【台風10号】なぜ急速に発達?歴代最強クラスも?【専門家QA】

台風10号の中心気圧は26日午後3時には980ヘクトパスカルでしたが、27日午後3時には950ヘクトパスカルに達し、24時間で30ヘクトパスカル下がって気象庁の当初の予報を上回り急速に発達しました。

この要因と今後の進路、防災上の警戒点について、台風のメカニズムに詳しい京都大学防災研究所・横浜国立大学の伊藤耕介准教授に聞きました。

高い海水温 + “無風状態” = 発達しやすい環境

Q。なぜ当初の予報を上回り、台風が急速に発達する事態になったのでしょうか。

A。台風の進路上の海域で、海面水温と少し深いところの水温がともに高い状態にあったということが挙げられると思います。

海面水温はもともと高い時期ですが、ことしは平年と比べて1度から2度ほど高くなっていました。

さらに、水深50メートル付近の水温をみると、26日の時点で台風が通過していた海域の温度が30度近くにまで達していて高い状態であることがわかります。

また、台風周辺には台風の構造を壊すような上空の風が吹いておらず、偏西風やチベット高気圧、太平洋高気圧のいずれからも離れた状態でした。

このため台風が発達しやすい環境が整っていたと言えると思います。

黒潮で今後も発達傾向か

Q。これまでは台風が発達しやすい環境が整っていたということですが、今後の状況はどうでしょうか。

A。引き続き、台風を発達させやすい環境が続くと思います。

今後も海水の温度が高いことに加え、台風がこれから通過することが予想されている鹿児島県の十島村付近には黒潮が流れています。

黒潮は暖かい海流で、深いところまで海水の温度が高いので、台風が海水をかき混ぜて温度を下げる効果がほとんど効きません。

加えて、今後も台風の周辺では台風を動かす風が弱く、遅い速度で移動するとみられることから、黒潮からのエネルギーの供給を長期間受けることが予想されます。

「歴代最強クラス」の可能性も 暴風 高潮 高波に厳重警戒

Q。台風は今後も発達する見通しだということですが、どの程度の危機感を持って行動していけばいいでしょうか。

A。今回の台風10号は、このまま発達すると九州などに上陸が予想される台風としては「歴代最強クラス」に近いような強さになるおそれがあります。

例えば、2022年の台風14号は940ヘクトパスカルで上陸しました。

このときは九州を中心に記録的な暴風や大雨となり、5人が亡くなったほか、3000棟あまりの住宅に被害が出ました。

今回は特に九州南部や鹿児島県の奄美地方を中心に暴風に厳重な警戒が必要です。

風が強まるということは、高潮や高波への警戒もよりいっそう高めていかなければいけないと思います。

さらに今回、暴風などと同じように警戒しているのが雨による災害です。

台風の進路予報には不確実性がありますが、今のところ3日から4日ほど台風が日本付近に居座る可能性があります。

このことによって、台風本体の雨雲に加えて、離れた場所でも大雨が長期間、同じ場所で降り続けるというシナリオも考えられます。

今後、台風はどこに?

Q。台風の予報円は大きいのですが、今後の進路はどうなりそうでしょうか?

A。世界各国の関係機関の台風の進路予報をみても定まっていないのが現状です。

上空の偏西風がどの程度南に張り出してくるか、予想が難しいためです。

引き続き、最新の情報をこまめに確認し、各地で自分が住んでいる地域の実情に合わせて防災対応を取ることが大事だと思います。

近年の事例は

暴風もたらした台風【2022年9月 台風14号】

近年、上陸時の中心気圧が低かった台風としては、2022年9月の台風14号が挙げられます。

このときは、一時、中心気圧が910ヘクトパスカルと猛烈な強さにまで発達し、数十年に一度しかないような大規模な災害の発生が予想されるとして、気象庁は鹿児島県に暴風や波浪、それに高潮の特別警報を発表しました。

その後、中心気圧が940ヘクトパスカルと大型で非常に強い勢力で鹿児島県に上陸しました。

これは、気象庁が1951年に統計を取り始めて以降で5番目の低さにあたります。

この時は九州を中心に広い範囲で暴風となり、鹿児島県の屋久島町小瀬田では50.9メートルの最大瞬間風速を観測し、各地で倒木が発生して停電も相次いだほか、九州や四国、近畿などでも複数の地点で、最大瞬間風速が40メートルを超えました。

また、台風本体や周辺の発達した雨雲がかかり続けたことで、宮崎県では線状降水帯が発生したほか大雨の特別警報が発表され、総雨量が9月の平年1か月分の2倍に達するなど記録的な大雨となりました。

高潮もたらした台風【2018年 台風21号】

2018年の台風21号では、関西空港で58.1メートル、和歌山市で57.4メートルの最大瞬間風速を観測しました。

関西空港では、沖合に停泊していたタンカーが強風で流され、連絡橋に衝突して一時、空港が孤立したほか、損傷した連絡橋の完全復旧までおよそ7か月かかりました。

さらに、屋根から転落するなどして14人が死亡しています。

さらに、大阪湾などでは大規模な高潮が発生し、関西空港の滑走路やターミナルビルの地下など広い範囲が浸水し、復旧まで17日間かかりました。

暴風の強さと被害について

暴風による災害で、被害が出る風速の目安です。

最大瞬間風速40メートルでは看板が飛び、走行中のトラックが横転します。

最大瞬間風速60メートル。

これは、時速に換算すると216キロ。

新幹線の速度に匹敵します。

倒壊する建物も出てきます。

最大瞬間風速80メートルは時速に換算すると、288キロにもなります。

暴風が吹くと、傘も、窓ガラスを突き破るような凶器となります。

台風が近づき、風が強まる前に、屋外にある傘や物干し竿など、飛ばされやすいものはしまって下さい。

雑巾や雑誌も、雨で濡れて重くなった状態で飛ぶと危険です。

雨戸を閉めるとより安全です。

雨戸がない場合も、段ボールで覆ったり、飛散防止用のフィルムを貼る対策が有効です。

停電や断水のおそれもあります。

最低でも3日分の食料や電池などを備えることが大切です。

対策は、風が吹き始めてからでは危険です。

台風が近づく前から行いましょう。

一方、台風の中心から離れていても、竜巻などの突風のおそれがあります。

雷や急な風の変化、周囲が突然暗くなるなど、積乱雲が近づく兆しがある場合は、ビルなどの頑丈な建物に移動するなどして安全を図って下さい。

室内にいる場合は、窓のカーテンを閉めて、窓の少ない部屋に移動して下さい。