生活を支える足として活躍してほしいと思います。

(9月24日 おはよう日本などで放送)
経済部記者
小尾 洋貴
2016年入局
岐阜局、静岡局を経て現所属
自動車業界を取材